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17 今の立ち位置を顧《かえり》みる


アルヴィンはこれまで逢えなかった時間を埋めるように、リリアナを求めた。


「さすがにお腹が空いた」

2人のお腹がぐ~っと鳴る。

アルヴィンが寝着を羽織って扉を開けると、2人分の食事を載せたワゴンが廊下に置かれていた。アルヴィンはワゴンを部屋の中に移動させる。

「私たちが部屋から出てこないから皆さん心配してくれたのね」

リリアナはクスッと笑う。


ワゴンに乗せられた食事のお皿をテーブルに並べ、2人で楽しく食べる。

「ごちそうさまでした!」

「前世の日本人のクセそのまま出てるぞ」

「だって、冷めてたけど本当に美味しかったんだもの……そうだ!」

食事を作ってくれた人へメッセージを紙に書く。


『ごちそうさまでした アルヴィン リリアナ』


テーブルの上の食器をワゴンに戻して、メッセージを添えて、ワゴンを部屋の外へ出しておいた。


「セントアルカナ公国へはいつまでいるつもりなんだ?」

「治療費の支払いが終わるまでなんだけど、この国に帰ってきてももう私の家は無いのよ」

私は脱いだ下着や服を拾って、1枚ずつ身に着けていく。

「支払いってどれだけ? 家ならナシュダールに、元家族に相談しないのか?」

「残りは銀貨5枚なの。ナシュダールお兄様に相談……?」

ハッ!! と気づいた。

ローズウッド家に私が戻ると乙女ゲームが始まるんじゃ……?

待って……今の状況って、攻略対象者(アルヴィン)婚約者(ベルナーゼ)がいて、ヒロイン(リリアナ)がアルヴィンに横恋慕してって……もうすでに乙女ゲーム(『バラあな』)の舞台が出来上がってるじゃない!!

しかもこれ、ベルナーゼから見たら私が悪役令嬢じゃないの!!

『えりな』は頭を抱えた。


「……アルヴィン、結論からいうと、あなたがベルナーゼと婚約が継続している限り、私はアルヴィンとイチャイチャ出来ない」

「何で急に……?」

「もう! 婚約期間中の不貞はどこの世界でも駄目に決まってるでしょ!! このままだと私が断罪されるの!」

「だ……断罪……?」

「極刑か娼館送りか修道院行きってことよ!」

「……せっかく逢えたのに……『えりな』をそんな目に遭わせたくない……」

ああ~~~、これは『陸』なのね。

「……だから、アルヴィンが婚約解消するまでは私、セントアルカナ公国にいるから。婚約解消ができたら私を迎えにきて! ……待ってるからね」

「リリアナ!」

アルヴィンが止めようとしたのを振り切り、私はアルヴィンの部屋から出る。そのまま玄関ホールまで速度を落とさずに歩き、執事や侍女たちに「お邪魔しました」とにっこり笑ってアルヴィンの領主邸を出てきた。

乗り合い馬車の停留所で待っていると、アルヴィンが私の元へ駆けつける。

「リリアナ!」

アルヴィンは私を抱きしめると、唇を奪った。

「……もう! 誰が見てるかわかんないのに!!」

「迎えに行く」

「……うん」

乗り合い馬車が来るのが見えると、2人は離れた。リリアナが馬車に乗ってアルヴィンに手を振ると、アルヴィンも手を振り返す。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


レイノルドは国境警備の者からリリアナ・カルダスがルーデンベルク王国へ入国し、翌日には平民のリリアナとしてセントアルカナ公国へ出国したことを知らされた。

コンラートもリリアナがセントアルカナ公国へ戻ってきたことを国境警備から情報を得る。


リリアナは最後の残り1日の休みを自室で過ごすことにした。ベッドで横になると、アルヴィンとの情交を思い出してはひとりで顔を赤くして身悶える。

ドアがノックされ、奥さんが「リリアナに来客だよ」と廊下からリリアナに声を掛ける。

階段を降りて裏口のドアを開けると、コンラートが立っていた。

「コンラートさん……」

「夕飯を一緒にどうかなと思って、誘いに来たんだ。少し時間が早いから近くの店でお茶でもと思ってね」

「着替えるので、少しお時間ください」

コンラートさんはいつ見ても装いが華美ではないけれど、高貴な気配を含んでいる。シャツ1枚見ても、襟や袖に金糸や銀糸を使った刺繍が施されていたり、靴は汚れもなくピカピカだ。そんな方に釣り合うような服を私は持っていただろうか?

この国に来た時は、持ち物もお金も持たずにいたのだから贅沢品なんてとてもじゃないが買えない。

……シンプルなワンピースにしよう。


「コンラートさん、お待たせしました」

「馬車を待たせてあるから、行こうか」

馬車に乗り込むと、やはりコンラートさんは私の隣に座る。

「リリー、首のところはどうしたの?」

「え?」

にこやかにしているように見えるけど、コンラートさんが、静かに怒っている……アルヴィンの付けた痕を見て───?

「……実家は田舎だから、虫に刺されたみたい」

「……そう、虫に……」

コンラートは窓の外へ視線を向けると、馬で並走している護衛になにかしら合図を送る。

「……悪い虫だ」

そう言うと、コンラートはリリアナの首筋の赤い痕の上から強く吸い付いた。リリアナから吐息が漏れると、その口を唇で塞がれる。

「僕以外の前では、そんな声を出さないで……」

耳元で囁かれる。

───えっ!?

コンラートさんがエロい……いや、セクスィーなんだけど!!

オトナの男の色香っていうか……。

もしかして……Rモードが発動している?

リリアナは両頬にコンラートの手を添えられ、舌と舌を絡ませた深い口づけをされる。

「参ったな……お茶どころじゃなくなってしまう」

コンラートはシャツの襟のボタンを片手でひとつ外し、クラバットを緩める。

『えりな』は覚悟した。


───フェロモンに()られる!!


殺虫剤かよ!


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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