31 一触即発? コンラート vs. セドリック
リリアナはコンラートの背中に揺られていい気分だったが、次第に胃がムカムカして気持ち悪くなってきた。すぐに下へ降ろしてもらうと、繁みで胃の中の物を吐き出す。
「……げほ、げほっ……はぁ」
「どうした?」
「──妊娠、してるかも……」
「な……っ!? 相手は?」
「……セドリック・ロックウェル」
「ヤツならそこにいる。なんだ、ヤってたのか……クソが」
「セドリックは大人だもの」
「結婚も婚約もしていなければ避妊するのが大人の対応だろう?」
『えりな』はムカッ、と苛立つ。
「この世界の避妊ってどうするのよ!?」
「前世の世界と同じで、病院か薬屋で避妊薬を──」
「そんなの知らないわよ!! 私は経験せずに高校生で人生終わったの!!」
「……そうか、悪かったな」
コンラートが手を差し出すと、リリアナはその手を掴む。そしてリリアナの歩調に合わせて2人はゆっくりと繁みから抜け出た。
「「コンラーティシア様!」」「リリー!!」
セドリックはリリアナの前に掛け寄る。しかし、リリアナはセドリックから顔を背ける。
「……ごめんなさい。今も、その黒い軍服が……怖い……」
「そうだった……! すまない」
「セドリック様」
顔を背けたままでセドリックの名を呼ぶ。
「どうした?」
「……子どもは、好きですか?」
「いや、あまり……」
「……そうですか……」
コンラートはリリアナの腰を掴むと、持ち上げて自分の馬に乗せる。その様子を見ていたセドリックはコンラートをじっと睨みつけ、嫉妬心を剥き出しにする。セドリックに勝ち誇った顔を見せ、コンラートも馬に跨がる。コンラートはリリアナにぎゅっと抱きつかれ、悪い気はしなかった。
「……セドリックのヤツ、ヤるだけの最低な男だな」
(口が悪いわ……前世はプログラマーって言っていたけど、プログラマーって職業はストレス溜めてるのかしらね……)
「まずは帝都へ出て食事を摂ることにする」
馬たちは帝都に向けて一斉に駆け出す。
馬車ではないので到着時間は一刻も掛からなかった。
「私たちはリリーをルーデンベルク王国の王都まで連れていくつもりだ。セドリック殿はどこまで同行なされるのか?」
セドリックは少し考えてから、
「リリーの預け先まで同行する」
と爆弾発言をする。
「ルーデンベルクへ行くならその軍服は脱いで服を着替えてくれ。敵国なんだ、わかっているのか?」
コンラートは苦言を呈する。
「──ああ、そうだった。食事がてら服を調達する」
リリアナは「気持ち悪くて食べられない、匂いもダメ」と食事を遠慮した。
コンラートは露店でレモンの入った飲み物を買ってきてリリアナに渡す。
「さっぱりしてて美味しい! これなら飲める」
コンラートがリリアナに優しい笑顔を見せたので、リリアナは照れて顔を真っ赤に染める。
(コンラートさん……やだ、ドキッとしちゃった……)
ハッとして周りを見てみると、女性たちがコンラートを見てうっとりしている。コンラートの笑顔で恋する女性たちを量産してしまったようだった。
そこへセドリックが戻ってきて、リリアナに新しいローブを渡した。
「夕方になると冷え込む。馬に乗る時は必ず着ろ」
「あ、ありがとう」
「それと……さっきの『子どもは好きか』という質問だが、俺とお前の子であれば好きだ。子が、出来たのか?」
リリアナは顔を赤くして深く頷く。
「……俺の子、なのか?」
セドリックの顔を見て小さく「……はい」と答えた。
「──そうか」
セドリックが頬を赤らめて嬉しそうに笑うと、その周りでは淑女たちがバタバタと倒れていた。「〝氷の騎士〟様が笑顔を……」と呻いていたようだ。
明るいうちに帝都の繁華街から出て、馬に乗り先を急ぐ。
「フリスメッシュ領で宿をとって、明朝に出発する」
「───2人部屋と3人部屋のひとつずつしか空いてないね」
「「「えっ!?」」」
宿帳を見ながら宿の主人が「今日はあいにく満室なんです」と髪がない頭を掻いた。
「じゃあ、私が3人部屋に」とリリアナが言い出すと、コンラートとセドリックの2人が途端に嫌そうな顔をした。
「「何でこの男と俺が!!」」
(2人の息ピッタリなんだけど……)
「私、コンラートさんの部下たちと同じ部屋に」
「「それはダメ!!」」
(どうすればいいのよ……!)
夕食を食べて宿に戻ってくると、どっと疲れが出て、リリアナは3人部屋の真ん中のベッドに身体を投げ出すと、深い眠りに落ちた。
その様子を見たコンラートとセドリックは、渋々リリアナの両端のベッドに収まる。
夜が明け始めた頃、リリアナが目を覚ますと、目の前には整った顔立ちのコンラートが寝息をたてていた。
背中に温もりを感じる……自分の頭の下に太い腕があることにはたと気付いて、お腹に手を回しているのは、セドリックが密着しているのだとすぐに分かった。
(この状況は、非常にマズイ……)
顔を青ざめながら、お腹に手を回しているセドリックの腕を外し、腕枕から下にずれる。
ほっとしたのも束の間、腕をぐいと引っ張られ、リリアナの身体はコンラートの腕の中に包まれる。
「~~~~~っ!!」
(本当は起きてる……よね?)
リリアナはじっとコンラートの動きを観察した。2分経っても5分経っても、寝息しかしていない。
もう起きよう、とリリアナは身体を起こすと、ベッドに身体を押し付けられ、コンラートが覆い被さりリリアナの唇を塞いだ。
「───ん……!」
チュクっと唇を吸い、コンラートが頭を上げる。
「……朝、好きな人との口づけで目覚めるなんて、夢みたいだ」
コンラートがリリアナを見下ろして頬を染める。
「夢じゃないから!! 離れ……て!」
「リリーは俺のだ」
いつの間にか上体を起こしていたセドリックに、左手首を掴まれていた。
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