23 模擬剣での手合わせ
「や、夜会……ですか? 侍女としてセドリック様の送迎という意味ですよね?」
「違う、俺のパートナーとして連れていく」
(ヒイイィィ!! ロイヤル学園に通っていないのに、イベントが勝手にやってくる!!)
「……ああ、俺の弟とはまだ顔を合わせていないんだったな。ついてこい」
部屋を出て、右隣のドアをセドリックがノックすると、向こうから先にドアが開く。
「兄さん! そちらの侍女は……新顔だね」
短い銀髪に人懐っこそうな幼い顔の男の子がセドリックのことを“兄さん”と呼んだ。
「リリー、弟のテオドロスだ」
「初めまして、今日からこのお屋敷でお世話になります。リリーとお呼びください、テオドロス様」
テオドロスはリリアナの顔を見て、頬を染める。
セドリックの瞳は薄い水色だが、テオドロスは瞳が若葉の色をしていた。
身長はリリアナより少し高いくらいだ。兄のセドリックは高身長なので、きっと今は成長期、これから伸びてくるのだろう。
「兄さん、お願いがあるんだ! 僕と僕の友人のリチャードに剣術指南をして欲しいんだ」
「……俺はいつも暇じゃないんだぞ。それに、今日はたまたま休みなだけだ」
そうっとリリアナは手を挙げた。
「よければ私がみましょうか? テオドロス様のレベルが私よりも上なら出過ぎたことですが……」
「リリーは女だろう、剣術が出来るのか?」
「以前に王女殿下の護衛に就いていました。それではダメですか?」
「……王族の護衛か……テオドロス、一度リリーと模擬剣で手合わせしてみろ」
「ええっ!? 僕、手加減なんて知らないよ?」
「誰が手加減しろと言った? 本気でやれ! 今から庭でやるぞ、テオドロス!」
9月ももうすぐ終わりだというのに、傾きかけた西陽からの陽射しがジリジリと暑い。
リリアナはお仕着せのままで模擬剣を握って、同じく模擬剣を持ったテオドロスと対峙した。
「──始め!」
セドリックが開始の合図をして、2人から距離をとる。
先に飛び出したのはテオドロスだった。
リリアナは防御の構えに入る。左上部からの振り下ろしを剣で受け、払い退ける。そのままテオドロスの左脇腹を狙うが、大振りだったので防がれ、足を狙う。
テオドロスに動揺が見られた。
足への防御が遅れたことで、テオドロスは次の防御が間に合わないと踏んだリリアナは、一歩下がって大勝負に出る。真正面から振りかぶると見せて、右脇腹を狙うことにした。だが、上から振りかぶると、テオドロスの防御の型が見えたのでリリアナは狙いを変える。
腕を一旦引いて下からテオドロスの剣を弾き飛ばした。そして、リリアナは模擬剣を失ったテオドロスの首筋に模擬剣をピタリと当てる。
「──そこまで!」
「……すごいや」
テオドロスの友人のリチャードが呟く。
「私は合格でしょうか?」
「テオドロス、どうだった?」
セドリックがテオドロスに訊く。
「……ごめんなさい、女だからと侮っていました。僕の負けです」
テオドロスが素直に負けを認める。
「リリー、俺と一戦しよう」
「セドリック様と……ですか?」
セドリックはテオドロスが使っていた模擬剣を拾い上げ、構える。
「さあ来い、リリー。来ないならこっちから行くぞ」
「行きます!」
リリアナは真っ直ぐセドリックに向かっていく。
真正面から、真上から振りかぶる。身長差があるので簡単に弾かれる。それは想定内だ。
弾かれた剣を引いて、膝を狙う。自分の目線よりも下というのは防御への時間も僅かに遅れが生じる。リリアナはそれを狙う。
セドリックは高身長な分、膝への防御は俊敏ではなかった。チッと舌打ちすると、剣を持ち変えリリアナの攻撃を防いだが、もう一度剣を握り直して攻撃を仕掛けるには遅かった。リリアナの次の攻撃を払い、剣を自らの方へ引いた瞬間にリリアナの突きに怯み1歩下がると、セドリックは持っていた剣をリリアナの一打で叩き落とされ、ガランガランと模擬剣が転がった。
「……参った」
リリアナは肩で大きく息を吐く。
「──兄さんが……負けた……」
「リリー、強いな……! 俺自身、負けるとは思わなかった」
「私も剣を握るのは久しぶりでした。それにしても今日も暑いですね!」
リリアナは空いた手でパタパタと扇ぐと、その手をテオドロスに両手でぎゅうと握られる。それを見たセドリックは片眉がピクリと上がる。
「リリーさん! 僕とリチャードの剣術の先生になってください!」
「私が教えられることは少ないかも知れませんが、精一杯頑張ります! テオドロス様、リチャード様、よろしくお願い致します」
リリアナの笑顔に、テオドロスもぱあっと笑顔になる。
セドリックがテオドロスの両手首に手刀を落とす。
「……痛っ!! 兄さん!?」
「いつまでリリーの手を握ってるつもりだ……!」
「セドリック様、私には何でもございません。テオドロス様、大丈夫ですか?」
リリアナに覗きこまれたテオドロスの顔は真っ赤に染まっていた。
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