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鍋と約束とラッキー


「……サンタ、これ何処から用意したの?」


「秘密だ」


 翌朝──洞窟の中にいるので夜が明けたかどうか分からないんだけど──。

 洞窟最深部に辿り着いた私が先ず目にしたのは、大きな鍋を木の棒で掻き回すサンタの姿だった。

 美味しそうな臭いを放つ白い液体が独り言を呟いている。

 グツグツと呟き続ける白い液体の中には、人参やジャガイモ、キャベツ、切り刻まれた鶏肉等が入っていた。


「んじゃ、レベッカ。このシチューをここにいる人達に振る舞ってくれ。俺と嬢ちゃんはアルベルトの所に向かうから」


「分かりました」


「ちょっと待って」


 ナチュラルに第一王子とレベッカを名前呼びするサンタを見て、私は思わずツッコミを入れてしまう。


「あん? どうした、嬢ちゃん」


「どうして第一王子達は名前で呼んでいるの?」


「舐めんな、嬢ちゃん。俺だって敬意を払う時は払う」


 そう言って、サンタは洞窟最深部の隅でシチューが入った鍋を見つめる老若男女数十人を一瞥する。


「レベッカ。鍋の横に置いてある袋は小腹が空いた時に開けてくれ。一応、夜までには戻るつもりだが、俺達が戻れなかった時に備えて、一応アルベルトに食糧を渡しておく。あ、何か異常事態が起きたら、この笛を鳴らしてくれ。すぐに戻ってくるから」


 淡々とレベッカに指示を出した後、サンタは第一王子がいる洞穴に向かい始める。

 私は五感を研ぎ澄ませると、サンタが置いていった袋の匂いに意識を傾けた。

 甘い香りがする。

 多分、あの袋に入っているのはお菓子なのだろう。

 甘い香りの所為で、食欲が刺激される。

 いけない。

 これは洞窟にいる人達用のお菓子。

 これに手を出してしまったら、元聖女の威厳が保たれなくなってしまう……!


「……嬢ちゃん。後で菓子やるから、今は我慢してくれ」


 呆れたような目で私を見つめるサンタ。

 その視線を喰らって、心にダメージを貰う私。

 何の事を言っているのが分からず、ポケーっとした表情を浮かべるレベッカ。

 

「い、いや、お菓子食べたいなーとか思ってないし。わ、私を卑しい女扱いしないで」


「いや、どっちかと言うと女扱いじゃなくて、子ども……」


「しゃあああ!」


 全身の毛を逆撫でた所で閑話休題。

 洞窟の人達から『本当にアレは聖女なのか?』、『やはり聖女は死んだのでは……?』、『聖女様ってあんなに子どもっぽかったっけ?』と言われながら、私はサンタと共に洞窟最深部に背を向ける。

 

「……恥かいたのはサンタの所為だからね」


「俺は済ました顔で偉そうな事を言う嬢ちゃんよりも、今の嬢ちゃんの方が好きだぜ」


「…………そう」


 馬鹿にされたというのに、反論の言葉が何も出てこなかった。

 深呼吸を繰り返しながら、洞窟の中を歩き続ける。

 すると、洞窟最深部に向かう第三王子と遭遇した。


「おはようございます、ミス・エレナにミスター・サンタクロース。昨晩は寝られましたか?」


「おい、第三王子(ぼっちゃん)。洞窟最深部に朝飯を置いてある。そこで朝飯食べてくれ。で、朝飯食べた後は洞窟出入り口付近に集合な。第二王子の神造兵器を回収しに行く」


「承知致しました。ですが、一つ聞かせてください。第二王子(にいさん)の居場所を特定しているのですか?」


「いんや、特定できてねぇ。が、近くにいる事だけは間違いねぇ。魔王も第一王子の神造兵器の味を覚えた虐者も、第三王子(おまえ)が持っている神造兵器の在処を探知できる。探知できるにも関わらず、一晩俺達に手出ししなかったって事は、つまりそういう事だろ」


「一晩中、魔王と虐者と呼ばれる者が争っていたという可能性は?」


「いや、それはねぇ。俺達が近くにいる以上、魔王(やつ)は強引かつ力任せなやり方を絶対選ばねぇ。ヤツは恐ろしい程、慎重かつ臆病だ。恐らく今は漁夫の利を狙っている筈」


