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終末への事件簿  作者: 武美館
第一章:入学の裏事情
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第一章ー11:足元掬われない様に

武義視点です、少しだけグロい描写もあります。

何が起こったのか朧気にしか覚えていない。ただひたすら手を伸ばし、決して差し出されることのない手を掴もうとしていた。


死ぬことさえ許されなかった、心も精神も抜け落ちていたあの日々。今も事件前の事はもうどす黒い霧としか思い出せないし、あの日までは空っぽだった。



――「私の騎士に、手を出すな」



凍っていた心を溶かしてくれた、あの朝露の様に冷たく澄んだ瞳。


立ち止まって下を向いていたところ、彼女が手を差し伸べた。



――「私の夢を、希望を、叶えてくれ」



死ぬことを許されなかった俺に、生きる理由を与えてくれた。


それは蜃気楼の様に揺らめき、どう捉えればいいのかわからない、儚くも何も知らない夢。



――「私が背負おう、其方の罪を、業を。だから、叶えてくれ、我が騎士よ」



だから、たとえ地獄の先でも追う。


足元はどす黒い沼になり、亡霊が足掻き、甘言と恨み言を囁く。それでも差し出された手を、あの後ろ姿を追い続けるしかない。



――「その為に、我が杖、我が力の根源の一つを預けた。其方の道しるべとして、足元を照らし、私の元へと導く為に」



「いい加減に起きなさい」


―――...


目が覚めたのは昔見た殺風景な空間だった。いや、ここにいる事はただ魂だけを目の前にいる女神様が召喚したのだろう。


金細工がある漆黒の玉座の前に膝まづく。座しているのは金髪金眼で絶世の美女である女神様だ。豊穣と戦の女神であり、俺とジャンヌの勝利の女神。


「お久しぶりにお目にかかります、女神様」


「だからその堅苦しい話し方は毎回しなくていいって言っているでしょうに」

見眼麗しい女神様から美女らしからぬ溜息が出る。


「それで俺の体はどうなっているんですか?」


「さすがにあれは予想外だった、とは言いたいけど迷宮攻略者を送ってくるほどの的が二人もいたから当然でしょうね。あなたの体は致命傷だったけど大丈夫よ、ちょっとした軌跡を起こしたから。()()にも手元に札に術式を書き込める装置があったから適当にパパっと元通りにしておいたわ」


最後に覚えているのはあの迷宮帰りがバイクを飛び蹴りで真っ二つに割り、それが顔面に迫っていた事だ。そのあと何が起こったかは悲惨な想像になる。


玉座の方を見ると、なぜか女神様はしれーっとした表情で携帯をいじっていた。体が再生するまで何もすることがないのだろう。


「別に退屈しているわけではないわよ?天照がたまに遊びに来てくれるし、あなた達を見ていて飽きないから。今はちょっと確認する事があったのよ」


携帯で???


最近の神々はモダンになっているみたいだ。もともとこの部屋も殺風景だけど、以前ジャンヌと一緒に召喚されたときこたつと家庭用ゲーム機なんか置いてあった。あの時は国民的レーシングゲームの新作が出てきたから遊ぶのに付き合わされた、それもその時通りかかった須佐之男様も巻き込んで。


「よし、っと。これで誤魔化せるでしょうね。制約による制限も足しておいたから当分の間はバレる事もないし」


「何がですか、女神様」


指をパチンと鳴らし、凛と澄んだ音が空間に響き渡る。同時に懐かしい森林と大樹の匂いがする。あの人の懐かしい雰囲気を感じる、右の手首から。


「あの魔女、その杖に面倒な制限を付けていたわ。それがようやく解除したみたいだから認識出来るようになったのよ。まさか神の眼から逃れられるなんて、大した魔術よ」


右手首には名の知らない葉が何個も垂れている銀色のブレスレットがある。違和感がなく、昔からそこに存在したかのように思える。いや、存在していて今まで気づかせなかったんだろう。


「そろそろ体の修復も終わるわ。ぶっつけ本番だけど、迷宮帰りに対抗できる手段はジャンヌしか持っていなかったから丁度いいわ。...まるで見計らったような時に使えるようになったのが癪だけど」


ブレスレットは意識すると変化し、一度だけ見たことがある漂白したリンゴの杖が手に納まる。


「そうだったんだ」

見守ってくれていたんだ、今まで。


「さて、と。そろそろ目覚めてあなたの王子様の心配を労ってあげなさい?くれぐれも油断をしない様にね?」


「ありがとうございます、女神様」


女神様の最後の一言と共に意識が薄れていく。でもその一言はいつもの慈悲深さはこもっておらず、冷たく冷え切って神としての威厳がある命令だった。



―――...



