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終末への事件簿  作者: 武美館
第一章:入学の裏事情
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第一章ー3:向こう側の者

武義視点です

<そう警戒せんでもよい。この土地で君達に害意を持てば儂でもすぐに消されてしまうからのぅ>

人とはかけ離れた異質な声が直接伝わる。


聞こえた、のではなく精神に直接語りかけてきた。それだけで相手があまりにもこの世界の常識とはかけ離れていることわかる。普段聴覚を介さず脳に語る事は魔術や特定の魔法では可能になるけど話し合うことは現代の魔術や魔法では不可能だ。小型端末でのメッセージや留守電で録音は残せても通話を出来ないという認識だろうか。


何しろ会話できるように直接精神を繋げれば発狂する可能性すら出てくる。相手の心と感情が読めるようになるのは嘘や心意気を精神で直接感じてしまうことだ。何らかの対策を使うか慣れている者同士でなければ危険性が増して運が悪くて廃人になった例もある。


それをいとも簡単に実行するしわくちゃな雰囲気の声の主に対して警戒をせざる得ない。月見酒は見た目続けてはいるが、俺は必死に声の気配を探り、ジャンヌも甲冑魔法を無詠唱で発動できるよう警戒している。


<なんじゃ、今日は必死に儂の連れを追っていたのにつれないのぅ。お主ら、まるで精錬された剣のようじゃな。若人がこのようでは向こう側と大差ないのぅ。嘆かわしい事じゃ>


「失礼ながら姿を現さないお方には警戒せざるを得ないので。宜しければ姿をお見せしてもらっても?」

ジャンヌは俺の考えを予想していたかのように縁側から別荘の庭へと移る。


<それはそうじゃのぅ。すまぬが今は怪我をしておってのぅ、ここから動けんのじゃ。今連れの者を案内に向かわせた>


数分も立たない内に今日見た黒い猫又が林の方から現れた。月に照らされる庭でも見えにくく影の中を自然に立ち回っていて唯一見えるのは闇の中で妖艶と輝く黄金の眼だ。


その猫又は月の明かりで見えるところまでてくてくと歩いてきてから日本の尻尾で招くかのように動かす。


<ちょっと、猫だからってすぐに追おうとしない>


<いや、さっきは抱き心地確かめられなかったから...>


<...物凄い警戒されているわよ>


ジャンヌの言う通り猫又は目を呆れ気味に細めて影に少し溶け込んでいる。そしてついてそのまま身を翻して林の方へ戻っていく。


このまま突っぱねても埒が明かないのでジャンヌと一緒に黒い猫又を追っていく。


月が夜道を照らしているとはいえ、藪の中を進んでいるからそれなり気を配らないといけない。それでも考えを纏める暇はある。


()()()側、だそうよ?>


<ああ...>


<まさか向こう側から知性を持つ者がこちら側に迷い込むとは思わなかったわね。それもあんたの前に現れるのも偶然にしては出来すぎているわ>


<そうだな>


ジャンヌは急に前に立ち止まり俺の胸倉をつかむ。木々の隙間からかすかに漏れる月明りに照らされた彼女の銀髪は淡く輝いて白い炎に見える。

「タケ」


愛称を呼ばれただけ。でもいつもの軽い呼び方ではなく、重みを感じる呼び方。心が通じ合ってなくてもわかる、彼女の言いたい事が。


「何年も耐えながらこの様な機会を待っていたのでしょ?焦燥感があるのは分かるけれどたどり着く前に死んでは意味がないのよ」


「...わかっている」


「頭ではわかっていても心では今すぐ向こう側に行きたいって感じね」

微かな苦笑をしながらジャンヌは服を手放して胸に拳を当ててくる。

「あんたが死なないように私がいる事は覚えておきなさい、あんたの矛盾である私が」


俺たちの話が終わるのを律儀に待っていた猫又は藪の中へと進んでいく。


少しすると一回り大きくて古そうな木の元へやってきた。根っこの辺りには苔や茂みがあり、根っこが作った窪みに猫又は案内をする。そこには人と同じ大きさの白い狐が佇んでいた。


威厳のある眼は黄色く光り、数秒俺たちを観察してから狐は語り掛ける。

<やはり直接会わなければわからんことじゃのぅ。自己紹介が遅れてしまったな。我が名は柳葉(やなぎば)じゃ、そしてお主らを案内したそこの娘は月詠(つくよみ)でそこの影に隠れているのは陽菜(ひな)じゃ。隠れておらんで出てこぬかい、この者たちは我々を虐げるような者ではないと今はわかるじゃろうて>

