反動と本質と最悪
◇
緑に染まった肌。
ドブみたいな色をした鱗に覆われる両腕。
膨張した胴体によってビリビリに引き裂かれた衣服。
私の太腿よりも長くて太いトカゲのような尾。
丸太みたいに太い両脚。
爬虫類を想起させる顔。
大きく裂けた口から生え出る牙。
そして、背に生えた翼。
正真正銘、異形と化した先代聖女の身体が足下に広がる湖に叩きつけられる。
私の義母だった化物は『ギィっ……!』と人間らしくない断末魔を上げると、苦しそうに顔を歪ませた。
「……サンタ、もしかして、この武器は……」
「お前の、……思っている通りだ」
息を荒上げながら、サンタは視線だけを私の方に向ける。
まだ戦いが終わっていないのか、サンタは先代聖女の動向を伺い続けていた。
「此処にある全ての武器……心器の中に収めているモノは、……俺が、……世界中を駆け巡り、生涯かけて掻き集めた……神造兵器だ」
「じゃあ、サンタの心器って、……この心器にある神造兵器を自由自在に操る力……なの?」
「あ、……ああ、大体その理解で、……合ってる。武器も、……モノも、神造兵器も、……心器の中にあるモノだったら、全て、自在に操れ……る」
「だ、大丈夫、サンタ。めちゃくちゃ疲れているように見えるけど」
「すまねぇ、……まだこの心器を使いこなせてなくてな……魔力はそこまで消費しねぇが、……体力と集中力を、……かなり消耗しちまう。ちょっと使っただけで、このザマだ」
サンタが今の今まで心器を使わなかった理由を何となく察する。
多分、この心器は連発できない代物なんだろう。
心器を連発できないから、今まで出し渋っていたのだろう。
「……サンタ、治癒魔術を」
「……いい。あんまり魔力を消費しねぇように、気をつけたんだ。お前が魔力を使ってしまったら、水の泡になっちまう」
思い出す。
私がサンタに魔力を提供している事実を。
サンタがあんまり魔力を使わない所為で、すっかり忘れていた。
「で、でも、そんな状態で本当に大丈夫なの?」
「今の状態でも、……先代聖女だけは倒せる」
そう言って、サンタは『何か』を手元に呼び寄せる。
手元に呼び寄せた『何か』を私に投げ渡した。
『何か』を受け取る。
『何か』の正体は聖女の証だった。
「エレナ、……お前は善良な人間じゃねぇ。どっちかというと、悪だ」
「いきなり何言ってんの、ちょっと傷つくんだけど」
「悪口じゃねぇ。事実だ。お前という人間の本質は善寄りじゃねぇ。聖女という柵があったから今まで辛うじて善側に立つ事ができていたけど、本能に赴くままま動いたり、正義感を暴走させたりしてしまうと、お前は悪側に転じてしまう」
「ねぇ、サンタ。もう少し手心加えてくれない? サンタの言葉、ちょっと精神的にくるものがあるんだけど」
「自分の命──自分の気持ちと向き合おうと『決めた』だけじゃ、……まだ足りねぇ。……自分の本質と向き合ってこいって事だ」
自分の気持ちを蔑ろにするな。
自分の心が求めているものを自覚してこい。
そう言って、サンタは私を一瞥する。
彼の視線は今まで見た事がないくらい優しくて温かいものだった。
「──俺が先代聖女を何とかする。だから、エレナはアイツを何とかしてくれ。大丈夫、アイツ相手なら俺よりも『今の』お前の方が勝算が高い」
そう言って、サンタは私を心器の外に追い出す。
私の視界に映っていた景色が一変する。
サンタの姿も立ち上がろうとしていた先代聖女も、地平線の彼方まで広がる湖も、心奪われる程に綺麗な星空も、私の視界から消え失せる。
神殿の一室──王の間に放り出される。
天井が仄かに発光した部屋に辿り着く。
窓も家具も見当たらない。
誰かが定期的に掃除しているのだろうか。
窓がないにも関わらず、人が使っている痕跡が一切見当たらないにも関わらず、埃どころか汚れ一つ見当たらない部屋に辿り着く。
部屋の中心には宝箱が鎮座していた。
その横に光り輝く大きな繭が鎮座している。
光り輝く大きな繭──中に魔王が入っている球状の物体を見て、ようやく気づく。
サンタの言葉の意味を。
(もしかして、サンタは……聖女の証で魔王を封印しろって言いたかったの?)
考えている暇なんてなかった。
急いで完全復活しようとしている魔王を封印しようとする。
聖女の証に魔力を注ぎ込み、眉の中にいる魔王を封印しようと試みる。
だが、魔王は私とサンタの想定を上回った。
「………」
藍色の炎が繭の中から噴き出る。
繭の中から出てきた人型の炎を見て、私は思った。
思ってしまった。
最悪の事態が起きてしまった、と。
──魔王復活まで残り0秒。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
次の更新は3月30日(土)20時頃に予定しております。
リアルの方は忙しいままですが、来月応募する予定の公募小説が完成したので、4月以降は「聖女とサンタ(略)」の完結に注力したいと思います。
恐らく残り15〜20話くらい(もしかしたら、それ以上になるかも)で完結できると思うので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。
(追記)
申し訳ありません。
ちょっとリアルが忙しいので、次の更新は4月6日(土)22時頃に変更させて頂きます。
本当に申し訳ありません。




