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パラリラ聖女とラブピ魔王  作者: 人藤 左
プロローグ/setting,start up
8/20

献身

 よくわかる解説。


 膨大な熱を放つ少女にはキュア系の回復魔術が有効であり、それでも内から湧き上がるようなダメージが認められた。


 この街は人と竜が築いたという伝説があるらしい。

 領主ディラヌスの屋敷は、この竜都の中心に据えられており、そこから規則的に発展していったような形跡がある。


 以上のことから――

「ロード・ディラヌス。この子……ファニルは、竜だな?」


 《竜癒(ドラグキュア)》を受け、ファニルは深く穏やかな呼吸を始めた。


「……そうだ。我が一族は代々、竜の血を受け継いでいる」


「それがどうして、こんなに苦しんでいたんですか?」


「ロード・ディラヌスも竜の遺伝子を持っているが、ファニルのようになっていない。三年間騙し騙し繋ぐしかなかったのも、過去に竜として生まれた子がいなかったんだろう。だとしたらきっと、隔世遺伝ってことだろうな」


 あるいは先祖返りとも言えるか。

 大きな要因はもうひとつ考えられるが、今は伏せておこう。


「人の体に竜の魔力……今日まで生きていたのが不思議なくらいだ。ロード・ディラヌスの尽力と、これまでの協力者に、魔王として敬意を払うよ」


「……そうか。無駄ではなかった、か……」

 ベッドの傍らの椅子に座り込むディラヌス氏。


「あとの治療はアネモネの方が詳しいだろうから、任せるよ。僕は少し疲れたから帰る」


「ありがとう。ありがとう……魔王クレス、聖女アネモネ…………ありがとう」


◆◆◆


「ぐ、ぅ……っ」


 宿に戻った僕は、そのままベッドに倒れ込んだ。


 核の損傷に、呪眼なしでの四属性術式の行使。

 ……なんでこんなことをしたのか。人間の信用を得るにしても、もっと楽な方法があったはずだ。


 アネモネなら、今日は無理でも明日にはドラグキュアまで考えが至っただろう。人間のことなら、その日のうちにでも魔術師をかき集めて実行できたはずだ。


 なぜ。


「愛、だなどと……」


 なら、仕方ないか。

 魔族を滅ぼす力だ。


 ――。


「悪くない」

「悪くないというのは、良くもないというのと同じですよ、クレス」

「…………アネモネか」


 存外に早い帰宅だった。


「世話になった、アネモネ」


「どういうことですか? クレスがいないと恥ずかしくて、まだあの旗をお見せしていないのです。早く治して、ロード・ディラヌスとファニル様に会いに行きますよ」


 恥ずかしいのか……。

 まぁ、恥ずかしいか。聖女が『聖女参上』は絶対アホだもんな。


「さよならだ。まだ猶予はあるはずだが、いずれ魔界からフォルテたちが来る。……できれば、助けを求めていたら、助けてやってほしい」

「そうですか……」


 白く細い指が、僕の頬を撫でる。


「ですがそれは、あなたの役目ですよ、魔王クレス」

「僕にはできなかった。何も、何も……」


「……はぁ。ウダウダぬかしてんじゃねェーぞ、未熟者(シャバゾー)が……っ!」


 ⁉︎


「さっきから黙って聞いてれば、全部全部全部諦めて、終わったふうなクチきいて……しょうもない。いいですか、いいか、魔王クレス。一度しか言いませんからね」


 アネモネは横たわる僕の傍らに跪いて、手を重ねて祈る。


(あまね)く愛を尊敬します。差し伸べる愛を敬愛します。主よ、主なる魔王クレスよ、貴方を愛します――」


「な……」


「コホン。一度しか言わないと言いました。これでクレスは、聖女アネモネの名において一定の格を得ました。多少の怪我や魔力切れでは終わらせませんから。私にだってこれくらいできます。聖女ナメんな」


「…………」


「お腹が空いたので、先に何か食べてきますね。失礼します」


「……あぁ、気をつけて」

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