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終末への事件簿  作者: 武美館
第一章:入学の裏事情
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第一章ー10:メットの装着忘れずに

ジャンヌ視点です。

ビル内とは打って変わって公道は静まっている。普段ならばバイクでなければ速度を出せないほどの渋谷の筈だけど、緊急事態が故に公道の交通は制御されている。とは言っても全てを避難できたようではなく、所々車や貨物トラックが脇に寄せてあるのが見える。


<首尾はどう?>


<どうだろうな~、流石にこのまま本邸まで行かせて貰えるような連中とは思えないからな。追ってもそろそろだと思うんだけど、まだ確認出来ていない>


タケはバイクの上で私と背中合わせて座っているから彼の体の暖かさが直接伝わる。微かにガチャガチャ後ろから音が聞こえるけど、多分家の者から渡された新型の突撃銃の動作確認でしょうね。


<...向こう側はどうなってんだろうな>


唐突だけど驚きはしなかった。タケはたま~にこういう張り詰めた戦場の空気の最中、心がここにあらずになる事がある。まるで命の取り合いにさほど神経を使っていないかの様に、遥か彼方にある楽園を夢見るように。


<まだ柳葉の話は聞けていないからね。思い人が心配?>


<んなわけないのはお前が一番知っているだろう?歴代屈指の魔女なんて心配する必要なんてないさ。逆に知らないことだらけなんだけどな>


本当は心配しているのに、また自分に嘘をついている。けれどそれはタケが思い人を信じているから嘘をついているんでしょうけど。少しだけモヤモヤする。


なんなのでしょうね...


先にビルから脱出していた天馬と両殿下達の車が見えてきた。初めての運転みたいだからあまりにも飛ばさないのはわかるけど、もう少し緊張感を持って急いで欲しいわ。


助手席側の窓を叩き、アストリッド殿下が窓を下ろしてから指示する。けれど最初は聞こえなかったようなので声を上げる。


「もっと早く飛ばしなさい!本邸に着くまで安全とは言えないんだから!」


「わかりました!そう伝えます!」


頭を車内から出したアストリッド殿下の髪は風のせいでめちゃめちゃになり、彼女は鬱陶しそうに髪を払いながら頭を引っ込める。


そういえば髪を纏めないといざ戦闘になったら邪魔になるから纏めないと。


<ガレージで纏めてあげたよ~、力作>


<そういえばそうだったわね。やけに時間が掛かっていたと思ったらガチガチ固めているじゃないの>


<髪留めさえ外せば大丈夫>


タケが内面ドヤ顔なのが後ろから伝わってくる。まあ、いいけど...


けれど今は遊んでいる場合ではない。タケから追っての位置情報が送られ、静かに、精錬された機械の様に狙いを定めているのがわかる。


「ちっ」


舌打ちと共に術式電磁投射銃の独特な破裂音が遅れて聞こえる。外したわけではなく、正確に追手の軽トラの運転手を射貫けた筈が阻まれてしまったらしい。


瞬く間に破裂音が響き渡り、30メートル辺り後方から車のつんざく衝突音が何度か聞こえる。


<追手は?>


<片付いたのと感がいいので半々、加勢して貰うまではないかな?>


感覚でタケが何を始末できたかわかる。軽トラは前のタイヤが撃ち抜かれて転倒し、バイクに乗っていた何人かも同じようにタイヤか頭を撃ち抜かれている。わざわざ前にいるのを的にし、後ろの追手を巻き添えにするよう図ってやったのも流石ね。


<わかった>


<?!速度今すぐ上げろ!>

「天馬!!アクセル踏めっ!!」


問答無用でアクセルを踏み、重心が少しずれていきなり速度を上げたので後輪走行になってしまう。


「って落ちる落ちるヘルメット忘れたっ!」


<しっかり捕まっておきなさい!>


タケは後ろを向いて座っていた。当然でしょうけど追手の始末をしていたから。


そこで後輪走行になると必然的にタケは前のめりになり、顔面すれすれのエキサイティングなお肌の手入れタイムに突入してしまった。ゴメンネ


けれど笑える状況ではない。後ろからはけたたましい音と共にバイクから地面の振動を感じる。公道を支えるコンクリと鉄筋と魔術の柱が次々となし崩し的に崩れていき、道路も同じように沈没する地面の様に落ちていく。


