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反動と本質と最悪

 緑に染まった肌。

 ドブみたいな色をした鱗に覆われる両腕。

 膨張した胴体によってビリビリに引き裂かれた衣服。

 私の太腿よりも長くて太いトカゲのような尾。

 丸太みたいに太い両脚。

 爬虫類を想起させる顔。

 大きく裂けた口から生え出る牙。

 そして、背に生えた翼。

 正真正銘、異形(オーガ)と化した先代聖女の身体が足下に広がる湖に叩きつけられる。

 私の義母だった化物は『ギィっ……!』と人間らしくない断末魔を上げると、苦しそうに顔を歪ませた。


「……サンタ、もしかして、この武器は……」


「お前の、……思っている通りだ」


 息を荒上げながら、サンタは視線だけを私の方に向ける。

 まだ戦いが終わっていないのか、サンタは先代聖女の動向を伺い続けていた。


「此処にある全ての武器……心器(アニマ)の中に収めているモノは、……俺が、……世界中を駆け巡り、生涯かけて掻き集めた……神造兵器だ」


「じゃあ、サンタの心器(きりふだ)って、……この心器(なか)にある神造兵器を自由自在に操る力……なの?」


「あ、……ああ、大体その理解で、……合ってる。武器も、……モノも、神造兵器も、……心器()の中にあるモノだったら、全て、自在に操れ……る」


「だ、大丈夫、サンタ。めちゃくちゃ疲れているように見えるけど」


「すまねぇ、……まだこの心器(アニマ)を使いこなせてなくてな……魔力はそこまで消費しねぇが、……体力と集中力を、……かなり消耗しちまう。ちょっと使っただけで、このザマだ」


 サンタが今の今まで心器(きりふだ)を使わなかった理由を何となく察する。

 多分、この心器(きりふだ)は連発できない代物なんだろう。

 心器(きりふだ)を連発できないから、今まで出し渋っていたのだろう。

 

「……サンタ、治癒魔術を」


「……いい。あんまり魔力を消費しねぇように、気をつけたんだ。お前が魔力を使ってしまったら、水の泡になっちまう」


 思い出す。

 私がサンタに魔力を提供している事実を。

 サンタがあんまり魔力を使わない所為で、すっかり忘れていた。


「で、でも、そんな状態で本当に大丈夫なの?」


「今の状態でも、……先代聖女だけは倒せる」


 そう言って、サンタは『何か』を手元に呼び寄せる。

 手元に呼び寄せた『何か』を私に投げ渡した。

 『何か』を受け取る。

 『何か』の正体は聖女の証だった。


「エレナ、……お前は善良な人間じゃねぇ。どっちかというと、悪だ」


「いきなり何言ってんの、ちょっと傷つくんだけど」


「悪口じゃねぇ。事実だ。お前という人間の本質は善寄りじゃねぇ。聖女という(しがらみ)があったから今まで辛うじて善側に立つ事ができていたけど、本能に赴くままま動いたり、正義感を暴走させたりしてしまうと、お前は悪側に転じてしまう」


「ねぇ、サンタ。もう少し手心加えてくれない? サンタの言葉、ちょっと精神的にくるものがあるんだけど」


「自分の(つみ)──自分の気持ちと向き合おうと『決めた』だけじゃ、……まだ足りねぇ。……自分の本質と向き合ってこいって事だ」


 自分の気持ちを蔑ろにするな。

 自分の心が求めているものを自覚してこい。

 そう言って、サンタは私を一瞥する。

 彼の視線は今まで見た事がないくらい優しくて温かいものだった。


「──俺が先代聖女を何とかする。だから、エレナはアイツを何とかしてくれ。大丈夫、アイツ相手なら俺よりも『今の』お前の方が勝算が高い」


 そう言って、サンタは私を心器(アニマ)の外に追い出す。

 私の視界に映っていた景色が一変する。

 サンタの姿も立ち上がろうとしていた先代聖女も、地平線の彼方まで広がる湖も、心奪われる程に綺麗な星空も、私の視界から消え失せる。

 神殿の一室──王の間に放り出される。

 天井が仄かに発光した部屋に辿り着く。

 窓も家具も見当たらない。

 誰かが定期的に掃除しているのだろうか。

 窓がないにも関わらず、人が使っている痕跡が一切見当たらないにも関わらず、埃どころか汚れ一つ見当たらない部屋に辿り着く。

 部屋の中心には宝箱が鎮座していた。

 その横に光り輝く大きな繭が鎮座している。

 光り輝く大きな繭──中に魔王が入っている球状の物体を見て、ようやく気づく。

 サンタの言葉の意味を。


(もしかして、サンタは……聖女の証で魔王を封印しろって言いたかったの?)


 考えている暇なんてなかった。

 急いで完全復活しようとしている魔王を封印しようとする。

 聖女の証に魔力を注ぎ込み、眉の中にいる魔王を封印しようと試みる。

 だが、魔王は私とサンタの想定を上回った。


「………」


 藍色の炎が繭の中から噴き出る。

 繭の中から出てきた人型の炎を見て、私は思った。

 思ってしまった。

 最悪の事態が起きてしまった、と。


 ──魔王復活まで残り0秒。


いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は3月30日(土)20時頃に予定しております。

 リアルの方は忙しいままですが、来月応募する予定の公募小説が完成したので、4月以降は「聖女とサンタ(略)」の完結に注力したいと思います。

 恐らく残り15〜20話くらい(もしかしたら、それ以上になるかも)で完結できると思うので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。


(追記)

 申し訳ありません。

 ちょっとリアルが忙しいので、次の更新は4月6日(土)22時頃に変更させて頂きます。

 本当に申し訳ありません。


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厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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