第一章ー9:いとも簡単に、静かに
天馬視点です。
ガレージは地獄だった。
アストリッドもエルウェミニアもその光景に目を見開いていた。その中で普通にダジャレを飛ばしているジャンヌと武義は異端、まるで戦場に巣くう終末の騎士に思ってしまった。
「ワオ、これは派手なドンパチ祭りになっているねー」
「馬鹿言ってないで早く乗り物のところに行くわよ、とっとと終わらせてトイレに行きたいわ」
「...お嬢様になったんだからもう少しオブラートに包まんと怒られるぜ?あと本邸まで数十分はかかるから」
「...今のうちに行こうかしら」
「時間は惜しいです♪いてぇっ」
性格が入れ替わったようなジャンヌと武義の二人はそれでも冷静にガレージを見渡して状況を把握している。こういう風景を至って冷静に受け流すため、性格が切り替わるのがもしれない。
けれど、二人は同じ人間だ、変わらないことはない。とんでもなく思い過去をジャンヌにあるのはしっているし、察するには武義もそうなんだろう。
でも俺は二人の屈託のない笑顔が見たい、狂ったような笑みではなく普通の嬉しさと楽しさで笑って欲しい。今はそれだけでいい、それだけで二人と友達になりたい理由は充分な筈だ。
「あ、ジャンヌ髪留め、さっき落としてた」
「悪いけどお願い、弾倉の整理するから」
武義は持っている拳銃をジャンヌに渡し、手慣れた風にジャンヌの髪を纏めて顔に髪がかからない様にする。ジャンヌは二人が持っている弾倉で残っている弾丸を整理し、魔力も充填する。
その間には辰の上家の隠密と思える人たちが車のエンジンブロックやコンクリートの柱を盾にして応戦し続けている。そのうちの一人は長くて黒いケースを持ってきた。
「ミスター・マサムネ、どうぞこれらをご使用ください。バイクと四人乗りの自動車を無効に用意してあります。ライフルはバビロン・テックス社の試作型突撃銃です」
「わざわざすまないねー。天馬、運転頼む」
「は?っておい!俺運転なんてまともにっ!」
武義は鍵投げよこしてから前世のミニバンに当てはまる、少し未来的な車を指す。柱に隠れていて銃弾戦の被害は少なく、わりと丈夫に出来ているみたいだ。
かがみながら歩いていき、扉を開けて中を見ると一応は操作の仕方はわかる。けれど何かしらわからない棒や魔術盤とかがあり、頭が混乱してきた。
不安しか残らね~
「天馬さん、一応は聞きますけど運転の経験は?」
ここは真面目に、正直に答えた方が後の問題が少なくなる。
「運転の方法は知っているけど、経験はゼロだ。ちなみにこれどうやって動かせばいいのか全然わからねぇ」
「...運転ができない私たちよりは幾分か安全な筈です...よね?」
「なぁ、やっぱアルレントに運転お願いできないか?」
ダーク・エルフ特有の黒髪のポニーテールは横に振られる。彼女の眼にも悔しさと悲しみが見えるけど、それを決して表に出さない意思もあった。
「いいえ、今の私ではエルウェミニア殿下を守るに至りません。その資格はお爺様と共になくなりました」
「駄目よ、私が言いって言うのですからあなたには資格が」
「エルウェン、我儘言っては駄目ですよ?昔から言っているではありませんか。エルウェンにはエルウェンの立場があるでしょう?」
静かに、泣きじゃくる子供を宥めながらも諭すようにアルレントはエルウェミニアを説得する。ゲーム内では描写がなかったけど、アルレントはエルウェミニアの幼馴染兼侍女兼護衛の立場らしいが、登場はしていなかった。こういう事情が裏にあったからだろうけど。
俺もエルウェンって呼びたい...
「あの子は未だに我儘なのですね。仕方がないと言ってしまえば仕方がありませんが」
「もう少し優しくてもいいんじゃねぇか、アストリッド。お、ついた」
魔術盤を操作すると静かな作動音が聞こえる。やっぱりこの世界では内燃機関ではなく、魔術による純電力機関なんだろうか?
「どうかしたか?」
助手席に乗っているアストリッドから返事もなかったから見ると、彼女は呆気を取られたようにこちらを見ている。何か変な事でも言っただろうか?
「いえ、呼び捨てとはヤマトでは親しい者同士ですることだと聞いたので」
「...あっ!申し訳ございません、殿下!」
まずい、ゲーム内の感覚で口が滑った。
「いえ、私は気楽でいいですよ、呼び捨てで。そのかわり私も天馬と呼ばせていただきますね?」
「私もエルウェンと呼ぶことを許すわ」
後ろの座席にエルウェミニアが乗りながらそうつぶやく。仲間外れみたいなのが嫌なのだろうか?
その思考が読まれたのか、ガン飛ばしてきた。
「もう少し素直になった方がいいと思いますよ、エルウェン」
「はぁ?慣れ慣れしくしないでくださる?」
なんか敵から狙われているのに車の中の方が怖くなってきた。この二人はなぜか相手といがみ合うんだよね~。
パシンッ
「「「...」」」
ミニバンの後ろの方で音がしたから三人で見ると、人の拳ぐらいの穴が開いていた。
すぐ後に武義が窓ガラスをたたき、窓を下げるように仕草をする。下げ方がわからなかったからもたもたしているとなぜか無表情なのに呆れているのがわかる。
「急ぐ、車にはミセス・ヴァイオレットが接続できているから指示に従って。後から俺たちはバイクで追う。あと、軍用車両が二つほど合流するけどそれ以外は避けるか突っ切るかにしろ」
「って言うだけ言っていくなよ、ちょっと待て」
「時間切羽詰まってる」
「その、出口どこなんだ?」
痛い沈黙が流れる。沈黙と言っても破裂音が響き渡るから静かではないけど、誰も何も言わない。殿下たちからも痛い視線を感じる。
「あそこに出口って書いてる」
「あと、ちょっと椅子の位置が高すぎなんだけど、どうやって位置調整するんだ?」
そうやってビルからの脱出劇は何とも全然しまらない方向で終わった。
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