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パラリラ聖女とラブピ魔王  作者: 人藤 左
プロローグ/setting,start up
7/20

竜都寵児・ファニルの正体

「どうぞ」


 女中さんに案内された屋敷の中は、妙に静まり返っていた。僕もアネモネも、妙な雰囲気に失礼ながら見回してしまう。


 通されたのは、屋敷の住人の居室だった。 

 天蓋付きのベッドの脇に、壮健な男性が待ち構えている。


「失礼します」

 とても丁寧に、女中さんが席を外す。


「よく来てくれた。竜都領主・ディラヌスである」

「お招きいただき光栄です、ロード・ディラヌス。聖都より参りました、聖女アネモネです」

「……クレスだ」


 アネモネが深く礼をしたので、僕もそれに続く。


「話はヒイラギから聞いている。破門された聖女と、亡命してきた元魔王、だったね?」

「はい。お恥ずかしながら……」


「そうかそうか。気にすることはない。ただその、あとでアレを見せてくれないか?」

「アレ、ですか?」

「そう、アレだよ。たまに街を珍走しているときの、あの『聖女参上』とかいう旗だ」

「珍走……⁉︎」

「……っフ」


 『聖女参上』に子供のように喰らい付くディラヌス氏が面白くて笑ってしまったのだが、アネモネに睨まれてしまった。別に僕はあの馬威駆(バイク)を笑ったわけではない。しかし、珍走……珍走か……、っ。


「か、構いませんが……。して、本題はそちらの?」

「ああ。娘のファニルだ」

 話題が天蓋のベッドに移った。


 今にも消え入りそうな、しかし熱を帯びた息遣いが聞こえてくる。


「12歳の頃より三年、原因不明の高熱にうなされるようになってな。これまで多くの魔術師、聖職者、ヒイラギの開発薬を試してみても、一時的に小康状態になるだけで、回復の兆しはない」


 カーテンが開け放たれる。先ほどまでとは比べ物にならないほどの熱気が、部屋に充満した。


「これは……耐火布だな」

「並の素材では、すぐに燃え尽きてしまうからな」


 見れば、ベッドを覆っていたカーテンは絶えず冷却魔術を発揮し続けるよう編み込まれている。二、三日に一度の交換で効果は見込めるだろう。


「単刀直入にお願いしたい。娘を、ファニルを治してほしい……」

「わかりました」


 アネモネは即答した。


「できる限りのことを。もちろん、完治をお約束いたします」


◆◆◆


「《聖癒(キュア)》」

 アネモネの手のひらから、ファニルに魔力が注がれる。


 《聖解(ディスペル)》が効かなかった以上、何かの呪いというわけではないようだ。


「……《聖癒(キュア)》……!」


 これまで行われていた姑息療法と同じく、最も効果があったのはキュアだった。しかし、それでも解決ではない。


「少し休んだらどうだ、アネモネ」


 アネモネは昼前にここに来て、それから夕方になるまでずっと魔術を使っている。いかに聖女とはいえ、そろそろ限界のはずだ。額には汗が滲み、焦りからか目元に涙も滲んでいる。


「いえ……必ず治すと約束しました……。それに、私は聖女なのです。苦しんでいる少女を見て助けないなどと、」

「愛のないことはできない、だろう?」

「あ……はい」


 ひどく意外そうに目を丸くした。


「だから……だな。アネモネの言うところの愛かどうかはわからないが、ここは譲れないという気持ちも……わからなくは、ない」

「……クレス……!」


「……勘違いするな。信仰魔術がツッパリ魔術なんてわからないものになって、祈る相手も失って、それでも癒しの術式が使えるアネモネを尊敬しているだけだ。それに――」


 度重なる回復により熱も荒い息遣いも治まった少女の額に手を当てる。


「――この子を治せば、愛のある魔王として交渉が楽になるからな」



 ……回復しても回復しても湧き上がる、焼け付くような熱。


 ……キュアは確かに効果があった。それでも、というのは、おそらく規格が違うからだろう。


 ……属性。四元素を基にした、魔力の帯びる性質。アネモネはもっぱら聖属性だ。ツッパリはこの場合度外視する。


 ……キュアのやり方はたくさん見させてもらった。問題は属性……そう、癒しの術式に流し込む魔力の色だ。



「もう一つ言っておく。これはアネモネ、きみのおかげだ。きみがここまで頑張らなければ、この子の正しい状態もわからず、僕がこの術式を思いつくこともなかった。


 火1水4地3風2……いや、火1水3地4風2……この比率!


「《竜癒(ドラグキュア)》」

魔王クレス、ノルマ設立記念

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