第7話 彼、昼食
ふたりとも食べ始めたところで、改めて会話が始まる。
「この前、冨田さんに金曜のこと聞かれたね」
「そうでしたね、なんか面白いもの見つけた、って感じで笑ってましたね。仕事上がりに、そこにいた人で飲みに行っただけなんですけどね」
「ふたりだけだったからじゃないかな」
「みなさん、そういう話好きですよね」
「そうだな」
「今のこの状態も誰かが見たら、噂話が膨らむのでしょうね」
言われてみれば、その通りだな。偶然同じ店に来て、混んでたから相席になっただけなのに、はたから見たら、ふたりで昼を食べに来てるように見えるかも。
可愛い女子とのご飯は楽しい。だけど、噂されて、変な目で見られるのはイヤだな。中原さんはどう思っているんだ?
「そういう噂されるのイヤじゃないの?」
「気持ちのいいものではないですけど、だからどうなの?って感じです。実害ないですし」
そうか、実害はないな。言わせておけばいいのか。
「もちろん、あまりにも浮ついた女とかは思われたくないですけど、誰かとふたりでご飯食べてたくらいの話なら、気にしないです」
「なるほどね」
「藤井さんはどうですか?」
「俺は噂されて、変な目で見られるのはイヤだな。勝手に見てるのはともかく、冨田さんではないけど、何か言われるのがイヤだな」
「そうなんですね」
「ところで、そばは好きなんですか?」
「特別好きではないよ。今日は順番待ちがいない店にしただけだね」
「それなら、そばじゃなくて中華でも定食でも何でもよかったんですね」
「その通り。昼休みの時間もあるし、さっと食べて帰れれば何でも良かったね」
「食べたいものではなく、時間で決めるって面白いですね」
「そうかな。外回り中は時間が優先するし、普通のことだと思ってるよ」
「そうなんですね。じゃあ、もし麺類の店しかなかったとしたら、何がいいですか?うどんやラーメンもありますよね?」
「ラーメンだな。ラーメンは好きだし、この辺にも店は結構あるから困らないよ」
「へぇ結構あるんですか。それなら、この近くで美味しいラーメン屋を今度教えてください」
「いいよ」
「その時は、一緒に行ってくださいね。ラーメン屋って女性ひとりだと入りにくいんです」
あれ、一緒に行くことになってるぞ?