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自己犠牲と歪む景色と隠れんぼ

◆side:サンタ


『正当防衛? これが?』


 王国劇場。

 無数の十字架と死体が連ねる舞台の上。

 オーガ達に追い詰められた女性の姿を俺──クラウスは注意深く観察する。


『正当防衛にしては、やり過ぎだ。本当にここまでやる必要があったの?』


 劇場みたいな建物の屋根には大きな穴が空いていた。

 その穴の中にいる僧侶みたいな格好をした女性と異形(オーガ)達を、俺は見下ろす。

 舞台の上に立った女性は得体の知れない感情に、高揚感覚に似た何かに支配されていた。

 

『先代の聖女は言っていた。「人も命を糧にする獣けだものだ。幾ら綺麗事で濁そうと、生きるために必要な殺しは存在する。それは紛う事なき真理だ」、と』


 僅かに身体を揺らしながら、微かに指を動かしながら、女性は人々の視線を惹きつける。

 それを見て、俺は思った。

 『この状況で彼女を野放しにするのは、危険過ぎる』、と。


『貴方達が貴族(この)人達を殺したのも、生きるために必要な行為だったのかもしれない。だから、私は否定しない。でも、これはやり過ぎだ。奪った命を辱める殺し方だ。心の底から殺人を愉しんでいないと、こんな殺し方はできない』


 彼女の所作(どうさ)は美しかった。

 万人を虜にする魅力を有していた。

 多分、あれだけの技術があれば、人心を掌握する事なんて容易だろう。

 あの所作が意図的かどうか知らねぇが、あれだけのカリスマ性を持っているんだったら、何とかなるだろう。

 わざわざ俺が干渉しなくても、この危機を乗り切れるだろう。


『貴方達は糧にした命の尊厳を踏み躙った。人として、生物として、あるまじき行為を行った』


 にも関わらず、女性は異形(オーガ)と化した人達を煽り続けた。

 命の危機に陥っている事に気づいているにも関わらず。

 彼女は人々の神経を逆撫でるような事を言い続けた。

 

『奪ったおかした(つみ)から目を背けるな』


それを見て、俺は確信する。

 彼女が目の前にいる異形(オーガ)達を救おうとしている事を。

 彼等を救うために自らのの身を削ろうとしている事を。

 

(つみ)を奪ったおかした自分から逃げるな』


 自己犠牲を否定するつもりはない。

 だが、彼女みたいに自分の事を勘定に入れてねぇ自己犠牲は良くない結果を招いてしまう。

 その上、彼女が救おうとしているのは異形(オーガ)と化した元人間──『憎悪の塊』だ。

 異形(アレ)を助けた所で、未来(さき)がねぇ。

 異形に(ああ)なった時点で手遅れだ。


『たとえ殺した相手が絶対的な悪だったとしても、命つみから目を背ける限り、貴方達は善になり得ない』


 このまま彼女を放っておいたら、彼女は異形(オーガ)と共に暴走するだろう。

 あの女性は自分の身を薪にする事で、異形(オーガ)達の憎悪を更に増幅させるだろう。

 異形(オーガ)となった元人間の憎悪に終わりはない。

 なぜなら、異形(アレ)は「『必要悪』が人類を効率良く殺すために生み出されたもの」だから。

 

『──(つみ)と向き合え、咎人おろかもの。たとえ神が赦したとしても、私は許さない』


 異形(オーガ)達が舞台にいる女性の下に向かって駆け出す。

 その瞬間、俺は考えるよりも先に身体を動かしてしまった。


『──嬢ちゃん。(つみ)を説くには、ちと(わか)過ぎるぜ』


 心の中で『ヤベ』と呟きながら、俺は女性──聖女エレナに声を掛ける。

 異形(オーガ)達のために自らを犠牲にしようとした彼女の前に現れる。

 助けるつもりなんてなかった。

 にも関わらず、無自覚の内に罪を犯そうとした彼女を──自分自身を蔑ろにする聖女エレナを助けてしまった。


((つみ)と向き合え、ねぇ……自分の命さえ向き合おうとしない半人前が、何を言っているんだが)


 自分の命と向き合うどころか、自分の命を勘定に入れていない聖女エレナを見て、俺は心の中で嘲笑を浮かべる。


(乗り掛かった船だ。この嬢ちゃん(はんにんまえ)の青さが取れるまで、ちょっと付き合ってやるか)

 