彼が促したら月詠という猫又と陽菜と呼ばれた真っ白な猫又が現れて月詠の後ろに隠れている。


<...ル○とア○テミス?>


<それより稲荷も持ってきてコンコンと言うべきだったのかしら>


<...お主ら>

三対の三日月が闇夜の中でジト目になっている。シュールだなぁ...と、思ったら月詠の尻尾から少々苛ついているのがわかる。


「私は武義といいます」


「私はジャンヌよ。それで?わざわざ私達に接触した理由は何?」


<ふざけておりながらも警戒を解かぬとは、お主らはかなりの修羅場の中で精錬されておるみたいだ。この土地に迷い混んでから怪我をしてしもうたから月詠に色々と頼んでおったのでな。そしたら知性があるお主らから向こう側の世界の匂いがすると聞いたのでな、お主らの話を聞きたくなって読んだのじゃ。何しろ我々は向こう側から追われた身だからのぅ>


「いや、そっちの匂いじゃないと思うわよ?」


今度はジャンヌもジト目で見てきている。匂いと言われたからには本当に匂いで何かわかるのか気になってしまうのは仕方ないと思う。


<フフハハハっ!匂いというのは嗅覚からではないぞ。お主らの魔力がこちらの世界にしては異常なのだからじゃ。薄々気づいているのだろう、こちら側の理からその体質はかなり外れている事が?方や半神霊化しておるしもう片方は神のに近い霊力有しておるからには、神以外の神秘が向こう側に消えてしまったこの世界ではさぞ異端であろうのぅ?>


柳葉の表情は慣れていないから読みにくいが彼の精神からひしひしと狡猾で残忍だという事がわかる。打算があるのを隠さず俺たちの体質を持ち出している。


<フハハッ!狡猾でなければこ奴らを逃がせなかったからのぅ。まあ、それは後に話すとしよう。お主らには提案があるのじゃ>


「提案によります...場合によっては貴方達はこの世界でいとも簡単に討伐対象になりますから」


「まぁ、害がなさそうだから大丈夫でしょうけどね...けれど見つかればどうなるか知っている以上私たちへの提案は保護かその類でしょう?」


<そうじゃ、この娘たちを庇護下においてほしい。こちら側に来るにはかなりの霊力を使ってしもうた、傷も不覚ながら負ってのぅ...お主らは少し妙な癖はあるが根は悪い子らではなさそうだからな。それに儂も知っている限り霊力の使い方を伝授しよう、そこの女子はともかくお主はその膨大な霊力を扱えなければいずれ身を滅ぼしてしまう>


魔力はこの世界では十分に研究されて大まかな発生源や生き物がどう生成するのか解明されている。それでもいまだに謎に包まれているのは天恵魔法とかその一部では原動力となる霊力の存在だ。邪力も同じように研究が進んでおらず、この世界では失われた神秘や技術となっている。


それに女神様に昔から注意されていた事だからわかる。だからこそこの妖狐の提案は願ったりかなったりだ。


<ふん、言わなくてもわかっているようね>


<承知しています、女神様>


<ほう、よもやこちらの神とも縁があるとは、お主らはやはり興味深いのぅ。フハハ!やはり月詠が見つけたのはお主らだったのは魔女の導きだったのかもしれん>


一瞬で考えていた事が朝霧の様に蒸発した。

「今、なんて言いました」


<タケ、落ち着いて>

ジャンヌが声を掛けてくれなければ取り乱すところだった。ジャンヌの言う通り、今優先するべきことを間違えてはいけない。


<...そうか、ますますお主らに会えたのは幸運じゃのぅ。これも何かの縁じゃ、この娘たちを頼む。儂は少し疲れてしもうたから休まなければならぬが、また戻ってくるといい。その時が来れば霊力の扱い方と魔女皇の事を..教え...よう>


本当に疲れて果てていたのか、感謝と月詠と陽菜の事を託す気持ちが伝わると同時に柳葉目を閉じて眠りについた。まだ気になることはあるが、本当に長い旅路の果てでこの土地来たのは嘘ではないみたいだ。


<死んだわけでもないのだし、まだ話す機会はあるわ。今はまだ待ちましょう>


<そうだな...それに猫もいるし>


<いや、あんた警戒されているからね?>


明日か明後日にもう一話投稿予定です。

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