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都内某マンションの一室。
彼女ー黒石紗由はスマートフォンの画面を食い入るように見つめて呆然とした。
「……まじかよ」
スマートフォン片手に瑠唯が握りしめている年末ジャンボの宝くじが、当選番号のページに掲載されているものと一致していた。
ーーーそれも、1等のものと。
紗由はずっと高額当選なんて夢のまた夢で、実は八百長で高額当選者は胴元の関係者だけだと思っていた。自分が実際当たるとは微塵も思っていなかったのだ。
今手にしている一等の宝くじも、当たってほしいと思って買った訳ではなかった。
先月、高卒で入社して5年ほど勤めていた会社が倒産した。薄給ゆえに、貯金は雀の涙しかなかった。焦って急いで転職活動はしたものの、全く受からず途方に暮れていた。
会社都合のため失業保険はすぐに出たが、生活費は全く足りていない。むしろマイナスだった。来月、家賃や光熱費の引き落としが来たら払えない状況だった。
いっぱいいっぱいだった紗由は現実逃避をした。好きな物を好きなだけ食べて、美味しいお酒を飲んで好きな様に一日過ごした。
ほろ酔いの良い気分で帰宅していたところ、宝くじ売り場の前を通り過ぎようとした時、売り場の年配の女性の残り20枚だという呼びかけが妙に気にかかった。
周りにはちょうど誰もいなくて、紗由だけがその呼びかけを聞いていたからというのもある。ついでに目も合ってしまったのだ。
『おばちゃーん、それ全部買ったげるよ~!』
『あら、ありがとう。完売ね、うふふ』
『宝くじなんて初めて買うよ~』
『そうなの? ビギナーズラックがあるかもしれないわね!当たりますように』
『ありがと~!』
まさかこんなビギナーズラックがあるとは思いもしなかった。
段々当たったという実感がしてきたのか動機が激しくなってきた。紗由は気を落ち着けるように深呼吸を何度か繰り返した。
「……とりあえず、色々ググろ」
こうして、某マンションの一室で億万長者が一人生まれた。