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パラリラ聖女とラブピ魔王  作者: 人藤 左
プロローグ/setting,start up
5/20

ガチキス魔王とツッパリ聖女

 ギルドの仕事をして、三日。

 今日も今日とて、竜都の食糧を補うべく魔猪狩りだ。


「《風打撃魔術(エアロ・ストライク)》!」


 空気を固めて叩きつける魔術だ。アネモネが追いかけ回している魔猪の頭めがけて放つ。


 昏倒し倒れた魔猪の手足を縛り、ギルドに卸す。一頭で大体二人が一日暮らせる分の報酬はもらえた。


◆◆◆


「やはり、信仰術式が使えません」

 立ち上がり、聖女が告解した。


 ヒイラギ博士の地下工房。

 宿を借りるだけのお金がないので、初日から変わらずここで寝泊まりさせてもらっている。


「破門の時に消されていただろう」


 服をめくりスカートのウエストを少し下げると……誓紋といったか……のない下腹部だ。


「な、ななな……」


「信仰術式が何かはわからないけど、あれから使えてないっていうならそれで間違いない」


「なにをするんですかー!」

 両手で守るように体を抱くアネモネ。


「……確認だけど。まずかったか?」


「ヘンタイですよ、ヘンタイ! 次はありませんからね⁉︎」

「すまない、気をつける……」


 ……なにやら気まずい雰囲気になってしまった。


「主の……トラルだったか、それへの崇拝を禁じられたんだろう? 間違いないだろう」

「……それでは私は、腕のいいパワー系聖女、ということですか……?」

「んふっ」


 パワー系聖女ときたか。そもそも気にするのはそこなのか。思わず笑ってしまった。


「なに笑ってんですか! 死活問題ですよ、殴るしか能のない聖女なんて!」


 ……オーガやスニークを殴り倒したところしか記憶にない、とは言うまい。


「術式がなければ、いくら魔力があっても魔術は使えません。私は、私は……」


 そうは言っても……。

「僕も術式を持ってない。その場で都度都度組み上げているだけだ」


「それは天才ってやつです。一緒にしないでください」


「……アネモネもポーションを生成していただろう。あれは?」

「あれは……できた、としか」

「僕もできるけど」


 《聖生成魔術(ホーリー・クリエイト)》。今回は目の前のガラス細工をもとに再現したもので、ビン一つをポーションで満たす。……さすがに、500個同時とはいかないか。


「むむむ……。祈りも捧げない、ロクに魔術も使えないんじゃ、聖女失格ですよ、失格!」


「そもそも破門されているのでは……いたっ」

 脛を蹴られた。


「心配しなくても、きみはきみのままで聖女だよ、アネモネ。そんなに気になるなら、いまその体に刻まれているだろう術式を確認するけど……」

「できるんですか⁉︎」

「アネモネのいうところの、天才だからね」

「お願いします!」


 頼まれたので。


 アネモネの顎に手を添え、唇を重ねる。

 舌先を聖女の口内に侵入させ、前歯、歯茎、頬から上顎と確かめていく。


「ふ……ん、んんっ、ぅ」


 変な声を出すな。


 仕上げに舌を舐め上げ、終了。唾液が糸をひく。


「は、はー、はーっ、はー……っ」


「悪い。久しぶりだから時間がかかった。苦しくなかったか?」

「不埒者ッ!」

 不埒者⁉︎


 鉄拳が飛んでくるかと思ったら、頬を打つその威力はか弱いものだった。


「僕が不埒かは置いといて……アネモネ、きみの身体に刻まれているのは、ツッパリ魔術だ」


 ツッパリ魔術ってなんだ。自分で確かめて報告しておいて全然わからない。


「ななななななな……なぜキスを⁉︎」

 七な……なんでもない。


「スニークのやつに呪眼を取られて、僕は術式を目視で確かめられない。だから粘膜で確認した」


「それだけ、ですか?」

「それだけ……だけど」

「そう、ですか」


 お互い椅子に座り直す。


「……」

 椅子を近づけるアネモネ。……何かあれば殴り抜けられる距離だ……。


「……それで、ツッパリ魔術って何ですか?」

「わからない。そもそもツッパリが何かもわからないし」


 魔界でもいろんなヘンテコを見てきたが、今回は皆目見当もつかない。


「寝ながら思い出してみるよ。おやすみ」

 空き箱を並べて作ったベッドに毛布。雨風も凌げて騒音もなくて、いい寝床だ。


「……はい。おやすみなさい」


 ……。

 …………。

 ………………。


 ベッド(木箱)の軋む音とアネモネの押し殺したような声が聞こえてくるが、聞かなかったことにしよう。本能がそう言っているのだからそうしよう。

 まずはツッパリ魔術、ツッパリ魔術について思い出すことに専念しよう。


 ……僕、最近聞かなかったフリばっかりしていないか?


