俺を人質に置いていった竹馬の友が、今更戻ってきて自分を殴ってくれというがもう遅い
生え際より後頭部がきになる今日このごろ。
ハゲぬンティウスは激怒した。刎頸の交わりといっても過言ではないと思っていた友が、妹の結婚式に出ねばならぬとのたまわって村へ戻ってしまったのだ。ハゲぬンティウスには政治が分からぬ。ハゲぬンティウスは街のかつら職人である。数多の帽子を作り、男女を問わず救ってきた。けれども自分の生え際には人一倍敏感であった。親父殿もはげている。一体いつ自分の手を自分の頭を飾ってやらねばならぬ日が来るのだろうか?戦々恐々としていた。
そんな折である。竹馬の友であるふさふさのメロスが、邪知暴虐の王に捕らえられたという。しかもあろうことかふさふさのメロスは、妹の結婚式のために村に帰らねばならぬと、その間の代わりとして私を人質としてくれとかの王に頼んだそうだ!ハゲぬンティウスは決意した。たとい2年ぶりであろうとも、たとい竹馬の友であろうとも、あのふさふさを素寒貧にしてやらねばならぬと。でなければこれから奴の代わりにストレスにさらされるであろう自身の頭皮の恨みが晴らされぬ!
いないのである。聞けばふさふさのメロスは、既に出立してしまったらしい。
振り下ろしどころのない拳を掲げたままにしているハゲぬンティウスを見た王は、そっと憐れんだ。あの卑怯者のふさふさのメロスの代わりとなるものの面はどれほどのものかおがんでやろうと思っていたのだ。うっすらと後退しておるわい。ふさふさのメロスはどうせ戻らないに決まっている。であれば髪の行く末なぞどうでもよかろうが、三日後を思えばあまりに愉快である。世間をしらぬふさふさの青年にストレスで逝ってしまった約十万の命を見せつけてやろう。
「わしにたてついた生意気なふさふさの願いを、聞いた。それ故、お前はここに引っ捕らえられた。精々三日後を楽しみにしていることだ。お前の頭がもつかは、わからぬが」
ハゲぬンティウスは口惜しく、地団駄踏もうとしたがやめた。せめて自分でストレスを加速させるようなことはしたくなかった。初夏、満点の星がふさふさを象徴しているようで憎たらしかった。
目が覚めたのは薄明の頃である。ハゲぬンティウスは跳ね起き、そして驚愕した。抜けているのである。
「これは、、、、三日もたぬかもなあ」
王はことある毎に嫌みを言ってきた。ハゲぬンティウスは無理に繕おうと髪を寄せた。今ごろふさふさのメロスは何をしているだろうか。このやり場のない怒りはどこへ向ければよいのだろうか。なぜストレスは髪に向かうのだろうか。どうしてヒトはストレスなどというものを感じるのだろうか。下垂体と副腎のホルモンの関係であろうか。などと益体もないことを考えて散りゆく頭から目をそらしつつ王からの嫌みをやり過ごしていた。
さて、約束の期日になってもふさふさのメロスは未だその姿を見せず自分は処刑されしまうかもしれない。しかしそれならそれもよかった。もしふさふさのメロスを目にしたとき自分を保てそうになかたからである。起きているか死んでいるかも分からぬほどに朦朧としていた中、ハゲぬンティウスは徐々に吊り上げられていた。そんなときである、ふと群衆にさざ波がはしるのが分かった。よくよく耳をこらせば声が響いてくるではないか。
「待て。その人を殺してはならぬ。ふさふさのメロスがかえってきた。約束の通り、今、かえってきた」
群衆はどよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。ハゲぬンティウスの縄はほどかれたのである。
「ハゲぬンティウス!」
ふさふさのメロスは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
ハゲぬンティウスも眼に涙を浮かべていった。
「メロス、毛薄い」
勇者はひどく困惑した。
自己満です。爆笑しながら書いた。特定の人物を馬鹿にするものではございません。




