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04 グレイグルーシュ辺境伯領での邂逅


メアリ王女殿下の護衛騎士を解任されたリリアナは、王宮で他の騎士たちと練習で一戦を交えたり、侍女として雑用もこなす。

更には侍女長から、私もロイヤル学園(スクール)の中等部に入学するようにお達しがあった。

それって、エスカレーター式に『バラあな』が開始されてしまうのと同義じゃないの!!

頭の中では、嫌だあああああ! って絶叫してるのに、命令に逆らえないってつらい……。


季節は冬になり、年越しは1週間の休暇をもらえたので、久し振りにカルダス男爵家に帰省した。

そこで私は思いもしない出来事に出くわすことになる。

カルダス男爵家は母の両親が未だ健在であった。

「お前のために用意して置いた」

と祖父に言われて何かと思えば、たくさんのご令息の釣り書きと姿絵を渡される。この時代の画伯が描いたと思われる姿絵は、顔の特徴を捉えきれず、私から見ればどの姿絵の男の人も『へのへのもへじ』にしか見えない。

「一体どんな男なら納得するんだ!!」

祖父は大変ご立腹だった。

いや、私まだ12歳よ?

「来い!」と祖父に腕を掴まれ引っ張られた先は、カルダス男爵家の建つグレイグルーシュ辺境伯領の領主館であった。

「そういえば、お前は領主様へのご挨拶はまだしていなかったな」

「……はい」


屋敷の入り口で挨拶すると、応接室に通され、領主に座るように促される。

「ほう、カルダス男爵にこんなにかわいらしいお孫さんが! おい、アルヴァードを呼んでこい」

領主は侍従に応接室へ『アルヴァード』が来るように命じる。

ドアがノックされ「父さん、呼びましたか?」と開いた扉から覗いた顔にリリアナは驚いた。


「……ア……アルヴィン!!」

「……リリアナ……?」

「お前たち、知り合いなのか?」

「うん、王都のタウンハウスで」


「リリアナ、僕の部屋で話そう」

アルヴィンに2階の部屋へ案内され、ソファに掛けてと言われ、ちょこんと座る。

アルヴィンは部屋のドアから顔を出して、廊下にいた侍女にお茶を2つ頼んだ。

「……最後のお別れから、2年振りよね?」

「僕にはもっと長く感じられた。ずっと、リリアナに会いたいと思ってた。会えて、すごく嬉しい……」

そう言ったアルヴィンは優しく微笑む。

ドアがノックされ、屋敷の侍女がお茶を出してくれた。

アルヴィンは人払いをする。

「……ずっと後悔してた。あの時に気持ちを伝えなかったことを、リリアナが好きだって」

リリアナは心臓がドクンと脈を打ったように思えた。

アルヴィンは席を立つと、リリアナの隣に座る。

「僕は君の婚約者になりたい」

私の瞳から視線を逸らさずに真剣な顔でそう言うと、アルヴィンはリリアナの右手をとって指に唇を落とす。

リリアナは驚いた。

前世の『えりな』の人生の中でも、これ程までに情熱的に求愛を受けたことはない。ましてや、リリアナはまだ12歳だ。

「誰か、好きな人がいるの?」

私はフルフルと頭を横に振る。

「……じゃあ、問題ないよね?」

「私……アルヴィンのことも、ナシュダールお兄様のことも同じくらい好きなの」

「えっ? 兄妹(きょうだい)だよね?」

私はアルヴィンの瞳を真っ直ぐに見つめる。

「……多分、お兄様と血の繋がりはないの。連れ子同士の親の再婚で」

「そういうことか……」

アルヴィンには何か合点がいくことがあったみたいだった。

アルヴィンはスッとリリアナに向けて両腕を広げると、顔を赤く染めて照れながら「抱きしめてもいい?」と訊く。

無言で頷くと、アルヴィンの腕の中にそっと優しく包まれる。

私のことを大事に思ってくれているのがひしひしと伝わってくる。

「髪の毛……短くなってもかわいい。僕以外の男に君の魅力を知られるのは正直言って嫌なんだ……ナシュダールも同じことを思っているはずだよ。僕に対して警戒しているようだったからね」

ナシュダールお兄様が私を好きだった?

妹としてではなく?

「……まだ、信じられない。僕の腕の中にリリアナがいるなんて……リリアナ、君と離れたくない……」

「アルヴィン……もう、離して……」

「僕は欲張りなんだ……もう少し、このままでいさせて」

アルヴィンの、男の子の匂いに包まれて私はクラクラしていた。何もかも初めてのことだらけで、何をすればいいのか分からない。

『えりな』は17年も生きていたのに、こういった事柄には経験ゼロで何の役にも立たなかった。

「僕の名前、アルヴァード・グレイグルーシュだよ。家名(ファミリーネーム)は教えてなかったかな? 覚えておいて」

アルヴィンはリリアナの額にキスを落とす。

「父親が辺境伯領の領主ってことすら知らなかったのよ」

軽く拗ねてみると、アルヴィンは驚いてすぐに表情を崩すと「ごめんごめん」と笑いながらリリアナに謝る。


「明日も会える? 食事して、僕の家族と一緒に年越ししようよ」

私が顔を真っ赤にして頷くと、アルヴィンは顔を(ほころ)ばせて満面の笑みを見せた。

その顔、(ずる)いなあ……私、アルヴィンのその顔が好きなのに……。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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