決意と竜とツッパリ酒場
「面白い」
急ぐといえば急ぐので、僕はアネモネと手分けして都市間戦争について話すことにした。
ギルドの方は聖女に任せて、僕はロード・ディラヌスに申し上げたところ、彼は獰猛な笑みを浮かべてそう呟いた。
「スラーのヤツめ、やってくれたな……」
スラーというのは、病気で臥せっていたスタークの父親で、聖都の王である。この度魔族との暗い癒着と死亡が発覚した次第だ。
「面白い、面白い! 魔族を抱え込むとは! それで自分が殺されては甲斐もない!」
「ロード・ディラヌス、話を……」
「そうか、すまない」
立派な椅子に深く座り込むディラヌス氏。好戦的な性格は竜の遺伝子によるものなのだろうか。
「僕の事情でこんなことになってしまって、すまないと思っている。できる限り、僕と……それからアネモネとで対処するつもりだ。ロード・ディラヌスはどうか、ギルドと協力して万が一に備え防衛を――」
「ぬるい」
僕の提案を遮り、ディラヌス氏は再び立ち上がった。
「聖都が以前から魔族と繋がっていた以上、クレスくんに関係なく、この戦いは避けられなかった。それがいまちょうど、君たちに合わせて来たというだけだ」
「……」
「情報提供、感謝する。以後はこのディラヌスが指揮を執ろう」
やはり、僕では最終的なところで信用に足りないのか。
こんなときアネモネならどうしただろうか。
こんなとき、僕じゃなかったらどうするだろうか。
「……ロード・ディラヌス、僕は」
「答えを変えるつもりはないが、いい。言ってみろ」
僕は――
「僕は、この戦いで証明したい。魔族の王として、人間との停戦と和平を申し出る、その気持ちに偽りはないと。そのためになら、たとえ同胞だろうと、人間の王族だろうと受けて立つ」
「…………それだけか?」
「それだけ、だと……?」
一笑に伏された気がして、思わずディラヌス氏を睨みつける。と、期待はずれだと言わんばかりの視線で返された。
「私……いや、おれは、娘のために戦う。次に竜都の人々、最後に竜都そのものだ。この優先順位は譲らん。クレスくんはどうだ? この戦いに何を懸ける? ……いや、君の大願、魔族の滅亡とやらを回避したいのは何故だ?」
「そんなもの、フォルテの……妹のために決まっている」
答えると、ディラヌス氏の大きく厳つい拳が胸に押し当てられた。
「いい答えだ。それでこそ漢だ。漢は信用できる! いいだろう! 娘のファニルともども、この度の聖都との戦争を魔王クレスに任せる!」
「……ありがとう、ロード・ディラヌス」
……ん?
「ファニルさんが、なんですか?」
「二度も言わせるな、男らしくもない。娘はクレスくんとアネモネくんによく懐いている……いい年頃だ、婚約の一つや二つ、な」
な、と言われても……。
「君にアネモネくんや妹くんがいるのはわかっている。だが、どうか一考願いたい。男の頼みだ」
……殺し文句だよ、それは。
◆◆◆
クレスさまと分担して都市間戦争についてお話しすることに決まり、ギルドに来ました。
「アネさん!」「アネさんだ!」「クレスの旦那はどうした?」
このごろ信徒の間で変な呼び名が流行っていますね。
親しんでくれるのはよいのですが、どうも別の意味があるように思えてなりません。
「――ということで、とても脅威いです」
事情をお伝えすると、しばし沈黙ののち、みなさん沸き上がってしまいました。
「やってやろうじゃねぇか!」「悪事かますと聖女が来るってこと、思い知らしてやろうぜ!」「おうよ! 聖都上等だ!」「アネさんもほら、景気付けに一杯どうです?」
お酒は苦手なのですが……。
「せっかくなので、少しだけいただきます」
……。
ひどく熱いものが喉を走った。蒸留酒らしい、刺激バチバチの飲み心地だ。
「タイマン……です」
「……タイマン?」
「未熟いガキと悪辣い魔族が二人、クレスさまと私の因縁です。ので、ぶちのめします」
「そしたらオレたちは……なにをすりゃいいんだよ」
「脅威い規模さの魔術攻撃が予想されっから……夜露死苦」
「うおお! 『夜露に凍える子羊よ。死の苦しみに怯える兄弟よ。手を繋ぎましょう、笑い合いましょう――』」「『夜露に凍える子羊よ。死の苦しみに怯える兄弟よ。手を繋ぎましょう、笑い合いましょう――』」
「「「夜露死苦ゥ‼︎」」」