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果ての世界の魔双録 ~語り手の少女が紡ぐは、最終末世界へと至る物語~  作者: 西秀
第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~
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夜香の城2

 猫が人間の言葉を話す。実際にその光景を目の前で見てみると、おかしな違和感しか感じない。話す言葉に合わせて猫の口元が動く訳でもない為、その感覚は尚更強く、そして非現実的だ。



「もうクロエ、失礼ですよ!そんなこと言わないで下さい。・・・・・・悠人さん、こちらは私の師であり、魔法使いであるクロエ・クロベールという方です」


 リセが俺に対して、目の前の言葉を喋る猫を紹介してくれる。

 どうやらクロエという名前であり、しかもリセと同じ魔法使いということだった。


 「どうも初めまして。流川悠人です」

 「ふんっ!知っとるわ」


 俺からの挨拶に、興味がなさそうな様子で冷たく返すクロエ。何でだろう・・・・・・なんかイラッとするな。声色が子供のものだからだろうか。馬鹿にされている感が半端無い。


 どうやら俺のことについては、リセから事前に聞いているようだ。当然と言えば当然の事だろう。

 クロエは床からカウンターの机の上に、軽やかな挙動で飛び乗ると、リセに対して問いかける。


 「それで?今日この場に小僧を連れて来たとゆうことは――――リセよ、前々から話していた通り・・・・・・」

 「ああ!それはまだなんです。実はですね、今日から悠人さんをこの店で、アルバイトとして雇うになったんです。それでつい先程まで色々と、仕事に関しての説明をしていたんですよ」

 「アルバイトぉ?この小僧をこの店でか?初めて聞いたぞ」

 「当たり前ですよ。クロエには言ってませんでしたからね。でももう決めたことですから。悠人さんには今日からこの店で働いてもらいます」


 有無を言わさずに宣言したリセに対して、呆れた様様子の視線を向けるクロエ。

 ・・・・・・おや?なんかもう既に、俺がこの店で働くこと前提で話が進んでないか?


 どうやら今の会話の内容を聞いた限り、リセとクロエの二人の間には、大きな話の行き違いがあるようだった。


 ちょうどその時。

 奥の棚の方から、何やらガタゴトと大きな物音が聞こえてきて――――俺が音のした方向へと視線を向けると、ゆっくりとした足取りで、何か大きな影がこちら側へと近づいて来るのが見えた。


 見た目は紳士服を着た黒髪の、四十代ほどの痩せた男であるようだが――――その男が一歩ずつ足を進める度 に、ガチャガチャとした、金属同士が擦れ合うような音が聞こえてくる為、どこか得たいの知れない雰囲気が伝わって来る。

 男の身長は少なくとも二メートル以上ありそうだ。上方向へと逆立っている、個性的な髪型をした頭頂部が、あと少しで天井に擦れてしまいそうである。


 右肩の辺りが不自然に下方向へと傾いており、全体的にバランスが悪い。

 それはまるで肩から腕にかけて、右側だけを後から繋ぎ合わせたかのように見えた。


 「そういえば彼の事を紹介するのを忘れていました!悠人さん、彼はここで魔道具の整備担当している右肩下がり男爵です。見ての通りちょっと変わった方ですが、店での仕事歴は長いので、何か分からないことがあれば彼に聞いて下さい」


 リセから右肩下がり男爵と紹介されたその人物は、ギチギチと音を立てながら、その場で俺に向かって一礼をする。しかしその姿はどこからどう見ても、リセの紹介した通りの「ちょっと変わった方」――――どころではない。


 「これはこれは初めまして。只今ご紹介に与りました――――ワタクシ、【ヘルスフレイヤ】出身の【自律機械人形(オートメイル)】である、右肩下がり男爵と申します」


 「とうぞヨロシクお願い致します」――――と、丁寧な挨拶を俺に告げる右肩下がり男爵。


 【自律機械人形(オートメイル)】という単語の意味。それが示す答えとは、つまるところ“彼がロボットである”という事。

そしてもう一つ。最初に告げた出身地。確かヘル・・・・・・ええっと何だっけ。

そうだ、【ヘルスフレイア】か!

うん、知らないです。そんな国があるなんて、これまで見たことも聞いたことも無いですね。


 俺が訳もわからず困惑していると、そんな胸中を察したのか右肩下がり男爵が気を利かせて聞いてきた。


 「フム。どうやら色々と疑問があるようですね」

 「はい。失礼ですけど、その身体は一体・・・・・・?」


 先程ロボットなのかという考えが、俺の頭の中に思い浮かんだのだが――――


 「まあ疑問に思われるのも無理はないでしょう。私の身体に使われている技術は、こちらの世界では到底理解が及ばないものですから」

 「こちらの世界?」

 「貴方が今生活しているこの地球のことです。私はここから遠く離れた別の世界――――【ヘルスフレイア】と呼ばれるところからやって来た者で、貴方にとっての私という存在は、簡単に説明すると――――そうですね・・・・・・異世界人ということになりますか」