「うあああああっ!!」


「うはははっ!ねぇちゃんすげぇ元気じゃねぇかよー、躾するのが楽しみだぜ!彼氏が死んだのがよっぽど頭にきたのか?」


朧げに意識が戻りながら聞こえたのは激しい戦いの音と二人の唸り声だ。


空間の把握をすると、破壊された公道の上でジャンヌと迷宮帰りが何度も打ち合っている。ジャンヌはカズィクル・ボルグと甲冑魔法の重ね掛け、迷宮帰りは迷宮の恩恵であろう身体強化で素手で交戦しつつ、有効打はどちらにもない以上進展はない。けれど頭に血が上ってしまっているジャンヌが少しばかり不利な上、体力も魔力も向こうの方が上みたいだかジリ貧でも負けるだろう。


だから卑怯でも不意打ちで確実に消すべきだ。そのための算段はあるし、あの人が認めてくれたから。


状況を確認する。公道の遥か先に天馬と両殿下を乗せたミニバンが止まったままだ。さっさと本邸に行ってくれれば心配事が減るんだが。


札の残りはないし、術式を構築して焼き付ける装置も半壊しているから使えない。女神様が体を修復してくれた時に壊れたんだろう。


「オラオラオラァッ!あの威勢はどうしたんだ!全然俺様に通用しねぇぜ!」


ジャンヌは無数に生える茨の槍で牽制するけど少しずつ迷宮帰りの猛攻で押され始めた。


黒い稲光の様に迷宮帰りを串刺しにしようとする茨の槍を猛烈な速さでいなしながら迷宮帰りは猛攻を続ける。あの迷宮帰りの助走の反動で地面がえぐれ、茨が次々と地面からも生えて彼を串刺しにしようとしているから公道の後形もない。


「コロシテヤル」


だからジャンヌの集中が今途切れば致命的な状況になってしまう。彼女には悪いけど、意識はともかく、生きている事だけで勘弁してもらう。もともとこの繋がりをある程度遮断できなければ風呂とかは大変だったからなー。


さて、準備しなければならないのはガレージで渡された特殊弾だ。俺の発案で開発された魔獣と魔法士に一般人が対抗できるために作られた魔毒、所謂魔力持ちに対する銀の弾丸に近い。


とは言っても当たって貫通しなければ意味はないし、魔法や魔術に当たればその効力も落ちてしまい、戦闘より奇襲や魔獣対策に向いている。何しろこの弾丸は魔力を食って僅かな瘴気をまき散らす魔術ウィルスだから、使い勝手がかなり悪い。


「オラオラ、んなちゃちな攻撃じゃ俺様に当たらないぜ?」


でも今には最適だ、死んだと思われているから奇襲がしやすい。唯一の問題はあの防御力をどう突破するかだけど、今の俺にはあの人の杖がある。


静かに、感づかれない様に体内の()()を動かす。今までは出来なかった事、それを彼女が可能にしてくれる。少しだけ、まるで体を慣らすように少しだけ霊力が弾丸に纏う。


それは一種の奇跡、空間の権能を元にした防御を無視する奇跡の付与。霊力さえも制御できる杖の恩恵故に奇跡を起こせた。


以前この霊力で力を使おうとしてしまい、腕の血管すべてに亀裂が走り、絶命寸前までなってしまった。その時相手を排除出来た代償として魔導災害を引き起こし、医療技術が何倍も発達しているこの世界で全治に一か月半もかかってしまった。


準備は整った、あとは機を待つだけ。


当然それはすぐに来た、当然ですね。斜め後ろに位置している以上隙だらけだからなー。


空間の把握がより簡単になっている。どこを狙えばいいのかわかる、外さないのはわかっている。


静かに、ゆっくりと引き金を引く。


「あ?な、んだ、これ、は。ああぁっあああああああああああ!!!!!」


全身の血管から血が噴き出て、その激痛を掻きむしりだそうと迷宮帰りはもがく。もうこの弾丸が命中した時点で激痛の中死ぬのは秒読みだ。


「タケッ!!」


その光景が目に入っていないジャンヌが飛んでくる。よほど心配していたんだろう痛いイタイイタイッ!!


「あんたねぇ~、せめて無事な事ぐらいは伝えてもよかったでしょう?!」


ジャンヌにこめかみを思いっきりぐりぐりされてマジでイタイ!


「だって、普通あんな状態で意識戻ったの知ったら驚いて隙が出来るだろうがっ」


「いらない気遣いよっ!全く、久しぶりにひやひやしたわよ。それと認めて貰えてヨカッタネ」


右の手首にあるブレスレットに気が付いたジャンヌは察したらしく、一歩近づいた事に素直に喜んでくれている。口調からしてまださっきの事は根に持っているけど。


「ああ...だから悪かったって」


「はぁ、もう追手が来ないでしょうし、戦闘を見ていたバカおぼっちゃまに乗せてもらいましょう」


壊れて瓦礫だらけの公道の先からミニバンが戻ってくるのが見える。


霊力を扱うのは初めてだからなのか、死にそうになったのを無理やり復元した疲労なのか、たってもまだふらつく。


けれどジャンヌは無言で肩を貸してくれる。

第一章はあと少しで終わります。幕間挟むかどうかは悩んでいます(重いから)。

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