◇side:サンタ


「……サンタ」


 嬢ちゃんと出会った時の事を思い出しながら、俺は先代聖女と向き合う。

 初めて会った時の嬢ちゃんと同じように、先代聖女も自分自身の事を蔑ろにしていた。

 多分、アレが壊れたのは必要以上に周りの期待に応えようとしたからだろう。

 自分一人で何とかしようとしたから、この状況に陥ったんだろう。


「なんだ、嬢ちゃん」


 今にも動き出しそうな先代聖女を睨みながら、俺は嬢ちゃんの呼びかけに応える。

 嬢ちゃんの口から出てきたのは、想定外の言葉だった。


「それさ、前振りだよね? これがラストバトルじゃないパターンだよね? 魔王、完全復活しちゃうケースだよね?」


「いや、これがラストバトルだ。ラストバトルにしてみせる」


「いやさ、サンタがそう言って、そうなった事がないよね? というか、先代聖女の記憶の中にいた老人(サンタ)の存在、忘れているよね? 多分、魔王と先代聖女をどうにかしても、その後自称セント・A・クラウスをどうにかしなきゃいけなくなると思うよ」


「…………」


 忘 れ て た。

 あー、そういや、魔王を倒しても、自称セント・A・クラウスと『必要悪』が残ってたわ。

 何がラストバトルだ、バカ。

 数秒前の自分の発言を思い出し、つい顔が真っ赤に染まる。


「まあ、その話は置いといて……サンタ、ちょっとだけ先代聖女と話がしたい。時間と場所を作ってくれないかな?」


「あん? 話したければ、今話せば……」


「いや、もう話は通じない」


 嬢ちゃんの言葉を肯定するかのように、景色が歪む。

 先代聖女の姿が綺麗さっぱり消え失せ、俺と嬢ちゃんは森みたいな空間に放り出される。


「サンタ、頭を下げて」


 状況を把握するよりも先に嬢ちゃんが指示を飛ばす。

 考えるよりも先に頭を下げた。

 炎の塊が頭上を通り過ぎる。

 ようやく先代聖女から攻撃を仕掛けられている事を自覚した。

 小さくなった嬢ちゃんを左腕に抱え、天高くジャンプする。

 その瞬間、景色がぐにゃりと歪み、俺の頭上にでっかい鉄板が現れた。


「あいてっ!?」


 思いっきり頭を鉄板にぶつけてしまう。

 右手で頭を摩りつつ、周囲を確認する。

 いつの間にか俺達の身体はでっかい鳥籠の中に入れられていた。


「……っ! サンタっ! 早く鳥籠を壊してっ! 水の匂いがするっ!」


 嬢ちゃんに急かされるがまま、俺は自らの『心象世界』からハンドベル状の神造兵器を取り出す。

 取り出したハンドベルを振るう事で、頭上にある大きな鉄板に巨大氷柱をぶち込んだ。

 鉄板に大きな穴が空く。

 それを待っていたかのように、『どぼん』という音が鳥籠の中に入った俺達を水の中に引き込む。

 息ができなくなった。

 水塊が俺と嬢ちゃんの身体を揉む。

 急いで俺はバタ足すると、大きな鉄板に空いた穴を潜り抜け、水の中から出ようと──した所で、景色がぐにゃりと歪む。

 気がつくと、俺達の身体は宙に放り出されていた。


「右下、左上、斜め右後ろっ!」


 匂いとやらで嬢ちゃんは押し迫る攻撃を予知する。

 俺は瞬時に身体を捻ると、右下からやってきた飛礫を回避しつつ、右手で持っているハンドベルで左上から飛んできた飛礫を受け流し、首を傾ける事で斜め右後ろから押し迫る飛礫を避ける。


(景色が変わると同時に攻撃が飛んでくる……! これが先代聖女の心器(アニマ)の力なのか……!?)


 嬢ちゃんがいなかったら、今頃傷の一つや二つついていただろう。

 疑う余地なんてねぇ。

 先代聖女は心器(アニマ)を使いこなしている。


「嬢ちゃんっ! 先代聖女はどこに行った!?」


 此処まで無傷で乗り切れたのは、嬢ちゃんの予知能力染みた読みのお陰だ。

 だが、魔力と体力に限りがある以上、この状況はずっと続けられない。

 どっかで均衡が崩れる。

 

「分からない……! でも、この中にいるとは思う……!」


 再び景色がぐにゃりと歪む。

 今度は荒野に投げ出された。

 すぐさま先代聖女の姿を探す。

 何処を見渡しても、荒れ果てた大地しか見当たらなかった。

 当然、魔王の姿は見当たらない。


「サンタ、下っ!」


 嬢ちゃんを抱えたまま、後方に跳ぶ。

 俺が立っていた場所に火柱が立った。

 

「嬢ちゃんは先代聖女を探す事に注力してくれ」


 空から骸骨が落ちてくる。

 数はざっと数えて百数体程度。

 骸骨は両刃剣のようなものを持っていた。


「嬢ちゃんが先代聖女を見つけるまでの間、俺が何とかする。だから、なるべく早く先代聖女を見つけてくれ……!」


 ハンドベルを構えながら、襲いかかる骸骨を睨みつける。

 骸骨の大群は身体から『カタカタ』と発すると、一斉に跳びかかった。


  ──魔王、完全復活まで残り十五分。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方、そして、新しくブクマを送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は2月24日(土)20時頃に予定しております。

 先週は急遽更新休みにして申し訳ありません。

 以後気をつけます。

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厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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