 これはまた・・・・・・一気に話のスケールが大きくなったな。

 異世界人――――まさかそんな存在を目の前で見れる日がこようとは。人生何があるか分からないものである。


 俺は目の前に差し出された男爵の手を握り返して握手をする。その様子を見ていたリセは、机の上でまだ気だるそうに丸くなっていた、猫のクロエに対して、


 「クロエ、いつまでもその姿のままでは悠人さんに失礼ですよ。元の姿に戻ってください」


 そう言い聞かせるような口調で注意する。


 クロエは面倒くさそうに――――ちらりと俺に視線を向けると、ややあってから背伸びをするようにして、のそりと立ち上がった。


 そして体を丸めて座っていた机の上から、重さを感じさせない挙動で床へ降り立つと、その姿があっという間に黒い霧に包まれる。


 モヤモヤとした霧が、掻き消えるようにして一瞬で晴れ――――先程まで猫の姿をしたクロエがいた場所には、一人の黒髪の小さな少女が腕を組んで立っていた。


 外見は幼く、多く見積もっても小学生くらいの年齢にしか見えない。大きくクリクリとした淡褐色の瞳をしており、普通にしていれば相当に可愛い部類に入るのだろうが――――今は瞼を細めて俺を睨めつけている為、台無しである。

 少女の髪は床板へ接するかどうかと思われるほど、長く伸びていた。白地のシャツと丈の短い短パン姿で、それはその辺の安価な商品を取り扱っている服屋であれば、普通に売っていそうな物だ。


 人間の姿に変身したクロエ?は、鬱陶しそうに自身の長い黒髪の一部を手に取り、そっと持ち上げる。そして数秒も経たずに――――その髪がスルスルと音もなく動き出し、あっという間に腰より少し上辺りの長さにまで縮んでしまった。


 “魔法”――――昔は存在を信じた事すらなかった、その言葉が俺の脳裏にへと即座に思い浮かぶ。もはや何でもありだな・・・・・・。

 クロエが人間の姿になったのを確認したリセは、申し訳なさそうな表情を浮かべて俺を見る。


 「悠人さんには私が不在の間、この店でクロエの相手をしていて欲しいんです。基本的に私は外での仕事がありますので、店にいる時間はそんなに長くはありません。ですからその間、クロエが何か問題を起こさないか、見張りをお願いしようと考えていたのですが・・・・・・」

 「私は子供か!リセよ、いくらお前がこの店の主だとしても、言っていい事と悪いことがな・・・・・・」


 リセに対して何とか反論を試みようとしたクロエだったが――――リセは呆れた様子でクロエの言葉を遮り、言葉を続ける。


 「でもクロエ。貴方もう、かれこれ三十年以上は引きこもっているじゃないですか!それに前回開催された【議会】では、貴方の持ってる【偉大なる魔法使い】(マスター)の称号を剥奪してはどうかという意見もでているんですよ。これを機に、少しは店での仕事を手伝ってくれてもいいんじゃないですか?」

 「・・・・・・むぅ」


 聞けば、どうやらクロエはかなり長い期間、魔法使いとしての仕事をほっぽり出してこの場所で引きこもり生活を送っていたそうだ。

 毎日自室に籠って、日本のゲームやら漫画などを読み漁っているらしい。随分と現代人らしい引きこもり方だな・・・・・・というか魔法使いもゲームとかやるんだ。


 そこでリセはこの現状を何とかしようと、俺という存在をこの店で雇う事で、クロエを監視して働かせようと考えたそうだ。そこまで一通り話を聞いた俺は、


 「・・・・・・分かったよリセ、俺を今日からこの店で雇ってもらってもいいか?」


 そう結論を出した。


 もしかしたらこの機会に、リセとの仲が今以上に進展するかもしれない。それにその先の、友人以上の関係にだって――――

 いやいや!まあそんな下心もあるにはあるが、決してそれだけがアルバイトを引き受ける理由じゃない・・・・・・はずである。そう、断じて。


 俺の返事を聞いたリセは、にこやかな笑顔を向けながら、お礼の言葉を口にする。


 「ありがとうございます!悠人さんならそう言ってくれると信じていました。では本日から悠人さんをアルバイトとして、この店で雇わせて頂きます。お給料に関してはまた後日相談するとして。取り敢えずは――――これからよろしくお願いしますね悠人さん!」

 「ああ、よろしく」




 魔法使い二人と異世界人が一人。今のところ右肩下がり男爵に関しては、異世界人ということにしておこう。

 そして何処にでもいる、ごく普通の一般人である俺を含んだ、合計四人。


 話に流されたという感じではあるのだが――――俺はその日から皆と共に、骨董屋【夜香の城】でアルバイトとして働くことになったのだ。

































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