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パラリラ聖女とラブピ魔王  作者: 人藤 左
プロローグ/setting,start up
2/20

亡命魔王と破門聖女

「婚約破棄、大いに結構。国外追放、上等(ジョートー)です」


 聞こえてはいないだろうが、アネモネはスニークに語りかける。……中指も立てているようだが、さっきのパンチで砕けた壁から光が差し込んできていて、よく見えない。


「……ご乱心なさったか、聖女アネモネ!」

 左端にいた疲れた顔の大臣が糺す。といっても、吹っ飛んだスニークとアネモネを見比べ、さらには他の大臣たちの顔色を窺ってからのものなので、格好だけである。


「それが何か?」


「ヒィッ」

 低い声音で睨まれ、意識のあったスニークと大臣がすくみ上がった。明確な敵対意志に、ただ一人を除いてにわかに騒めきだつ。


「ふむ。……聖女アネモネ、なにが望みだ?」


 髭を蓄えた壮年、ブラウ騎士団長が前に出た。


 僕が率いた魔族に対し、果敢に立ち向かい指揮を執った傑物。彼が立ちはだかるとなると……


「聖女アネモネ、一人で逃げろ。ここの奴らは全員僕が」


「それはいけません。クレス、あなたはここへなにを訴えに来たのですか?」


「……そうだな」

 まだ痛みと虚脱感で震える足で、アネモネに並び立つ。ブラウ以外の大臣は、隅の方で縮み上がりながら事の成り行きを見守るだけだ。


「騎士団長殿。クレスの身柄は、私が預かります。そもそもは私が、彼が魔族と知りながら助けたのが始まり……ならば、そうするのが(スジ)でしょう」


「そうだな。例えばこの俺が君たちを抑えられなければ、この国でも抑えきれない……」


「ええ。ですので私は、これから全身全霊で騎士団長殿と立ち会います。この結果を咎める者があれば、主はそれこそを咎めることでしょう――」


 ……巻き込まれている気がしないでもないが、それが一番平和的だ。


「よろしいですね、スニーク様」

 目線だけを後ろにやるブラウ騎士団長。唸るスニークと、命乞いのように首肯する大臣たち。話はまとまったらしい。


「では、」

「ええ!」


 二人の拳と剣が一度だけ交わる。

 剣先がくるくると宙を舞い、ブラウ騎士団長がこちらに背を向けた。


 聖女が一礼する。


「では、失礼します。皆さまにも主のご加護があらんことを」


◆◆◆


「すみません。最後に一度、修道院に寄らせてください」

 夜も明けてきて、アネモネが断った。


 あまり大きくもない修道院の表に、30代ほどの女性が、心配そうに立っている。

 それを見つけてアネモネは、少し早足で駆け寄った。


「すみません、マザー・シトラス! ご心配をおかけしました!」

「いいのです、聖女アネモネ。王宮に召喚されたと聞いて驚きましたが……あなたのことです、正しいことをしたのでしょう」


 マザー・シトラスは、とても穏やかに微笑んだ。


「えぇ、そのつもりです。……しかし、国外追放と婚約破棄ということになり……」


「まぁまぁ……。気に病むことはありませんよ。恥のない選択の結果なのでしょう?」


「もちろんです! ……しかし」


 アネモネの下腹部に、黄緑色に光るものがあった。

 あれは魔導陣……術式を図柄に表して刻み込み、記録するもの……だ。それが、マザー・シトラスに手をかざされて薄れていく。


「はい。申し訳ないですが、聖女アネモネはトラル教を破門にせざるを得ません」


「……承知の上です」


「誓紋は剥奪。以後、主・トラルを崇拝することを禁じます」


 マザーの膝下に跪くアネモネ。


「行きなさい、高潔なる乙女よ。主・トラルの導きがなくとも、貴方は貴方の信じる道を……」

「はい。……ありがとう、ございます」


「じゃあね、アネモネちゃん」

「うん。バイバイ、シトラスさん」


 朝焼けに照らされて、二人は抱き合う。


 ……フォルテとは喧嘩別れになってしまったが、いつかこの二人のように、納得しあって別れることができるだろうか。


「そこの魔族の少年」

「……なんだ」

 二人の間に水を差しては悪いと、適当な物陰に隠れたつもりだったが……。


「アネモネを、よろしくね」


「……わかった」


 涙ながらに頼まれて、無碍にすることなどできない。

 ……こういうのがいるから、人間は侮れないのだ。

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