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20 奴隷オークション


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「パンが4点です」

4種類のパンをひとつずつ紙袋に入れていき、大きめの紙袋にそれらをまとめて入れる。

『えりな』の前世の世界では透明のビニール袋に包むのが当たり前だけど、この世界には石油を精製してプラスチック製品を生み出すという技術はまだない。

「技術特許申請したら一生お金に困らなそう」

リリアナはぽつりと呟く。

季節は9月に入った。

まだまだ射し込む陽射しはジリジリと暑い。

昼の3時過ぎともなると、残ったパンも少なく、客足は鈍くなりあっという間に暇になる。

店内に客が居なくなったら、商品が無くなった籠を回収していき、少しずつ店内を片付けていく。基本、パンは作ったその日のうちに全部売り切ってしまう。

バゲットが余るとラスクにして売ることは『えりな』の前世のパン屋ではよくあった。しかし、リリアナが勤めるこのパン屋『ラフラの店』はバゲットが特に人気で、売れ残ることはほぼ無い。

でも食パンが売れ残ることはたまにあるのよね……。


(売れ残った食パンがあれば、ラスクやフレンチトーストにして売ることが出来ないかなぁ? 奥さんに相談して見ようっと!)


ウキウキしていたから隙だらけだったのだろう。

それは、夕方5時前のバルへの出勤中に起こった。


狭い路地裏を通り抜けた直後のことだった。

「……うっ!」

後ろから来た人物に、丸い木の棒のようなもので後頭部をガツンと叩かれる。その途端にリリアナは意識を手放した。

次に目を覚ますと、両手を後ろ手に縄で縛られ、両足首も縛られて荷馬車の中で横に転がされている。叫びたくても、口の中に布が詰められ口を長い布で後頭部から縛られていた。

外の景色は見えないが、たまにチラチラと夜の闇が見える。どれだけ眠らされていたのか、時間も分からない。私の他にも同じように捕らえられている者がいるのは気配で分かる。

一体、何処へ向かっているんだろう……。


すでに2昼夜が過ぎた。空腹の極限状態を過ぎると、お腹が空いたと感じなくなるようだ。水はたまに飲ませてもらえる。

御者と馬は交代しながらなので、荷馬車が停まる様子はない。そう思っていたが、どうやら目的地は近いらしく、馬の速度が明らかに遅くなった。荷馬車ごと、大きな建物の中へ入っていったようだ。

馬の歩みが止まると、荷馬車に男が数人乗り込んで、私や他の捕らえられた者たちの足首の縄をナイフで切っていく。

ナイフを首に当てられ、「歩け! 荷馬車から降りろ!」と次々に降ろされ、私を合わせて6名は鉄格子の檻に入れられる。

全員が女性で、下は10歳くらいから上は私と同じ歳くらいに見える。

「今日は6人か」

頭領らしき男がひと通り品定めすると「こいつは上玉だ」とニタニタしながら上機嫌になる。

私たちの入れられた檻には常に3人の見張りがついていた。


(もうすぐ夕方だろうか……もう3日目だ……

ステラさんもパン屋の奥さんも心配してるだろうな……コンラートさんも……)


次第に何処からか、人の声やざわめきが聞こえてきた。大勢いるようだ。

「「「うおおおおぉ!!!」」」

ひと際高い歓声が上がる。

「おい! 一番小さい少女を出せ!」

頭領が見張り番に指示する。

見張り番が檻の鍵を開けて、ひとりの少女を引っ張り出し、また施錠される。私と同じように布で口を縛られていたが、布をほどかれた瞬間に「いやあ!」と(わめ)き暴れる。少女は片腕ずつ2人の男に掴まえられ、引っ張られていった。

暫くすると、わああああぁ、と歓声が上がる。

「次は、赤い髪の女だ! 出せ!」

頭領の言葉に見張り番がまた鍵を開け、指名した少女だけを出し、鍵を閉める。その少女もまた、男たちに引っ張られ、部屋から消えていく。

そして、最初の少女のように歓声が聞こえると、次の少女が檻から出されることを繰り返した。

リリアナは最後だった。

「出ろ!」

後頭部で結ばれていた布をほどかれ、口の中の布を抜かれる。後ろ手の縄だけは縛られたままだ。どこへ連れていかれるのか……断頭台なのか……?

頭領や男たちは顔に仮面を着けている。

「上がれ」と言われた場所を登ると、明るい所に出る。

「わああああぁ!!」

数百人は居るであろう、たくさんの貴族と思われる仮面を着けた男女がリリアナを見て大歓声が上がる。


(これは……何?)


「本日最後になります! この少女は金貨10枚から開始します!」

司会と思われる仮面の男が、木槌(きづち)でトンと机を叩く。

「20!」「30!」「50!」「60!」「70!」


(オークション……!!)


「80!」「100!」「110!」「120!」「130!」「150!」「160!」「170!」「200!」「210!」「220!」「250!」「260!」「300!」「310だ!」「350!」「360!」「400!」「410!」「450!」「460!」「500!」

「「「おおおおぉ!!!」」」

「それ以上、居ませんか? 居ませんね? 金貨500枚で落札です!!」と同時に木槌で机をトントンと2回叩かれる。


「良かったな、金持ちの貴族の奴隷に買われて! 一番稼がせてもらったよ」

と仮面を着けた頭領にニヤニヤされながら囁かれた。


(──奴隷……!?)


「来い!」

リリアナは服の襟を引っ張られ、バックヤードへ連れていかれる。

「この中に500枚ちょうどある」

私を落札した、仮面を着けた貴族が大きめの麻袋を台の上に置くと、ジャラっと音が鳴る。

「念のため、数えさせて頂きます」

「うむ」

30秒ほどで確認は終わり、「500枚、確かに。お買い上げありがとうございました。ふひひ」と頭領は不気味に笑い、リリアナを縛る縄の先を、金貨500枚を支払った貴族に渡す。


リリアナは「馬車に乗れ!」と言われ乗り込んだが、「座席に掛けるな!」と叱られたので床に膝をついて座らされる。

「私はロックウェル侯爵家で旦那様の秘書をしているクラレンスという者だ。ただの遣い走りだ」

右目だけ眼鏡を掛けた、金色のロングヘアをひとつに括った美丈夫はそう言った。

「あの……ロックウェル侯爵家はどこの国のお方ですか?」

「ガルシアナ帝国の北東に位置する領地だ」

「ガルシアナ帝国……!」


空が白んできた頃に、馬車は目的地のロックウェル侯爵家に到着した───。



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