「慎重かつ臆病……なるほど、僕が思っている以上に魔王は小物のようですね」


「小物かどうかは分からねぇが、脅威である事には変わりねぇ。戦場で一番恐ろしいのは、慎重かつ臆病なヤツだからな。それに加えて、魔王は強者だ。油断も慢心もしねぇ強者程、恐ろしいものはねぇ」


 過去に油断も慢心もしない強者に会ったのだろう。

 サンタは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、溜息を吐き出す。


「魔王と虐者が何考えているのか分からねぇが、ここに第三王子(ぼっちゃん)を置いていく訳にはいかねぇ。その神造兵器が洞窟(ここ)にある以上、遅かれ早かれ、ここにいる奴らを巻き込んでしまう」


「ええ。元から貴方達に着いていくつもりです。これ以上、ミス・エレナに重荷を背負わせたくありませんから」


「んじゃあ、朝飯食べたら洞窟前に集合な」


 遊びに行く子どものように約束を交わした後、私達は第三王子と別れる。

 そして、第一王子がいる洞穴に向かって歩き始めた。


「ねえ、サンタ。そういや、私、朝飯まだなんだけど」


「第一王子と話しながら、食べようぜ。ちゃんと用意しているから」


 そう言って、サンタは何処からとも缶詰と呼ばれる鉄箱を取り出す。

 平行(ちがう)世界の技術で生み出された鉄箱の表面には、見た事のない文字が描かれていた。


「そういや、いつも思うんだけど、サンタってベル状の神造兵器といい、お菓子といい、気がついたら手に持っているよね? あれ、何処から取り出しているの?」


「何処から取り出していると思う?」


 悪戯っ子みたいに笑いながら、サンタは疑問を疑問で返す。

 あ、これ、答えるつもりがない時のサンタだ。


「……もしかして、それがサンタの魔法なの?」


「秘密だ。まあ、近い将来その疑問の答えは出ると思うぜ。そろそろガチの切札を切る事になるだろうし」


 そう言って、サンタは不敵な笑みを浮かべた後、私の頭を撫で始める。

 また子ども扱いされたと思った私は心の底から溜息を吐き出した。



◇side:魔王


「さて、どうしようかね」


 大樹の裏に隠れながら、オレを追い続けるデッカいワンちゃん──虐者の様子を伺う。

 一晩中、オレを追い続けたにも関わらず、虐者は疲れ一つ見せなかった。


虐者(ヤツ)を殺さなければ、飲み込んだ神造兵器を回収する事ができない。虐者(ヤツ)を殺すには、かなりの労力がかかるから、その後に待ち受けているサンタとの闘いを乗り切る事ができない。虐者とサンタを闘わせようにも、サンタが何処にいるのか分からない。さあ、八方塞がりだ」


 オレの声が聞こえてねぇのか、虐者はデカい独り言を放つオレに気づく事なく、杖みたいな形をした剣で木々を薙ぎ倒していた。

 

「ひぃ!」


 男の人の情けねぇ声が聞こえてくる。

 右の方に視線を向けると、鎧を着た男の人が目に入った。

 間違いねぇ、アレは騎士だ。

 クソ女の話が正しければ、第一王子と第二王子はこの近くにいるらしい。

 多分、あの騎士はどっちかの王子を守る護衛なのだろう。

 

「ラッキー」


 あの騎士が第二王子の護衛だったら、第二王子の居場所を特定する事ができる。

 サンタよりも先に第二王子を見つける事ができたら、神造兵器を回収できるだろう。

 もし、あの騎士が第一王子の護衛だったら、第一王子の居場所を特定できる。

 多分、第一王子はサンタと聖女と一緒にいるだろうから、あの騎士を人質に使えば、サンタと取引できるかもしれねぇ。

 そう判断したオレはゆっくり騎士の方に向かう。

 騎士はオレの存在に気づく事なく、木の裏に隠れながら、虐者が通り過ぎる事をただ祈り続けていた。

 


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 来月は公募小説に注力するので、更新ペースを落とします。

 今まで通りのペースで最新話を投稿する事はできませんが、年内完結(もしかしたら文字数増えて完結は来年頭になるかも)目指して執筆していくので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。

 次回の更新は9月6日(水)20時頃です。

 なるべく来月中に4章終わらせるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。

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厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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