献身
よくわかる解説。
膨大な熱を放つ少女にはキュア系の回復魔術が有効であり、それでも内から湧き上がるようなダメージが認められた。
この街は人と竜が築いたという伝説があるらしい。
領主ディラヌスの屋敷は、この竜都の中心に据えられており、そこから規則的に発展していったような形跡がある。
以上のことから――
「ロード・ディラヌス。この子……ファニルは、竜だな?」
《竜癒》を受け、ファニルは深く穏やかな呼吸を始めた。
「……そうだ。我が一族は代々、竜の血を受け継いでいる」
「それがどうして、こんなに苦しんでいたんですか?」
「ロード・ディラヌスも竜の遺伝子を持っているが、ファニルのようになっていない。三年間騙し騙し繋ぐしかなかったのも、過去に竜として生まれた子がいなかったんだろう。だとしたらきっと、隔世遺伝ってことだろうな」
あるいは先祖返りとも言えるか。
大きな要因はもうひとつ考えられるが、今は伏せておこう。
「人の体に竜の魔力……今日まで生きていたのが不思議なくらいだ。ロード・ディラヌスの尽力と、これまでの協力者に、魔王として敬意を払うよ」
「……そうか。無駄ではなかった、か……」
ベッドの傍らの椅子に座り込むディラヌス氏。
「あとの治療はアネモネの方が詳しいだろうから、任せるよ。僕は少し疲れたから帰る」
「ありがとう。ありがとう……魔王クレス、聖女アネモネ…………ありがとう」
◆◆◆
「ぐ、ぅ……っ」
宿に戻った僕は、そのままベッドに倒れ込んだ。
核の損傷に、呪眼なしでの四属性術式の行使。
……なんでこんなことをしたのか。人間の信用を得るにしても、もっと楽な方法があったはずだ。
アネモネなら、今日は無理でも明日にはドラグキュアまで考えが至っただろう。人間のことなら、その日のうちにでも魔術師をかき集めて実行できたはずだ。
なぜ。
「愛、だなどと……」
なら、仕方ないか。
魔族を滅ぼす力だ。
――。
「悪くない」
「悪くないというのは、良くもないというのと同じですよ、クレス」
「…………アネモネか」
存外に早い帰宅だった。
「世話になった、アネモネ」
「どういうことですか? クレスがいないと恥ずかしくて、まだあの旗をお見せしていないのです。早く治して、ロード・ディラヌスとファニル様に会いに行きますよ」
恥ずかしいのか……。
まぁ、恥ずかしいか。聖女が『聖女参上』は絶対アホだもんな。
「さよならだ。まだ猶予はあるはずだが、いずれ魔界からフォルテたちが来る。……できれば、助けを求めていたら、助けてやってほしい」
「そうですか……」
白く細い指が、僕の頬を撫でる。
「ですがそれは、あなたの役目ですよ、魔王クレス」
「僕にはできなかった。何も、何も……」
「……はぁ。ウダウダぬかしてんじゃねェーぞ、未熟者が……っ!」
⁉︎
「さっきから黙って聞いてれば、全部全部全部諦めて、終わったふうなクチきいて……しょうもない。いいですか、いいか、魔王クレス。一度しか言いませんからね」
アネモネは横たわる僕の傍らに跪いて、手を重ねて祈る。
「遍く愛を尊敬します。差し伸べる愛を敬愛します。主よ、主なる魔王クレスよ、貴方を愛します――」
「な……」
「コホン。一度しか言わないと言いました。これでクレスは、聖女アネモネの名において一定の格を得ました。多少の怪我や魔力切れでは終わらせませんから。私にだってこれくらいできます。聖女ナメんな」
「…………」
「お腹が空いたので、先に何か食べてきますね。失礼します」
「……あぁ、気をつけて」