6話
その様子を見て私は思わず姿勢を正した。
何かまずいことでもしてしまっただろうか? そんな私に気づいたのか村長は慌てて手を振った。
「いえいえ、そうではありません!タクミさんが何かしたというわけではなくてですね……」
村長はロゼに目配せをすると彼女は静かにうなずいた。
するとロゼは別室から一冊の本を持ってきたのだ。
「これは……日記?」
私が尋ねるとロゼはうなずいた。
「中を見せてもらっても?」
「はい」
私は差し出された日記を受け取った。
表紙には『異世界召喚』と書かれていた。
(ん?なんだこれ?)
私が不思議そうな顔をしているとロゼが説明してくれた。
「これは勇者様が残された唯一の手がかりなんです」
4日目(冬)
窓から差し込む朝日で目を覚ますと、私はベッドから降りた。
隣のベッドではカイル君がまだ寝息を立てている。
(昨日はよく眠れたみたいだな)
私はカイル君を起こさないように静かに部屋を出た。
1階に下りるとすでに食卓にロゼの姿があった。
「おはようございます、ロゼさん」
「おはようございます、タクミさん」
挨拶を交わすと私は席に着いた。
(あれ?)
昨日まで隣にあったはずの彼の荷物がなかった。
私は気になって尋ねてみた。
「あのカイル君は?」
するとロゼは悲しそうにうつむいた。
(しまった!聞いちゃいけないことだったか)
私が慌てて謝罪の言葉を述べると彼女は首を横に振って微笑んだ。
「大丈夫ですよ、気になさらないでください」
しかしそう言う彼女の顔は明らかに無理して笑っているように見えた。
ロゼは私に対して気を使ってくれているのだろう。
私は心の中で彼女に感謝した。
「それでカイル君はどこに?」
と尋ねると、彼女は窓の外を指差した。
そこには村の子供たちと一緒に剣の練習をしているカイル君の姿があった。
(ほう……)
私は感心していた。
彼はどうやらこの村の子供たちの人気者のようだ。
子供達に囲まれて楽しそうに笑っている姿を見ていると自然と笑みがこぼれてしまうほどだった。
「カイルさんはこの村のヒーローなんです」
とロゼは笑顔で話してくれた。
(なるほど、確かに彼は子供達にも好かれているようだな)
私がそんなことを考えながら窓の外を眺めていると、村長が声をかけてきた。
「おや?タクミさんもご覧になってましたか?」
私に気づいたらしい村長は嬉しそうに近づいてきた。
私は頭を下げると挨拶をした。
「おはようございます、村長」
すると村長はにっこり微笑んで言った。
「いえいえこちらこそタクミさんのおかげで助かりました」