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パラリラ聖女とラブピ魔王  作者: 人藤 左
都市間戦争
18/20

タイマン上等

 城に漂う瘴気の大元、謁見の間。


「ひどい……」


 アネモネの来ているものと同じ修道服を着ている女性が数人、リーヴの魔術で磔にされていた。


 ところどころ裂けた衣類からは白い肌がのぞき、血が滲んでいる……。

 口元にも血がこぼれている者もいるが、そちらは猿轡(さるぐつわ)を噛まされているのを見るに、自害を試みたのだろう。反吐が出る。


「リーヴ、バカ王子……いるんだろう。出てくれば、話し合いからはじめてやる」

「お姉さま方……、いま助けます! 《広範囲聖解アラウンド・ディスペル》!」


 僕の魔力走査と、アネモネの魔術がそれぞれ輪となって空間に広がる。

 それを打ち消す紫電。稲光に照らされたから、というわけでもないが、リーヴとスタークが暗闇から姿を現した。


「よぉ、クサレ聖女と魔王サマ」

 人ならざる魔力をまとったスニーク。その額には、僕の呪眼が埋め込まれている。


「いまのはただの魔力の波と……つまらない魔術か。すげぇ、ホントに見えるや……。ハハ、無駄無駄! リーヴの魔術に、オレの呪眼が合わさってんだ……無駄だぜ? 無駄、ムダ!」


「……そういうことです、クレス。悪いことは言わない。ただこの特等席で、修道女たちの苦悶を肴にして、竜都が焼き払われるのを眺めているといい――」


「ぐ、ぁぁああぁ、あァアァッ!」

 リーヴが指を鳴らすと、茶髪の少女の締め付けが強まった。


「話し合いは無意味ということですね」

「あぁ。すまない、アネモネ」

「いえ、こちらこそ。……手筈通り参りましょう」

「任せた」


 アネモネの背後から、魔力炉が唸る音がする。

ツッパリ結界魔術(タイマン)、上等!」


◆◆◆


 アネモネの、一対一を強制させる魔術が発動した。


「ここは……?」

 あたりを見渡すリーヴ。先ほどまで謁見の間にいたはずだが、僕たち二人は河川敷に立っている。せせらぎも、草のにおいも本物だ。


「僕にもわからない。が、ルールはただ一つ」

「勝敗が決するまで、ここから出られない――ですか」


 ここに来た時点で、頭に魔術干渉があった。シンプルな条件だが、だからこそこれだけの精度の結界を作り出せたのだろう。


「聖女の邪魔立てがないなら、ボロボロの元魔王なぞ羽虫にも劣ります。できるだけつらくしますね?」

「スニークの心配はしていないようだな」

「ええ。彼はどうでもいいですし……それに、呪眼持ちですから。聖女だろうと、魔術を使うなら彼の敵ではありません」

 針金細工のような体を小刻みに揺らし、リーヴは笑う。


「僕もアネモネの心配はしてないから、おあいこだな。最後に一つ聞きたい」

「欲張りですねぇ。そんなことだから、停戦だなどと生ぬるい話を思いつくのですよ」


「フォルテはどうしている?」

「――シシシ……。そんなに気になるなら、いますぐにでも確かめるといいですよ。そうそう、手向けの花をお忘れなきよう」


 ……。


「そうか。参考にさせてもらうよ」

「……では、」


 互いに魔術戦の構えに入る。


魔拘束魔術(カースバインド)

 紫電の鎖……謁見の間で修道女たちを磔にしていたものだ。


風加速魔術(ゲイルアクセル)!」

 鞭のような一撃を、風に乗って回避。そのまま宙を舞い、リーヴの頭上へ。


四元素生成魔術(マルチクリエイト)

 確かに僕は、いまなお一つの術式に多くの属性を混ぜ合わせることはできない。だが、連続して魔力の色を変えることはできる……嘘はついていない。

 それぞれの属性で形作られた杭が、一斉に放たれる。


「そんなチャチな魔術……報告通りですか」

 それら全てを鎖で弾き飛ばし、リーヴはニヤリと笑った。


「……ン?」


 余裕も束の間。弾いた生成物が消えていないことに気付いたリーヴの対応は、存外に早かった。対空している僕に、術式を介さないただの魔弾を打ち出す。


「ハズレだ」

 直撃。受け止めようとした右手が黒焦げになる……が、これは必要経費というやつだ。本命は、ある配置になるよう並べ立てられた杭にある。


 都市間戦争が決まってから一週間、時間があれば竜都の地図を眺め、散策してきた。全てはこの仕掛けのために。


「擬似竜脈励起――魔竜爪撃魔術(ファヴニール・クロス)!」


 迸る魔力。それは握り込むようにして、リーヴを焼いた。


 必要なのは魔導陣、その起点となる杭。杭を魔術で作ることで、属性照応の過程を省略。あらかじめ起点の魔力量を調節しておくことで、細かい陣の描画も省略。省略に省略を重ねた結果、ファニルのものとは比べ物にならないほど威力は落ちたが、一個体に向けるならこれで十分だろう。


 ――決着、である。

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