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12 脱走劇


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


───1年後 隣国・ガルシアナ帝国───


「リリアナ! 今日こそは結婚に同意してもらいたい! 私と結婚して欲しい!」

「イヤ!!」

1年前に捕虜としてガルシアナ帝国に連れてこられて以降、リリアナに“自由”はない。

他の捕虜とともに地下牢に入れられる時に、どうやら第一皇子のヨハネスに見初められたようで、リリアナには特別な部屋があてがわれ、リリアナが16歳になると、毎日部屋にヨハネスが来ては“結婚”を迫られた。

「なぜだ!? そなたには何不自由ない生活を与えているというのに!」

「私をこの部屋に閉じ込めといて“何不自由ない生活”なわけないでしょ!!」

部屋にはシャワールームとトイレが完備されている。

ヨハネスをキッと強く睨みつけると、ぐいぐいと部屋の外へ追い出す。


「ルーデンベルク王国に……グレイグルーシュに帰りたい……」

ベッドに突っ伏して涙を流す。

アルヴィンに逢いたい……。

今までに何度願ったか分からない。

もしかして、私は帝国の者に殺されたと思われているのかしら?

私が生存している証拠があれば王国側から何らかの打診があるだろうけど、死んだ証拠も出さないから手の出しようがないってところなのか……。

チラリと部屋に備え付けられた鏡で自分の姿を確認する。亜麻色の髪に赤い瞳、顔立ちは整っていてとてもモブ顔とは言えない目立つ容姿だ。

部屋から出られるチャンスがあったとしても、侍女の服を手に入れない限り、外へ出ることもできないなんて……。



「リリアナ……私との結婚はどうしても嫌か……?」

翌日もヨハネスは私の返事を聞きに部屋へやってきた。

「……結婚式は……どこで挙げるの?」

今までとは違う応えに、ヨハネスは舞い上がる。

「だ、大聖堂だよ! 神の祝福を受けるんだ」

「どんなところなの? 見てみたい……って言ったら……連れていってくれるの?」

興味がないようにさりげなく訊いてみる。

「大聖堂へ行くなら、乙女は白い服、持ち物は白くなくてはいけない。今から用意させよう」

2人の侍女が白い衣装と靴を持って部屋に入ってくる。侍女たちにされるがままに、白い衣装に着替えると、初めて部屋から出ることができた。

馬車に乗るように促され、ヨハネスが向かいに座ると、馬車は護衛たちの馬に囲まれた状態で出発する。馬車の窓にはカーテンが引かれていたため外の景色はまったく分からない。出発から半刻が経った頃、馬車がゆっくりと停まる。

「リリアナ、降りるよ」

真っ白な建物の壁が、陽に当たるとキラキラと眩しかった。

「ここが大聖堂……」

ヨハネスと護衛に囲まれて、建物の中に入る。大聖堂の大広間には見事なステンドグラスの下にマリア像が置かれる。

マリア像を見つめると、自然と涙が溢れ出て止まらない。

「……美しい」

涙を流すリリアナを見て、ヨハネスがほうと呟くように言う。


「ごめんなさい、手洗いの場所を教えてくださるかしら?」

2人の護衛に手洗いの場所まで案内してもらっている間も涙が止まる気配はない。

手洗い場の入り口に護衛を待機させ、用を足し涙を無理矢理に止める。ここから外へ出る窓が小さいながらもひとつだけある。ここは1階だ。音をたてないようにそうっと窓を開けると、どうやら身体が通りそう。窓枠に登って窓を通り抜けると、そっと窓を閉めた。

───出られた!

リリアナは誰にも見られないように大聖堂の敷地から外へ出る。しかし、地理も方角もまったく分からない。どこかへ身を隠して、夜の暗い間に移動することにした。

ルーデンベルク王国は、ガルシアナ帝国の西方にあるということしか知らない。日の沈む方角を目指すしかなかった。


「探せ!! まだ遠くへは行っていないはずだ!」

リリアナが窓から逃げたことに気付いた護衛はヨハネスに報告すると、ヨハネスは急いで大聖堂の敷地や周辺を探させた。

夕刻になってもリリアナの手掛かりを見つけられなかったヨハネスは、城へ戻ってから国境の警備兵にリリアナを捕えさせるように命令を下す。



「……旦那様、ガルシアナ帝国側の国境で手配書が回っております。こちらになります」

グレイグルーシュ辺境伯は執事から渡された手配書の姿絵を見て、目を疑う。

「リリアナ嬢……! まさか、生きていたとは……」

「アルヴァード様にお伝えは」

「ならん! やっと諦めがついてドルマン伯爵令嬢との婚約が決まったところに水を差す訳にはいかん!」

伯爵は手配書を手でぐしゃっと丸めると、火の点いていない暖炉へ放り投げ、部屋から出ていく。

執事は暖炉の中へ手を伸ばして丸められた手配書を取り出す。紙についた灰を払い落とし、紙のシワを伸ばす。丁寧に小さく折り畳み、服のポケットに忍ばせる。

伯爵の目を盗み、封筒に折り畳んだ手配書を入れると、王宮に宛てて早馬を送り出した。



日没になると、リリアナは動き出した。何しろ、服が白いから目立つのだ。

ひたすら西を目指し、5日目にして国境に辿り着く。しかし、国境の道は検問所があり、そう容易くリリアナが通過できるとは思えなかった。

───山の中を通って検問をパスできないかしら……。


「いたぞーっ!!」

「少女だ!!」


───見つかった!?

リリアナは近くの茂みに飛び込むと、藪を掻き分けて奥へ奥へと進む。

もう少しで藪のないところへ出られるようだと足を踏み入れた途端に、リリアナは15メートル程の高さの崖から滑落した。



「リリアナが生きてる!?」

レイノルドは驚喜(きょうき)した。

「はい、先ほどグレイグルーシュ辺境領から早馬で隣国のガルシアナ帝国国境でリリアナ様の手配書が出回っていると、その手配書も同封されておりました」

レイノルドは手配書を見て確信した。

「リリアナだ……」

もう1年も前だ。グレイグルーシュ辺境領で帰省していたリリアナが、ガルシアナ帝国の襲撃に遭い、捕虜として連れていかれたのは……。

「リリアナが、生きて……」

でもなぜ1年もの間、何の音沙汰もなかったのか?

アルヴィンは知っているのか?

……知っているからグレイグルーシュ領から早馬が来たのだろうと結論付けた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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