出会い
私の席は、窓際の一番後ろ。席に着いて、ランドセルから荷物を移す。
「4棟だよね?俺6棟!よろしくね」
隣の席の知輝が声をかけてきた。社宅は敷地内に何棟もあり、マンションが連なって建っている。
「ともき…くん。よろしくね」
背はさほど高くはないが、爽やかなスポーツマン、そんな印象をもった。
「ともきでいいよ!紗矢、仲良くしような」
にこっと笑う顔に、引き込まれるような感覚に陥った。
紗矢って呼ばれた…。今まで"紗矢ちゃん"としか呼ばれたことがなかったので、なんだか恥ずかしくなった。
「知輝さん。紗矢さんに色々と教えてあげてね。困っていたら助けてあげてね」
先生からも信頼されている知輝だからこそ、私の隣の席なのかもしれない。
前の学校で使っていた教科書とは変わったことで、多少の違和感はあったものの、わいわいとした授業で楽しめた。
休み時間もクラスみんなで遊ぶことが多く、すぐにクラスに馴染むこともできた。
あっという間に下校時刻。
「紗矢ちゃーん!かーえろー」
チャイムと同時に優が迎えに来た。
「今日一日どうだった?休み時間は何したの?クラス楽しい?隣の席は誰だった?…ってごめん!私色々聞きすぎだね」
「優ちゃん、心配してくれてありがとう。すっごく楽しかった!隣の席はね、…あ、いや…」
知輝。彼の名前を出そうとしたときに、なんだか頬が熱くなる感覚があった。なんで?ただ紗矢って呼ばれただけ。転入生に優しくするなんて当然のことなのに。
「隣の席の子の名前、忘れちゃった」
咄嗟に誤魔化してしまった。ごめん、優ちゃん。
「なーんだ!紗矢ちゃんらしい。でも1日で覚えれないのが当たり前だよ。大丈夫」
優の優しさがまたチクリと痛む。
家に着くと疲れがどっと出たのか、少し眠っていた。
あと2週間でクラス替えになる。新しいクラス、誰と一緒になるかな。知輝と同じクラスになりたいな、そんなことを考えていた。