手荒れでボロボロ
「サリア。君は義理の妹であるヘレンを虐めているそうだな。僕はそのような女性と人生を添い遂げることはできない。君との婚約は、無かったことにしてもらう」
私の婚約者であるニール様はそう言って、私の方をじっと見つめる。
ニール様は睫毛が長く、どこか儚げな印象のある美青年だ。ふわっとした亜麻色の髪に、澄み渡った空のような青い瞳。ほっそりとしたその体は風が吹いたら折れてしまいそうで、思わず守ってあげたくなるような姿をしている。「不治の病にかかっている」とか「病弱」だとか言われたら、誰もが信じ庇護欲を感じてしまうような美貌の持ち主だ。本人は至って健康だけどね。
一方、その婚約者である私は(たぶん)美しいが彼とは正反対な見た目をしている。
巷じゃ悪役令嬢が登場する作品が人気だが、私はその悪役令嬢にそっくりだ。別にセットしてるわけでもないのに勝手にロールするオレンジ色の髪に、気の強さを感じさせる吊り上がった目。自分で言うのもなんだが「オーホッホッホッホ!」という笑い声が実に似合いそうな顔立ちをしている。そんな笑い方、絶対にしないけど。
とはいえ、私は「悪役」と言われるような行為をした覚えはない。それとも何か、自分が無意識にやっていたことが周りの誰かを傷つけていたのだろうか? という戸惑いを抱きつつ私はニール様に尋ねる。
「ヘレンを虐めた覚えなどございませんが……具体的にどのような行動のことを言うのでしょう?」
「まず、彼女はいつも安くボロボロのドレスを着ている。その上、いつも取り憑かれたように掃除ばかりしているじゃないか。本来、掃除は侍女や使用人の仕事であり貴族令嬢がやることではないはずだ。その証拠に彼女はいつも手袋を着けているが、その下はいつも手荒れでボロボロだろう?」
「……そう、ですね」
私は何から説明すればいいのかわからず、途方に暮れる。
ニール様の言うことは全て——事実だ。
貴族令嬢であるヘレンの手は、そのへんの侍女より荒れてボロボロになっている。手袋をはめているのも本当だし、平民より安い服を着ていつも掃除ばかりしているのも事実。
だけどそれは私が強制したわけでなく、むしろ彼女自身が望んだことで……
「お待ちくださいニール様! ニール様は、お義姉様を誤解しておられます!」