第5話 彼、探られる
週明けの月曜日、出社すると中原さんに声をかけられたら。
「おはようございます」
「おはよう」
「金曜はありがとうございました。楽しかったです」
あ、それここで言っちゃう?
「金曜って何?何かあったの?」
早速、先輩社員の冨田さんが突っ込んできたな。
「帰りにご飯食べに行っただけですよ」
「へぇ~、藤井が珍しいな。金曜って、みんな早く帰ってたよな」
「えぇ、他の方は帰ってしまった後だったので、ふたりだけでしたね」
中原さん、わざわざふたりだと言わなくても良いのでは?
「そうなんだ。まぁ、みんなが帰るの早いと、そうなるよな」
少しニヤリとしながら、冨田さんは離れて行った。
あぁ、絶対何かあると思ってるぞ。
俺の会社は中堅のゼネコン、その営業が自分の仕事だ。
そして中原さんは事務職で、いろんな伝票を処理したり、資料や書類の作成をしている。だから、日常的に会話する機会は多い。でもそれは俺だけではないし、比較的みんなと話をする機会が多い立場。だから誰かと帰りに寄り道する位は、その気があれば珍しくは無いはずだ。
普段は誰かとふたりでご飯食べに行ったりしないのだろうか?
今までは考えもしなかったが、ふたりで帰りに寄り道したせいか、そんなことが気になった。
その後しばらくして冨田さんと仕事の話をしている時だった。
「ところで、中原さんと何で突然ご飯食べに行ったりしたんだ?」
「仕事終わりに声をかけられたので、行っただけです」
「それでも、あまり飲みに行ったりしないお前にしては珍しいな」
「ちょうど暇はあったし、断る理由も無かったんですよ」
「そうか、じゃあ、今度は俺とも飲みに行こうな」
あ~、面倒だ、こういう変な突っ込みが入るから会社の人とご飯食べたり、飲みに行ったりするのは、イヤなんだよな。
しかも先輩社員と飲みに行くとか気を使うし。自分が避けたかった通りのことが起こってるな。
面倒が起こりそうな事は、気をつけよう。