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03 逢いたくて逢えなくて


9月になり、アルヴィンは王都のロイヤル学園(スクール)の中等部に入学し、寮に入る。

ナシュダールとレイノルドも同じ学年で入寮したと聞き、部屋まで会いに行った。

「久し振りだなあ! また3人で遊べるな」

「リリアナは元気にしてる?」

「うちは今年の6月に親が離婚して母がリリアナを連れて行った。リリアナにはもう会えない」

ナシュダールはじわりと涙を浮かべた。

「「えっ!?」」


『リリアナにはもう会えない』と聞いて、アルヴィンはその日の夜、静かに枕を濡らす。

自分の淡い初恋は、あの時に終わったのだ……。

忘れなければならない───でも、すぐにはリリアナを忘れられなかった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


ジョキ……ジョキン。

「こんなに切らなくても……あなたは女の子なんだから」

「いいの! 剣術するのに長い髪は邪魔だから」

リリアナは長かった髪を惜しみ無く、男の子と同じくらいまで母に短く切ってもらった。

髪の毛が短いなんて女じゃないと思われるだろうけれど、女だと認識されなければ攻略対象者の目に止まることもないと思うのよね。多分、それは正しい……。

ハッと気付いた。

あれ? もしかして、ストーリーの舞台であるロイヤル学園(スクール)に入学さえしなければいいんじゃないの!?

うちは貧乏男爵だし、ロイヤル学園(スクール)に入るためには多くの寄付金が出せる貴族じゃないとダメだもの!

本来のストーリーに戻るためには『リリアナ・カルダス』ではダメでしょう?

『えりな』はしめしめとほくそ笑んでいた。


ただ、問題があるとすれば……私、何で攻略対象者の名前を忘れちゃったのよー!!

この国の王子様と、宰相の息子、騎士団長の息子、ロイヤル学園(スクール)の先生……

ああ~~~、百合に嵌まってたから男性キャラの名前なんて誰ひとりと覚えてないわよ!!

私に優しくしてくれた『エリー』様、『クララベル』様、『ナターシャ』様、『メアリ』様……。

……ロイヤル学園(スクール)に入らなければ、お姉様たちにも会えないのよね……。


ナシュダールお兄様……アルヴィン……レイノルド……元気かしら……?

リリアナは寂しさを剣術に没頭することで気を紛らわせる。剣術の腕はめきめきと頭角を現していた。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「リリアナ、奉公に出てもらえないかしら? 王宮の侍女見習いで行儀作法も身に付くわよ」

───ああ、子どもの私が働かないとダメなほど、うちって貧乏なんだ……。

2つ返事でリリアナは王宮の侍女見習いのテストを受けに行き、合格すると翌日には登城しないといけなかった。


「リリアナ・カルダス、11歳です。今日からよろしくお願い致します」

侍女長から執事長を紹介してもらい、リリアナは王女宮への配属が決まる。

「あなたはまだ直接メアリ王女殿下のお世話をすることはありませんから、他の侍女のお手伝いになりますからね」

「はい!」

王女宮で働く侍女たちを紹介してもらったが、人数が多くて顔と名前がなかなか覚えられない。

リリアナは初日からへとへとになってしまう。

ベッドに身体を投げ出すと、深い眠りに襲われた。

「ナシュダールお兄様……アルヴィン……レイノルド……」

会いたい人の名前を声に出すと、自然と溢れる涙を流してから寝付く日々だった。



「聞いた?」

「聞いた聞いた!」

何やら王女宮の侍女たちがそわそわしていた。

「……何かあったのですか?」

リリアナは侍女のひとりに訊いてみる。

「王太子殿下のご学業が長期の休暇に入るから王宮に戻ってくるんですって!」

「……そうなんですね」

リリアナはにこっと笑ったけれど、王女宮に仕える自分には何の関係もない話だと思った。

そう思っていた、この時までは……。


「王子殿下が見えたわ!」

「王太子殿下よ!」

どれどれ、と侍女たちの間からご尊顔を拝ませてもらうだけのつもりだった。


……え? レイノルド……?

───レイノルドが王太子殿下!?


……ちょっと待って……私たち……レイノルドに騙されていたの……?

───酷い裏切りよ……!!

……でも、レイノルドの顔を見てほっとしたのも本当。

このまま知らないふりをしてやり過ごそう……。

リリアナはレイノルドとは一度として顔を合わせることもなく休暇は終わり、レイノルドは学園へと戻っていった。


「……おかしいなあ」

レイノルドはポツリと呟く。

最近になって『リリアナ』という名の侍女見習いの子が王女宮に入ったと聞いたけれど、リリアナらしき子は見なかった。

人違いだったのかも……そう思い込むことにした。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


メアリ王女殿下もロイヤル学園(スクール)の中等部に入学することになり、リリアナはメアリ王女殿下の護衛に直々に抜擢される。

護衛騎士は帯剣が認められた。

「メアリ王女殿下、私をご指名くださいまして、ありがとうございます」

「リリアナ、私はあなたを気に入っているの。本当なら、同じ教室で学友になって欲しいくらいなのよ」

メアリはリリアナに柔らかく微笑む。

「そこまで言って頂けるとは光栄の所存です!」



メアリ王女殿下の護衛がかわいいという話題は、校内で持ちきりになり、他の学年にも噂が及ぶ。

授業中にも関わらずリリアナを見に来る生徒もあり、授業妨害にもなりかねないと、リリアナは早々にメアリ王女殿下の護衛騎士を解任されてしまう。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


ナシュダールは何かの見間違いではないかと思いたかった。

かわいいと話題のメアリ王女殿下の護衛騎士が、まさか自分の妹だっただなんて……!

髪の毛はかなり短く切り揃えていたが、あれはリリアナだった。

翌日、ナシュダールはアルヴィンを伴ってリリアナを見に行ったが、リリアナが解任された直後で、護衛騎士は別人であった。

「どうしたんだ、ナシュダール?」

アルヴィンはなぜ授業中に他の学年の教室棟へ連れてこられたのかを聞かされていなかった。

「アルヴィン……王女殿下の護衛騎士が、リリアナだった……」

「……まさか!?」

「俺が妹を見間違えるはずがないだろう! あれは絶対にリリアナだった」

授業中の教室のドアがガラリと開き、教師が顔を出す。

「授業中ですよ! どこのクラスの生徒ですか!」

ナシュダールとアルヴィンは慌ててその場から逃げ(おお)せる。

リリアナに会う手立ては一切無かった。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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