一〇三八号と一〇三九号と一〇四〇号
◆side:???
『一〇三九号。この浮島にはね、聖女様がいるんだよ』
『せーじょ様?』
遥か昔。
私は王都の地下で被験体一〇三八号達と出会った。
『うん。被験体九〇二号が言ってた。聖女様は困っている人を助ける優しい人だって』
王都の地下。
飼育所と呼ばれる檻の中。
私の同室である被験体一〇三八号──私よりも小さい女の子──は、誰かから聞いた話を得意げに述べた。
『だからさ、いつかウチらも聖女様が助けてくれると思う。うん、きっとそうだ」
『救ってくれる訳ないじゃん、一〇三八号ってば夢見過ぎ。というか、本当に困っている人を助けてくれる優しい人だったら、とっくの昔に私達は救われているって。ねぇ、あんたもそう思うでしょ一〇三九号」
つまらなそうに唇を尖らせながら、一〇四〇号──私よりも大きい女の子──は私に同意を求める。
どう答えたら良いのか分からなかったので、私は強張った笑みを浮かべるので精一杯だった。
「まあ、仮に聖女が困っている人を助ける優しい人だったとしても、私みたいな売女の娘を助けたりしないだろうしね。ほら、聖女って清廉潔白らしいじゃん?」
そう言って、一〇四〇号は自らを蔑むように明後日の方向を見つめると、力無く笑う。
昔、一〇四〇号は言っていた。
自分は売女の娘である事を。
男を性的に悦ばせる事に特化した女から産まれた事を。
物心ついた時から売女から男の悦ばし方を習った事を。
男の悦ばし方を熟知した結果、雄の臭いが身体の芯までこびりついた雌になってしまった事を。
そして、金貨二枚で売女に売られた事を。
昔、一〇四〇号は泣きそうな顔をしながら言っていた。
「というか、その聖女様ってアレでしょ? 王族の女でしょ? 私達を金で買った王族の一員が助ける訳ないじゃん。今の私達は使われるだけの道具。そんな道具に救いの手が差し伸べられると思う?
聖女様が助けるのは人間だけじゃないの?」
唾を吐き捨てるように、一〇四〇号は一〇三八号の希望をへし折る。
その所為で、一〇三八号は泣きそうな表情を浮かべていた。
悲しそうな表情を浮かべる一〇三八号を見て、一〇四〇号は鼻を鳴らす。
そして、眉間に皺を寄せると、まるで自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎ始めた。
「誰かに助けて貰おうなんて考えない方がいいわよ。いつだって信じられるのは自分だけ。誰かに命運を託していたら、得る筈だった希望も手から溢れ落ちてしまうわ」
そう言って、一〇四〇号は私達の目を見つめる。
私達の目を見つめながら、『此処から脱出しましょう』と呟く。
「金は私が稼ぐ。夜の街だったら、あんたらの食い扶持なんて余裕で稼げるだろうし。脱出後の生活は私が何とかするから、あんたらは私に力を貸して。此処から出るための方法を私と一緒に考えて」
一〇四〇号の瞳には蝋燭の火のようなものが灯っていた。
その頼りないけど私達にとって明るい光を見て、私も一〇三八号も希望を見出してしまう。
此処から出られるという希望が、人間として生きられるんじゃないかという期待が、私達を絶え間なく刺激する。
それ程、今の道具にとって一〇四〇号の提案は希望に満ち溢れたものだった。
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次の更新は7月3日(水)20時頃に予定しております。




