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「わたし」と「私」と自分のため

◆side: イザベラ


 生まれた時から、わたしに選択肢はありませんでした。

 下級貴族の父と母の間に生まれたわたしは、立派な貴族になるため、朝も昼も夜も自己研鑽をやらされました。

 行きたくもない貴族学院に行かなきゃいけない状況に陥りました。

 たまたま貴族学院トップの成績を獲ってしまった所為で、聖女になってしまいました。

 聖女になってしまった所為で、国王様の弟と結婚してしまいました。

 父は喜んでくれました。

 母は自慢の娘だと褒めてくれました。

 聖女になったわたしは、みんなから認められました。

 でも、わたしは全く嬉しくありませんでした。

 だって、それはわたしが選んだものじゃありませんから。



◆side: イザベラ


 わたしは聖女になりました。

 でも、聖女としての役目を全うできませんでした。

 困っている人を救おうにも、国王や貴族の許可がないと、わたしは困っている人を救うという選択肢さえ選べません。

 それでも、わたしはできる限り、聖女としての役目を果たそうと足掻き続けました。

 浮浪者を対象にした炊き出し。

 無駄という理由で却下。

 災害に見舞われた村や町の復旧作業。

 必要じゃないという理由で却下。

 王族貴族関係者が魔法・魔術・武術の知識を独占している問題。

 平民や農民に知識を与えても無駄という理由で却下。

 診療所の増設。

 却下。

 その他の問題。

 全部、却下。

 長い時間をかけて、やっとできたのが、孤児園の建設。

 けど、その孤児園も『予算がないから』という理由で、定員十名しか認められませんでした。

 贅沢三昧な生活を送る王族貴族を見て、『私』は思います。

 ──金なら、お前らの懐にあるじゃないか、と。

 多分、この時点で、わたしはクソ女になっていたのでしょう。

 聖女としての責務を何一つ果たせていない自分自身に嫌悪感を抱きながら、私は自分達の幸福を貪欲に追い続ける王族貴族に黒い感情を向け始めました。






◆side:イザベラ


 別にわたしは聖人じゃありません。

 初代聖女や伝説の義賊『A・クラウス』のように、清く正しい人間じゃありません。

 困っている人を救おうとしているのは、みんなに求められているから。

 みんなが求めているのは、本当のわたしではなく、聖女としての役目を果たす『わたし』だから。

 もし聖女じゃなかったら、もしみんなが『わたし』に期待していなかったら、『私』は自分の欲望を満たすためだけに寿命を浪費していたと思います。

 父や母、国王様や民衆の期待を裏切りたくない。

 そんな理由で、わたしは聖女としての役目を果たそうとしていました。

 みんなから詰られたくない。

 その一心で、わたしは聖女としての責務を果たそうと足掻き続けました。

 でも、『わたし』は何一つ責務を果たせなかった。

 やっとの思いで建設した孤児園も、両の手で数えられる程度の孤児しか救う事ができず。

 日に日に増えていく困っている人の存在が、何もできていない『わたし』を詰り続けます。

 別に面向かって詰られた事はありません。

 でも、みんなの目が、みんなの態度が、わたしを詰っていました。

 『何も救わないお前は聖女なんかじゃない』と訴えていました。

 みんなからの圧に耐え切れず、ある日わたしは逃げ出してしまいました。

 逃げ出した先で、わたしは短剣を持った女の子──エレナと出会って──

 




「嬢ちゃん。神殿に突入する前に、一応聞いておく」


 夕陽が完全に沈み、夜の闇が浮島(くに)を包み始めた頃、私達は神殿──国王や上級貴族がいると思われる場所──に辿り着く。

 魔王達はまだ神殿を攻めていないのか、神殿は落ち着いた匂いを発していた。


「嬢ちゃんは何のために此処にいるんだ?」


「自分のためだよ」


「困っている人達のためじゃないのか?」


「それもあるけど、一番は自分のためだよ」


「此処から先は今まで以上に危険だぞ。いいのか?」


「うん。人助け以上に生き(やり)甲斐のある挑戦(もの)なんてないから」


「及第点だ」


 そう言って、サンタは私の頭を撫でる。

 また子ども扱いしやがって。

 そんな事を思いながら、私は大人しくサンタの撫で撫で攻撃を受ける。

 案の定、彼の掌はとても温かった。


「よし……タイミングバッチリだな」


 私の頭を撫で終わったサンタは、神殿の方に視線を向ける。

 その瞬間、何かが割れる音が私の鼓膜を強く揺さぶった。

 一体、何の音だろう? 

 何か薄ら魔力の匂いがするような……?


「いくぞ、嬢ちゃん。こっから先はスピード勝負だ」


 小さくなった私の身体をお姫様抱っこしながら、サンタは顔の筋肉を強張らせる。

 そして、息を短く吐き出すと、強張った声で、こう言った。


「魔王達よりも先に、国王とやらの下に向かう。国王が持っている神造兵器を魔王よりも先に回収する。おっけー?」


「おっけー」


 肯定の言葉を口にする。

 それと同時に、サンタの大きな身体は神殿に向かって駆け出し始めた。


 ──魔王復活まで、残り一時間半。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は12月24日(日)12時頃に予定しております。

 


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厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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