第12話 彼、取引先からのノルマ
今日は外回りだ。客先に定期的に顔を出し、今まで納めた物件についての評判や、新しい仕事はないか、情報を集めている。
お世話になることが多い、とある不動産デベロッパーに来た。ここはこなした案件も多く、うちへの評価もなかなかいいらしい。それなりに信用されている。
「いつも、お世話になってます」
「こちらこそお世話になります。」
そんな挨拶から始まり、新しい情報がないか会話をしていく。
「ところで、藤井さんは、絵や工芸品には興味ありますか?」
「正直なところ、あまり興味は無いです。見たら上手だなとかは思いますけど、それ以上はわかりません。解釈がどうとか、使われている技術とか詳しい話は出来ないですね。何かありましたか?」
なんだろう?美術とか仕事と関係なさそうだが?
「実は、うちが手がけて完成したばかりの展示ホールのある建物がありまして、今度オープニングイベントがあるんです。若手作家さん達を中心にした美術品の展示会で、販売を兼ねたものです。有名な作家さんはいないですけど、そのため入場料無料なんです」
「そういうイベントがあるんですね」
「それで、イベントを成功させるために、御社の方にも来ていただけないでしょうか?」
「構いませんよ。会社に戻って、そういったことに興味がありそうな社員がいたら勧めておきます」
「それでですね、ホールのオーナーが、集客力を気にしてます。無料ですけどチケットがありまして、それでどこの紹介の人が入場したかわかるようになってます。ですので、2名だけで構いませんので、確実に来て頂きたいのです。チケット2枚お渡ししますので、確実にお願い出来ませんか?」
それなら会社に帰ってチケットを普通に配るだけでなく、行けるか確認しながら渡さないといけないな。
「イベントはいつですか?」
「時間が無くて申し訳ないのですけど、今度の土日です」
「わかりました」
それなら俺は予定はないから、最悪自分で行けばいいや。どうせ暇だし、たまにはあまり縁のない美術に触れておくのも悪くはないな。あとひとりくらい、誰かいるだろう。
そうしてチケットを受け取り、帰社した。
でも、美術ってよくわからないんだよな。




