01 これが巷で話題の“転生”ってヤツ!?
───そうだ。
私は、乗り換える駅の階段を駆け降りていたはず……。
タンタンタンタンとリズム良く。
……でも、雨の日で床が濡れていて……。
そのあとは……? どうなったっけ?
ハッと意識が戻った気がして目が醒めた。
天井の模様が違う。
……私の部屋じゃないことは明らかだ。
ガバッと上体を起こすと、やけに自分の身体が小さいことに気付く。手も小さい。
ベッドからもぞもぞと降りると、部屋を見回し、何か手掛かりがないか探してみた。
本棚に並ぶ背表紙は日本語ではない文字がのたくっている。
本棚の隣の鏡台に映る自分の姿に驚いて、鏡に鼻の先が付くぐらいの勢いで覗きこんだわよ!
───リカちゃん人形!?
髪は落ち着いた亜麻色で、目はぱっちり赤色の瞳。
───カラコン……ではないみたい……。
眉毛も整えなくてもスッと流れるような綺麗な形。
鼻筋も唇の形も文句なしの美少女が、私になっている!?
───えっ!?
待って! ちょっと待って!!
私、私の名前!
『えりな』
思い出すのは日本人だった時の名前なんだけど、今の名前って……?
部屋のドアがノックされ、ドアが開くと、
「お嬢様? 起きましたか? リリアナお嬢様」
世界史の教科書の中世ヨーロッパの挿絵やコスプレ喫茶でよく見るロング丈のメイド服姿の女性が私を『リリアナ』と呼んだ。
「は……はい! 起きてます!」
「それはようございました」
よ……よかった──!! 言葉は通じる!
「あ……の……私の家……の……名前って……? な、何だったかしら?」
ゴクリと生唾を飲んだ。
「お嬢様、どうかなさいましたか? 『ローズウッド』家でございますよ」
───リリアナ・ローズウッド?
何だっけ……? 前世で聞いたことが、ある?
ローズウッド……薔薇……薔薇!!
『バラあな』!!
『薔薇色の日々をあなたと』、通称『バラあな』の主人公のデフォルトネームじゃなかった!?
……ってことは……ゲームの世界に転生……しちゃった……の……?
は…はは……笑うしかない……何で……何で……何で、生まれ変わった先がクソゲーの中の主人公なのさっ!!
【私が『バラあな』をクソゲーと罵る理由】
1、王子様がとにかく残念な性格、その他の攻略対象者も曲者ぞろい。
2、晴れて恋人になれても卒業イベントで断罪される。
3、男性を攻略するためにいろんなイベントがあるが、この世界のお金(つまりは課金しろ、と)で購入したプレゼント攻勢がより早く男性の心を掴むとか……運営会社の懐が潤うだけじゃないの!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は女子だけの高校に通っていた。
周りの男なんて年寄りの先生くらいで、通学中に男漁りしてる娘ばかりだった。
分からん……なぜみんなこんなクソゲーに嵌まったんだ?
ゲームの中の世界は、同性には優しい世界だった。
もう、ゲームの中の男なんて要らない!! とすら感じるほどに百合に嵌まりそうな自分もいたのは本当。
でも、女子高だから現実の身近なところで百合が展開されてるわけよ。ゲームでも百合をする自分。
ある時、3つ上の大学生の兄の言葉ではた、と気付いたわ。
『現実の男に相手にされないからって、ゲームで百合やるなよ』
それ以来、私は『バラあな』へのログインをやめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
子爵令嬢リリアナ・ローズウッド
現在、6歳。
「リリアナお嬢様、朝食のあとは読書でございます」
リリアナは小さいながらも、勉強などのスケジュールが毎日割り振られていた。
唯一の息抜きは、2つ上の『ナシュダール』お兄様。
お兄様がお茶に誘ってくれたり、庭で一緒に遊んだり。この世界の文字の読み方もお兄様が教えてくれたおかげで、困ることはなかった。
お兄様の髪色は明るい黄土色。瞳はお父様と同じく薄い水色。
私の赤い瞳はお母様と同じだった。
お兄様は近所の貴族の子どもたちとも仲が良かった。
私には友達と言える子は居なかった。
唯一同い年で隣に住んでるベルナーゼ・ドルマン伯爵令嬢はよく私に絡んできた、悪い意味で。
ベルナーゼは私のお兄様が好きだったようで、事あるごとに私を仲間外れにしたがったが、お兄様はそんな私をいつも助けてくれた。
それがベルナーゼの癪に障ったらしく、それからずっと付きまとわれるようになった。私の足元を掬いに来るという悪い意味で。
こうなったら……ベルナーゼと王子様をくっつけてやる!!
私の中で何かがメラメラと燃えていた。
ロイヤル学園への入学から始まるゲームイベント開始まで、あと10年───。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ブックマークは作者が喜びます!