焦りは感じない。タケも焦ってはいないし、私が乗り切れるという絶対の信頼がある。


一分も立たないうちに安定した地面に差し掛かるからそこで迎え撃てるはず。それまでにしのげばいい。


タケから情報が流れてきてどこが先に脆くなり、避けなければいけないのがわかる。その情報から最適なルートは長年の経験ですぐに思いつき、体重とハンドルの細かな制御でバイクが自然と進んでくれる。


けれど、久しぶりにタケの感情が揺れているのがわかる。イラついている、追手が死んだことではなく、それを粗末に扱う相手に対して。


<カズィクル・ボルグ使用申請します、女神様。迷宮帰りです>


<使用の許可するわ、くれぐれも遅れをとらない様に。武義が能力の解放をしなくていいようにしなさい>


<<勝利の女神様に捧げます>>


右腕にあるブレスレットが微かに振動し、魔力が馴染むように絡み合い、それは変形する。何千人もの生血をすすってきた異形で歪な変化を成し遂げた茨の槍が右手に納まる。


タケも突撃銃と他にも試験的に使えと渡された拳銃と東洋式魔術触媒札を手慣れた手つきですばやく確認する。


そして()が現れる寸前、札のホルダーに予めセットされていた爆発術を選択し、それを後方で発動した。そうすることは伝わっていたから魔力の盾を展開して爆風と衝撃はから二人を守る。


でもそれは迷宮帰りを牽制は出来たけど足止めにはならなかった。


「おいおい、そんなおもちゃで俺様を傷つけられると思ったのかよ?!ええっ?!」


<うっわ、チンピラじゃんあれ完全に>


<気にするのそこ?どう見てもあれ走って追いついて来ているわよね?>


<ああ、さっき何発か手応えあったはずなんだけど、傷跡もない。多分迷宮の恩恵は防御系統と身体強化だと思う、単純な迷宮帰りとは身体能力が比べ物にならないな。けれどわざわざ手で防いだりしているから常時発動型じゃないと思う>


<隙を作ってくれれば何とか出来るわけね。問題は身体能力だけど、そこは何とかするわ>


<最悪の場合二重の囮でこの銃弾の試験運用が出来るけど、これはまだ人目に晒せる段階じゃないか甲冑魔法展開っ>


言われた通り即席の魔力の盾を二重で展開すると瞬く間に破壊されてしまった。でも飛び蹴りをしてきた迷宮帰りの軌道は少しだけ逸れた様で、斜め前に轟音と共に迷宮帰りが着地する。


まだ距離があるから聞こえないけど、読唇術を多少習った私たちには何言っているのかわかる。


「よう、クソ虫共が。エルフのお姫様ってぇのを捕まえねぇといけないんだけどよ、てめぇらを嬲り殺してもいいんだよな?」


<あれ、‘転生者’だな>


<いいの?>


確認しただけ。タケと()()境遇の者をこの世界から消していいのか。


<もとから構わない。助けを求めるなら助ける、そうでないなら放っておいて、邪魔をするなら潰す、それだけだ>


<わかった>


タケに私が意図している事が伝わり、捕まってくれる。


速度を上げて腰を浮かし、タケにタイミングを計らせてもらう。身体強化も出来るだけ脚力に回す。


そしてあのヘラヘラと下卑た笑みを浮かべている迷宮帰りに対し、バイクを浮かせてから慣性を使って投げつける。


「まずっ」


予想外に、迷宮帰りが一直線に飛び蹴りでバイクを二つに叩き割り、私たちに接近する。


「タケッ!!」


甲冑魔法が間に合わない。


ふざけないで


死なせない


殺させない


ユルサナイ

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