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終末への事件簿  作者: 武美館
第二章:アイドルの裏事情
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第二章ー1:良薬は口に苦し?

天馬視点です。すこし短めになってしまいました。

ビルの屋上は雲の後ろからちらほらと姿見せる月に照らされた。この距離からは視認される筈はないが、癖で身を伏せてしまう。


再度手元にある対物狙撃銃の動作確認をし、何度目かのスコープの調整をする。その先に見えるのは数キロ離れている7階建ての建物だ。


<どう?その距離から狙える?>


<ああ、今になっては予測も弾道をある程度影響させて命中させる事が出来ると思う>


スコープで道路の反対側の建物の屋上を確認するとジャンヌが手を微かに振っていた。俺と同じ黒装束で服のしたには身体装甲を着込んでいて、さらにホテルの事件で非公式に使えるようになったサプレッサー付きの突撃銃も持っている。


至近距離、というより建物の中ではほぼ意味はないけど。


<本当にそこから飛び移るつもり?>


<出来ると思うわ。甲冑魔法で足場の確保は元々できたけど、かなりの数を長時間展開できるようになったから。多分身体強化無しでも散歩みたいに渡れると思うわよ?>


<...わたっているのを見られなければね>


<それはタケの仕事でしょ?>


ジャンヌが言っている事ははったりではない。昨日無理やり飲まされたあれのおかげでジャンヌも含めて俺たちの身体能力やジャンヌの魔法、そして俺の権能が扱いやすくなったり強化されている。


<...感謝したくはないけど、本っ当にありがたく思いたくないんだけど>


<まあ、いろいろと戦術のはばが広がったのは確かだな。多分先日の迷宮帰り相手なら余裕じゃない?>


<うぅ、あの味思い出したくない>


それは昨日の出来事だった。


―――...


「何も言わずにこれを飲んで」


「「嫌よ(です)」」


「つべこべ言わずに飲みなさい」


「嫌よ!こんなにも毒々しくて臭いものなんて飲む奴いないわよ、普通!」


ジャンヌは今紫雨さんの対面のソファの後ろに隠れている。猫だったら全身の毛が逆立って尻尾も膨れているほどの剣幕だ。


わからないでもないが。


紫雨さんが有無を言わさない表情で渡してきたのは小さいエナジードリンクぐらいで物凄い悪臭を放つボトルだった。興味本位で栓を開け、直に匂いを嗅いでしまったジャンヌは意識が一瞬飛んでボトルを落としてしまった。


その時は紫雨さんが物凄い慌て様でボトルを掴んでからどれだけこのボトルが高価なのか説教された。市場にも出されない高級品で大抵は豪族や王族間で取引をされるような代物であり、運よく二つも手に入れたみたいだ。それで仲良く二人で飲むわけみたいで、ジャンヌに押し付ける事も出来ない。


「せめて効果を教えてください」


「そうよ、こんな臭いのにしょぼい効果しかないなら割に合わないわよ!」


未だに匂いが答えているみたいでジャンヌは鼻を抑えながら涙目で叫んでいる。


「これは...強くなる薬!」


「「...」」


「紫雨さん、それって経験値ポーションっていうやつですか?」


部屋にいた天馬は鼻を手で覆いながらもワクワクした顔で二つのボトルを見ていた。多分ゲームの知識とかで知っているんだろう。


「ん~()()はそう言われていた記録があるわね。現在判明しているのはこの()()()を取り込むことで魔脈が発達し、同時に潜在能力を引き出したりして成長の限界を引き上げる事よ...ってなんで二人共逃げ腰なの?必要なのよ、二人には?ねぇ?」


エキスと聞いた時点で何のエキスかわかってしまった。紫雨さんが説明した‘成長’というのは大抵魔物や魔獣の討伐により微量ながら起こる事であり、迷宮帰りが群を抜いて強い理由の一つでもある。


そして当然その様な事を数倍にして可能とするエキスなんて当然魔物や魔獣のエキスだ。


「良薬は口に苦し、というでしょう?二人には明後日からマギア・ルージュの護衛について貰うから学院の迷宮に潜る時間がないのよ。だから運よく手に入ったこれで二人の強化を今のうちにしようというわけ」


その後俺たちは力づく飲まされ、その味は異臭のせいで覚えていない。あの悪名高い北欧のシュールストレミング以上の匂いではっきり言えば記憶が飛んだ。


―――...


<でもアイドル達を誘拐しようとしている裏組織を壊滅させてから護衛の為にライブに向かえって、あのおばさん人使いが荒すぎるわよ>


<否定できないな~>


少しだけ無理難題を上司に押し付けられた社員の気分を味わってからから二人揃って気を引き締める。


<あんたに合わせるわ、開始いつでもどうぞ>


<わかった、その前にチェックする>


<オーケー、装備全部確認、魔法の展開も可能。後でドームに行くためのバイクも建物の裏に駐車しておいたわ。装備の方は指定のロッカーにしまい込んでおけばうちの者が回収してくれる筈だから>


<了解、こちらも屋上の見張りを始末し終えたら、そちらに合流。パラシュートの方も確認終了、風は...まあ何とか出来ると思う。開始十秒前>


...


音速を超える弾丸の独特な破裂音は都市の音にかき消され、弾丸はただひたすら飛ぶ。そして二秒も立たないうちに屋上で煙草を吸っている一人の男性の命を刈り取る。


立て続けに魂を刈り取られた見張りは自分たちの死神の顔を拝める事もなく、静かに眠る。彼らが立っていた屋上に黒装束の女性が舞い降りた事を仲間に知らせることもなく。

次の週末にまた更新します。

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