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パラリラ聖女とラブピ魔王  作者: 人藤 左
都市間戦争
17/20

参上

「アネモネッ!」

「はいッ!」


 ファヴニール・バーストが放たれるのと同時、僕はアネモネの馬威駆(バイク)の後ろの席に乗り込む。


 着弾――

「いまだ!」


 僕の合図で、バイクのアクセル(というらしい)が全開になる。天守から飛び降り、開けた通りを抜け、街の外へ。背中で結界が閉じるのを確かめながら、竜都側と聖都側の魔力比が正しいかの最終確認……よし。


「キタキタキタ来ました! クレス、しっかり掴まっててくださいっ、ねェーッ‼︎」


 パラリラパラリラ。

 一定以上の魔力を正しい比率・正しい角度でぶつけると、激突エネルギーの余波をある程度計算できるようになる。


 今回はわざわざフェニルに出力を抑えてもらって、僕とアネモネが追い風に乗れるようにしてもらった。

 結果、10パラリラで聖都王宮までひとっ飛びができたというわけだ。さすがにバイクは限界のようで、魔力に還り霧散していく。


到着(つき)ました」


 石造りの廊下にまでイヤな瘴気が漂っている。これの一番濃い場所が敵の本陣ということだ。


「何事だ!」「こっちだ、こっちから音がしたぞ!」


 喧騒に混じって鎧の音……騎士団か。

「どうする、アネモネ」

「どうするもこうするもありません。タイマンです」

 琥珀色の瞳を輝かせ、アネモネは不敵に笑う。


「貴様……、あ、アネモネ様⁉︎」


 記念すべき一人目。彼の顔には覚えがある……僕を連行したときとても申し訳なさそうにしていた青年だ。


「はい、聖女アネモネです。ご無礼をお許しください」

「私は聖都の騎士です。ご容赦を……」


「《土拘束魔術(ソイル・ジェイル)》。悪いな青年、僕たちは平和主義者だ」


 及び腰な青年を、床を分解して作った重石で捕らえる。そう簡単には抜け出せまい。


「あ、ありがとうございます……」


 それからも次々に拘束していく。スニークがよほどのことをしているのか、騎士たちの士気は驚くほどに低い。助かった。


 辿り辿って、謁見の間前。


「部下への配慮、感謝する――」

 一騎当千、騎士団長ブレイが待ち構えていた。


「ご無沙汰しております、ブレイ騎士団長殿」

 一礼するアネモネ。


「ご丁寧に。だが、騎士団長としてここを通すわけにはいかない」


「騎士団長として、か。あなたとしてはどうなんだ、ブレイ」


 問いかけると、ブレイは苦い顔をしたまま押し黙り、腰に下げた剣の柄に手をかけた。


「竜都で学んだことだが、戦うのには理由がいるらしい。剣であれ魔術であれ言葉であれ、理由が」


 ディラヌス氏は、しつこいくらいに聞いてきた。

 あのとき僕は、妹のフォルテのためだと答えた。魔族が滅べば、当然フォルテも僕も例外ではない。――だが。


「あれから今日まで、僕も理由を探していた。……結論は変わらなかったよ」


 フォルテは大事だ。だが、それと同じように、あの傍迷惑な旗を掲げる人々も大切だ。僕が守る必要のないくらい強いアネモネだが、それでも気持ちだけは向けていたい。


「僕は魔族と、人間を守る。そのための停戦と和平、愛と平和だ。……騎士団長ブレイ、ひとりの男としていま一度問う。あなたは何のために、その剣を握る」


「…………すまない」


 抜かれた剣先は、アネモネに折られたままだった。それを補うようにして、紫電の魔力が伸びている。リーヴの得意とする、魔拘束魔術の一種だろう。呪眼がこちらにあるのなら、こういう芸当もできるはずだ。


「クレス、下がってください」

「いいや、僕がやる。ここに来たとき、ブレイには世話になった。その恩返しだ」


「――えぇ。任せました、我が主・クレス」


 ブレイの構えは正眼。しかし、急拵えの魔剣のせいで全体のバランスは崩れている。


「《風打撃魔術(エアロ・ストライク)》!」

 無数の風の弾丸を投げかけるが、全て切り払われた。さすがの剣捌き……だが、

「《風拘束魔術(エアロジェイル)》」

「むっ……!」


 形状を失った風を再び操作。紫電瞬く剣身を縛り上げる。


真空崩壊魔術(エアリアル・コラプス)


 風属性の上位魔術。本来密度を上げる運用の風属性を、逆に下げる術式だ。圧力が下がり、やがて形を抑えるために必要な分すら補えなくなり――魔剣はガタガタと震えながら、甲高い音を立てて分子レベルに分解された。


「見事だ、魔王クレス」

「あなたもだ、ブラウ。いつものちゃんとした剣なら、こうはならなかっただろう」


 深く頭を下げるブラウ。彼に見送られるようにして、僕たちは謁見の間の扉を開く。

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