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毒キノコと異世界と狭間の世界


「お、嬢ちゃん。そっちも終わったのか?」


 第一王子の治療を終えた後、洞窟の最深部に辿り着いた私はサンタと合流する。

 洞窟の最深部には老若男女数十人が横たわっていた。

 寝息を立てる彼等を一瞥する。

 碌なものが食べられていないのか、彼等の身体は痩せ細っていた。


「イースト病とやらにかかった人達はちゃんと治したぜ。後は勝手に治るだろ」


「……ありがと、サンタ」


「ほら、クッキー。とりあえず甘いもの食べとけ。疲れた時に食う甘いもんは格別だぞ」


 サンタから投げ渡されたクッキーを受け取る。

 サクッとした食感と甘い味が口一杯に広がった途端、脳の疲れが少しだけ取れた。


「ねぇ、サンタはどうやってイースト病を治療したの? ……治癒魔術は使ってない、よね?」


「薬だよ、薬。イースト病って呼ばれるヤツらは、弱毒性のキノコを長期的に摂り続けてたみたいだからな。毒性を除去する薬を使わせて貰った」


「……弱毒性のキノコ?」


「ああ。めちゃくちゃ弱い毒キノコだ」


 そう言って、サンタは何処からともなく青白いキノコを取り出す。

 彼が取り出したのは、浮島(くに)の東側でよく採れるキノコだった。


「一度や二度食った程度では問題ねぇ。が、長期的かつ継続的に食っちまったら、体内に毒が蓄積され、中毒状態になっちまうんだよ。この状態で、自然治癒速度を向上させる治癒魔術を使っちまったら、毒が増幅され、症状を悪化させちまう。だから、平行(べつ)世界で作られた解毒剤を使わせて貰った」


平行(べつ)……世界?」


「あり? 言ってなかったか? 俺はティアナに与えられた仕事をこなすために、平行世界を転々としているんだよ」


 サンタは言った。

 自分が『第一層』に存在する『人類の集合無意識体』──ティアナに雇われている事を。

 サンタはティアナから与えられた仕事を遂行するため、無数の平行世界を渡り歩いている事を。

 

「嬢ちゃんが生まれ育ったこの世界以外にも、無数の世界があってだな。嬢ちゃん達みたいに魔法や魔術が台頭している世界もありゃあ、科学や機械工学が進んだ世界も存在する。時の流れも平行世界毎に違くて、まだ神代終わりたての世界もありゃあ、神代が終わって一万年経った世界もある。この薬は薬学がそこそこ進んだ世界で入手したものなんだよ」


 サンタの話はスケールがデカ過ぎて、よく分からなかった。

 疲れ切った頭をフル回転しながら、サンタの話をまとめようとする。


「……つまり、ティアナに雇われたサンタは仕事のために無数の平行世界を渡り歩いていて、イースト病を治した薬はこことは違う平行(べつ)世界で手に入れた……って事?」


「その理解で合っている」


「……で、さっき言ってた第一層ってなに? 第一という事は、第二・第三もあるって事?」


「ああ。第二層や第三層は、……まあ、簡単に言っちまえば、平行世界よりも遠い世界──異世界の事だ。俺は一層以外の世界は行った事ねぇが、行った事あるヤツ曰く、世界の成り立ちから違うから歴史も文化も別物らしい」


 説明するのが面倒になったのだろう。

 サンタは投げやりな説明を口にする。

 

「あー、つまり、私が生まれ育った世界は第一層に含まれていて、第一層を転々としているサンタでも第二層や第三層みたいな(とおい)世界には行けないって事?」


「あー、嬢ちゃん……俺が第二層や第三層に行けねぇ事は当たっている。が、嬢ちゃんが生まれ育ったこの浮島(せかい)が第一層に含まれているってのは誤りだ。厳密に言えば、浮島(ここ)は第一層に含まれていない」


「………どういう事?」


「嬢ちゃんが生まれ育ったこの浮島(せかい)は、第一層と第二層の狭間にあるんだよ」


 私達が今いる浮島(せかい)は狭間にある。

 なんて事を言われても、あんまりピンと来なかった。

 そんな私に構う事なく、サンタは淡々と説明を続ける。


「大昔──初代聖女が産まれるよりももっと前、嬢ちゃん達が生まれ育ったこの浮島(くに)は、とあるアクシデントの所為で、一層と二層の間にある狭間の世界に漂着したらしい。ほら、空に固形化した極光が浮かんでいるだろ? あれ、狭間の世界にしかないものなんだぜ」


「……もしかして、浮島(ここ)が狭間の世界にあるから、『いつもと違う』の?」


 サンタと出会ったばかりの頃──王都の時計塔の最上階でサンタと話した時の事を思い出す。

 彼は言っていた、『今回はいつもと違う』、と。


『なんか無理矢理呼び出されたというか。ティアナから魔力を殆ど与えられない事なんて初めてというか。上手く言葉にできねぇが、いつもと違うんだよ』


「ティアナから魔力を殆ど与えられないのは、ここが狭間の世界にあるからなの?」


「まあ、それもあるとは思うが、ティアナから魔力を与えられないのは『必要悪』が顕現している所為だ。多分、俺を呼び出したのは、……」


「呼び出したのは?」


 必要悪──オーガとなった人々に力を与えた『黒い龍』の名前を呟いた後、サンタは首を横に振る。

 そして、私の瞳を一瞥すると、困ったような笑みを浮かべた。


「……いや、今は敢えて伏せておく。この話は良くも悪くも嬢ちゃんの進路に影響を与えてしまうからな」


 そう言って、サンタは私を終わらせようとする。

 この状態のサンタに何を聞いても無駄である事を本能的に把握した。

 なので、別の疑問を彼にぶつける。


「……で、サンタと初代聖女はどういう関係だったの?」


「嬢ちゃんが一人前になったら教えてやるよ」


 サンタは呆れたように溜息を吐き出すと、私の頭を撫で始める。

 全力で私の事を子ども扱いしている彼を見て、私は無意識のうちに眉間に皺を寄せてしまった。


「さ、さっさと寝るぞ。明日以降はかなり忙しくなるからな。休める時に休んどかないと、後々辛い目に遭うぜ」


「忙しくなる……? なんで?」


「回収するんだよ」


「なにを?」


「第二王子の神造兵器を、だよ」


 サンタは取り出したクッキーを齧りつつ、大胆不敵な笑みを浮かべる。

 此処にはいない魔王と虐者に挑戦状を叩きつける彼の顔は、悪戯っ子のように見えた。

 



 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は8月31日(木)20時頃に予定しております。


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