第二章ー3:幽霊より人間が怖い
武義視点です。
死体はきれいさっぱり消えている、けれど血痕は床には残っている。確認するとやはり濡れていて新しく出来たもので間違いない。
問題はその元がどこに消えてしまったかになる。
<ねぇ、まさか...幽霊なんてことないわよね?>
<そういえば苦手なんだっけ>
<あんたのゴキブリ嫌いよりマシでしょ?!>
<対処できる以上マシですぅー。つーか手ぐらいでかいゴキブリが顔面に飛び込めが誰でも大っ嫌いになるわ>
残念ながらこの世界にもGの気持ち悪い奴が存在する。それも魔力の渦とか自然に発生する瘴気のおかげでたまに突然変異体が出てきた大きくなったりする。
あれは当時調査していた森も一緒に燃やそうと真剣に考えた。
<完全に消えた?>
<ああ、どこに行ったのか全然わからねぇ>
あのひどい魔物エキスのおかげで空間の把握が容易になり、物体の方向量もある程度操作ができるようになった。常に発動し、加減は調整できながらも範囲内での動きや気配にはかなり敏感になっている。
しかし二つの死体は異世界に飲み込まれたかのようにきれいさっぱり消えてしまっている。ジャンヌが懸念している通り、まるで幽霊がふらりと消えるかのように。
そしてこの世界には神秘は衰退し、消え隠れてしまったけど意思のない存在や瘴気のせいで発生する幽霊や魔獣の類ははびこっている。そして神隠しみたいな事象はこの世界ではある程度の説明もついてしまっている。
「あるいは...」
<私たちはともかく、月詠と陽菜も幻術に掛けられるほどの存在がいると言うの?それこそゆ、ゆーれいなんかよりもありえなくない?>
<それもある、けれどさっきから探しているのに見つからないんだよ?死体をわざわざ神隠しするような理由も考えにくいんだけど>
下の階には事務所らしい場所に五人ほどいるが、何かした気配もないので彼らではない。と言うより遭遇したごろつきには魔法や魔術も使える奴らではなかったし、ちゃんとした戦闘訓練もうけていないだろう。
「ん?」
月詠は何かに気が付いたかのようで肩から飛び降り血痕の匂いを嗅ぐ。二本ある尻尾を揺らめき、彼女が考察をしているのがわかる。
バシュッ
タタンッ
二人が警戒し、急に尻尾が膨らんだと思ったら急に壁に何かあると警告してきた。疑う事もなく、銃をその壁に向けて躊躇せず発砲した。
「これって...」
「ペーパードールだな」
北剣連邦軍術式監視人形、通称ペーパードールは海を挟んだ二つの大陸の内、北の方を支配する軍事大国が数多く使用している人形の一つだ。紙の様に平たく、色素を変えることで隠密と情報収集に長けている人形で厄介だ。
けれど目の前にあるペーパードールは知っているのとは性能が強化されている。平たくて壁に溶け込むようなことはあったけど死体を飲み込める事はなかった。
今までは
<いま、死体を収納していたわよね?>
<別次元に物体の収納する魔術式を人形に書き込んだ上に発動するのも奇跡でもなければ不可能だったはずだな>
<それより...>
<幽霊だと思ったら今度はゾンビかよ、どこのB級ホラー映画だ>
二つの死体が急に起き上がった。生きてはいないのは目に見えているけど、まるで趣味の悪いゾンビ映画みたいにふらふらと歩いてくる。
<タケ、頭部以外で倒して。何か術式みたいなのが埋め込まれている>
<了解、なんとなく魔術の反応がわかるようになってきた>
霊力を少しだけ活性化させると右手のブレスレットが反応し、扱いやすくしてくれる。右手に霊力を集中させ、屍が歩み寄るのを待つ。
「ハッ!」
張り手で一体目の胸部に打ち込むと運動量が倍増され、胸部が吹き飛ぶ。続けて二体目に肘鉄を同じく胸部に打ち込み、同じように吹き飛び、両方とも動かなくなる。
ジャンヌは警戒しながらも急ぎ足で近づき、頭部に埋め込まれている術式を無理やり呼び出して記録している。
「ここまでやればさすがに気づかれたな」
「こっちの方はもうちょっとで読み取れ、ああもうっ自動消滅術式ある!手離せない!」
下の階から叫び声が聞こえ、階段をけたたましく上がってくる音が聞こえる。ジャンヌは手が離せないようなので、下の階への扉が開き次第迎撃できるよう警戒する。
気配を探っていると一人だけ妙な雰囲気なのが今になって気が付く。少し違うけどさっきの二体と似たような雰囲気だ。
「おいこっちだ!」
「くそっ、アイドルを拉致る簡単な稼ぎだったのに何だってんだ!」
「おい、てめぇ、誰だっガッ?!」
扉が開き、誤認のごろつきが拳銃とか振り回しながら威嚇してくる。五人ともいるのを確認してから胸部をすべて撃ち抜く。
「今更だけど、何で捕獲じゃなくて始末だったんだろう」
「さあ、...オーケー記録終了したわ。こんなの仕込んでいたなんて思わなかったわ」
「政府関連の依頼だったし、きな臭いな」
「間違いないわ、この術式、大陸の連合が使っている死体操作の術式ね。それにペーパードールもいるとなると、あのアイドルグループ、何か裏がありそうね」
「急いでいこう、もうライブも始めっているけど何も起こらない保証はないしな」
「そうね、後始末の件ではミセス・ヴァイオレットには私が連絡しておくわ、安全運転でね」
「突撃銃は持っていく。月詠と陽菜も一緒に来る?」
二匹の猫又は尻尾を工程のしるしで振り、それぞれ俺たちの肩に乗る。
建物の制圧と後片付けについて連絡しながら俺たちは外に置いてあるバイクにまたがり、例のアイドル達のライブが開かれている会場に向かう。
リアルの仕事でごたごたしてて少し遅れました。少し短めになってしまったのも同じ理由です。来週はもう少し集中できると思います。




