第14話 彼、美術展
土曜日、美術展に行く日だ。
何か別の事にも付き合う事になったが、自分の案件の都合で休日に駆り出しちゃったし、それくらいは仕方ないだろう。それに、ご飯くらいはご馳走しないと悪いよな。
待ち合わせはホールの最寄り駅に朝10時にした。これなら、美術展を見た後ちょうどお昼時になるので、昼ご飯をご馳走できるな。
待たせては悪いと早めに来たけど、少し早すぎたかな。早めに家を出る様にしつつ、遅れないように急ぎ目の準備をした結果、30分も前に着いてしまった。
周囲を見回したが、中原さんはいない。さすがに、まだ来てないよな。
しばらく待ち、約束の15分前に彼女は表れた。
「おはようございます。ずいぶん早いですね。待たせてしまいましたか?」
「いや、さっき来たところだよ。中原さんも早いね」
「仕事の癖で、遅れないようにって意識してたら、こんな時間になってしまいました」
「俺も似たような感じだよ」
「ところで、今日はいつもと違う雰囲気だね。休日仕様かな?」
髪は編み込みを入れたハーフアップで、手が込んでいるな。会社ではストレートそのままか、後ろでまとめているだけのことが多いから随分感じが違うぞ。
化粧も明るめで、チークや口紅の色がいつもと違うかな。
服も、ゆったりめのセーターにふわっとしたロングスカート、ゆるふわで甘い感じだな。
「行くのが会社じゃないですからね。どうですか?」
「言い方がよくわからないけど、会社の時より女子っぽい感じだね。似合ってていいと思うよ」
「そう思ってもらえたら良かったです」
「じゃあ行こうか」
「はい」
ホールに着き、受付でチケットを渡して入場した。これで今日の最大のミッションは完了だ。あとはそれなりに鑑賞して、帰ればいい。
「みんな上手だな」
「そうですね。こういうのが自宅に置いてあれば、家のイメージが変わるんでしょうね」
「残念ながら俺の部屋には似合いそうにないな」
「作品横の札に作品名と作者の他に値段が書いてあるんですね」
「販売を兼ねているというのは、そういうことなんだ。やっと理解できたよ」
いかにも美術に縁のない人間の会話だなぁ、と自分で笑ってしまう。
全体を一通り見たあと、引き上げることにした。
「ちょうどお昼時だね。何か食べに行こうか。休日に駆り出しちゃったから、何かご馳走するよ」
「え、いいんですか?藤井さんも休日なのは一緒ですよね」
「そうはいっても、自分の担当案件だしな」
「じゃあご馳走になります」
「何か食べたいものはある?」
「いえ、何でもいいですよ」
そんな会話をしながら、目に付いた洋食屋に入ることにした。
美味しい店だといいな。