◆◆◆


 昼の日課の魔猪狩り。


 ちなみに、魔猪は魔物であって魔族ではない。地霊という世界が生み出した機構のようなもので、特定の状況に対し特定の対応をする。魔族のような核もなく、命というわけでもない。以上。


「結局、ツッパリ魔術について、僕は本当にわからなかった」

「キスまでしておいてですか?」

 今朝から変な圧を向けてくるアネモネ。機嫌そのものは良いのが救いだ。


「悪かった、悪かったよ。忘れてくれ」

 脛を蹴られた。……あまり痛くはない。


「でも、名前さえわかってるなら使えるはずだ。先立つのはイメージ、やりたいこと。それを魔力で編み上げる。術式なんて全部そんなものだよ」

「天才はいうことが違いますね」


 とりあえず一匹、話しながら土を捏ね上げた錐状の弾《土打撃魔術(ソイル・ストライク)》で打ち取る。


「今のは、遠いし追っても追いつけないから撃った。欲しい結果に対し、方法を選んだ……ということだ」


「?」


「アネモネ風にいうと……主への信仰を表現する結果のために、祈るって方法を選ぶだろう?」

「やけに詳しいですね、人間に」

「脅威だからな」


 話し込んでいると、もう一頭の魔猪がこちらに目をつけた。姿勢を低くし、力を溜めている。


「逆に、方法があれば結果が出る。知らない術式を試すには、これしかない。まず魔術を使ってみよう。すると勝手に術式に魔力が流れて、形になる」


「……天才のくせにスパルタですよ」

「色々やって試したから天才なんだよ」

「人みたいなことを言いますね」


 アネモネは微笑んで、柔らかく手を握り祈る。


()()に凍える子羊よ。()()しみに怯える兄弟よ。手を繋ぎましょう、笑い合いましょう――」 


 詠唱か……。

 精神安定のほか、並べた言葉が魔導陣の役割を果たす場合もある。基本的には気休め程度のルーティンだが、アネモネほどの敬虔さがあれば、それが魔術にもたらす影響も大きいだろう。


夜露死苦(ヨロシク)!」


 ⁉︎


 ドン、と巨大な魔力炉に火が入ったような音がした。

 続いて、けたたましい金管楽器のシンプルなフレーズ。


 あまりの事態に、僕も魔猪も固まる。


「そうですか……これが」


 ……僕の理解が追いつかないうちに、立て続けに魔術を発動するアネモネ。

 鋼鉄の輝きを帯びた二輪の……木馬のような……何だこれは。


「名付けましょう、馬威駆(バイク)と」


 先程からの轟音は、このバイクが鳴らしていたものだったようだ。


 全体的に流線的なシルエットの中、座席(?)後ろの『聖女参上』と書かれた縦長の旗がやけに目立つ。


 アネモネはバイクにまたがると、手綱代わりの棒のようなものを捻る。それに合わせて、唸るような音とラッパの音が力強さを増す。


「では、沸地技理(ブチギリ)で参ります!」

 見たこともない素材の車輪が周り、バイクが凄まじいスピードで駆け出した。


 追われ、逃げ出した魔猪にもあっという間に追いつき、魔導木馬で衝突。その勢いで飛び上がったアネモネと、怯む魔猪。額に落下エネルギーも乗った拳骨が打ち込まれ、哀れ沈黙した。


◆◆◆


 パラリラパラリラ。


 さすがに二頭は手で持って帰れず、その場の木で作ったソリに載せ、バイクに牽いてもらって竜都へ。


 その成果はもとより、異音と『聖女参上』が街の人の目を引く。


 奇異ではあっても忌避の視線でなかったことは幸いだった。

 初パラリラです。大体こんな感じで書いていきたいと思います


よろしければ画面少し下の☆☆☆☆☆で評価、関係の進展と聖都へのいわゆるざまぁというのはあることになったのでブックマーク、評価、いいねなどいただけたら幸いです

実際いまざまぁ展開ってどうなんですかね

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