10 アルヴィンの秘密
「ジェラルドとのこと、すごい噂になっているわよ」
昼休み、裏庭のガゼボで昼食をとりながらリリアナはミレーネと話をしていた。
今朝の始業前にミレーネに呼び出され、『転生者』だと打ち明けられた。リリアナも『転生者』だと告白し、情報を擦り合わせると、どうやら同じ時代を生きたらしい。
ただ、ミレーネの前世の方が『えりな』よりも後に早世しているため、『バラあな』の展開が『えりな』が知っているものとは多少異なっている。
「剣術の模擬対戦でジェラルドを仕留めただけなのに……それが何で婚約者……?」
「ジェラルドは王国騎士団団長の息子だからね」
「えっ、そうなの!? じゃ、じゃあ昨日殿下にパンツを脱がされそうになったのは?」
「王子に10回だったか20回抱きしめられると、Rモードが発動するように改変されたのよ」
「何それ!? 『バラあな』は18禁乙女ゲームになったの?」
「そういうこと。全年齢対象だと課金してくれないからでしょ」
「Rモードって、王子だけ?」
「……攻略対象者全員なんじゃないの?」
「今の私たち、日本でいうところの中学生よ? 攻略対象者からエッチな目で見られ続けるなんて精神が持たないわよ……ところで『辺境伯の息子は死亡エンド』ってどういうこと?」
「隣国に攻め入られて全員死亡。卒業よりも前に起こるの。攻略対象者の中で一番救いのないストーリー展開よ」
そんな……アルヴィン……!
私は両手の拳を膝の上で握り締めたまま俯き、静かに涙を流す。
「……彼が、好きなの?」
『えりな』は無言で頷く。
「本当は誰とも結ばれることなくモブになって消えるつもりだったの……でも……」
「……好きになったら仕方ないか……協力くらいはするわよ」
リリアナは顔を上げてミレーネを見る。
「ありがとう、ミレーネ」
『えりな』はミレーネと握手を交わす。
教室に戻ると空席が無く、空いているのはジェラルドの隣だけだった。ジェラルドの隣に座ると、左手を絡めとられ、指にキスを落とされる。
「……やめて。あなたの婚約者にはならない」
ジェラルドは目を剥いた。
「俺を誰だと……」
「私と同じ13歳、ただそれだけよ」
「……はは、同じだってか。いいよ、気に入った」
ジェラルドは不敵な笑みをリリアナに向ける。
「リリアナ!」
廊下からアルヴィンに呼ばれたリリアナは急いでアルヴィンの元へ駆けつける。
ジェラルドはその様子が面白くなかった。
───俺には冷たい顔を差し向けるのに、その男には笑顔を見せるのか───!
「アルヴィン! いないと思ったら……!」
「お兄様!」「ナシュダール!」
ナシュダールがリリアナとアルヴィンの間に割り込み、リリアナをガードする。
「ジェラルド、帰らないのか?」
ジェラルドはクラスメイトに帰宅を促される。
「ああ、もう帰る」
「リリアナ・カルダスを見てたのか? お前もよくやるよ、婚約者になってくれって」
「え?」
「だってさ、レイノルド殿下もリリアナ・カルダスに懸想しているんだろう?」
「……あ……」
昨日、王宮で俺が声を掛ける直前に『僕の部屋に戻ろう』とか言っていたような……俺がリリアナを医務室へ連れていくと言うと、殿下はさっさと立ち去った……。
あれは……殿下がリリアナに迫っていた……?
「……守らないと、俺がリリアナを───」
ジェラルドは拳を強く握り締める。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
───2年半後。
リリアナ、中等部3年の1月。
「アルヴィン、新年おめでとう」
「……リリアナ……」
アルヴィンは真剣な眼差しをリリアナに送ると、リリアナは顔を赤くして、そっと目を閉じる。
アルヴィンの顔が近づき、掬いとられるように唇を重ね、アルヴィンはリリアナの上唇と下唇の感触を確かめるかのように丁寧に食む。
そして、アルヴィンはリリアナを抱きしめる。
「アルヴィン……大好き」
「……僕はもう大好きだけじゃ足りないなあ」
「これ以上、何が要るの?」
「………」
「……なんで何も言わないの?」
「自制してるから」
『えりな』は不満だったが、リリアナが大きくなるまで恋人とのあれこれを待ってくれる彼氏なんて「最高!」と思っていた。前世の世界じゃ待てない男ばかりじゃないか。
───あれ? レイノルドは? ヤンデレだから極振りし過ぎかしら?
「僕はこれでも我慢してるんだけど」
……うん?
「リリアナを(ピー)して(ピー)も全部して(ピー)を存分に(ピー)たら僕の(ピー)をいっぱい(ピー)たい」
な、なんか放送禁止用語がアルヴィンの口からたくさん出てきたような……でも私の中のリリアナがフィルター掛けたわよ……。
「アルヴィン、私の心の準備ができるまで待って」
「待つ! 待つよ、僕がリリアナの(ピー)を(ピー)から。リリアナとセックスしたいんだ!」
セック……スにフィルター掛からなかったわ。リリアナが知らない言葉かしら?
「セック……スって(ピー)のことよね?」
「そうだけど……」
アルヴィンと『えりな』は分かるのにリリアナの知らない言葉ってこと!?
ま……さか……アルヴィン、あなた……。
「インターネット……iPhone……テレビ……」
『えりな』は前世の時代の物をいくつか言ってみた。
「……俺はAndroidしか使ったことない」
「アルヴィンも……転生者?」
「俺は『えりな』の10年後に死んだ。そしてこの世界に来た」
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