表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果ての世界の魔双録 ~語り手の少女が紡ぐは、最終末世界へと至る物語~  作者: 西秀
第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~
4/59

二度目の邂逅

あの雪の日の夜に起きた不思議な少女との出会いから、丸一年が経過した。


現在の俺は――――地元の公立高校への入学試験合格を無事に果たし、今年の春から新入生として、そこに通うことになっている。


何のことを言っているのか、わからないだって?


詳しいことは俺自身も、よく分かってはいない。しかし一つだけ確かに言えることは、現在俺が日常を送っているこの時間が、あの雪の日の夜から十五年前のものだということである。


驚いたことに――――俺の存在は本当に過去にへと戻り、そして今、失われた筈の青春時代をやり直しているのだ。

 実際にこんな話を人にしても、信じてもらえるわけがないのだが・・・・・・嘘偽りなく事実なのだからしょうがない。


結論から言ってしまえば、あの雪の日の夜に骨董屋で出会った少女は、自称【魔女】ではなく本物だったということである。

 兎にも角にも俺はこうして、新しい自分の人生を再びスタートさせることができたのだ。



そしてあっという間に一年が過ぎて――――新しい春の季節を迎えた俺は、たった今始業式を終えたばかりの他の新入生たちに混じり、予め配布されていた学院の案内書に記載されている、自分自身の教室へと向かって歩いていた。


この学院には普通科とは別に、優れた運動神経を持った学生のみを集めたクラス――――スポーツ課というものがある。


その他にも特進課と呼ばれる、超難関大学合格を目指す学生の為のクラスもあるのだが――――俺には限られた青春時代の全てを、学業につぎ込むという真似は到底出来ない。


いやだからといって、彼らの全てを否定するわけでもないのだが。


自分の教室へと向かう道中、先程から平均よりかなり高い水準の、容姿の整った女子生徒をそこら中でちらほら見かけた。

 これからの学院生活を想像すると、思わず顔がにやけそうになってしまうが――――そんなことをしたら完全に危ない人である。


俺は心を落ち着かせて平静な顔を装いながら、案内書にあった自分の教室の扉を開けて、中へと入った。




既に教室の中にはかなりの数の学生がいた。皆一様に浮足立っている。


無理もないことだ。新しい環境で、新たな仲間との生活――――彼らの年頃から考えれば、これで落ち着いていられる方がおかしいだろう。


俺は自分の席である、窓際の一番後ろの席に着くと、最初のホームルームが開始するのを、ゆっくりと待つことにした。


窓から見える整備された広いグラウンド。その更に奥の方には――――地表から膨れ上がった、まるで小さな山のようなものがある。

 学院の案内書には古墳の跡地と書かれており、今はその上に改修工事を行って、テニスコートとして使用しているそうだ。


その傍らには、大きな開閉式の屋根が付いたプールがあり、まさに部活動に励む学生にとっては、至れり尽くせりの環境である。


部活という言葉も、今の俺にとっては懐かしい思い出だ。昔は多くの学校で学生の部活動所属が当たり前であり、余程の理由が無い限りは皆、それが義務付けられていた。

“学生に対し、多人数での集団活動と協力性を教える”という名目があったのだろうが・・・・・・実際の所は、やりたい者達だけでやれば良いのである。


随分と否定的なことを言ってしまったのだが――――別に俺は部活というものが嫌いなわけでは無い。ただ・・・・・・やる気の無い人間を強制的に所属させる事に疑問がある――――それだけだ。


その点、この学院ではそういった面倒な取り決めが無く、全てを学生たちの自由にさせている。個人の自主性を重視した教育機関だ。


そういった自由な校風も、俺がこの学院を受験先に選んだ決め手である。




それから俺は特に何かをするでもなく、ただ無心で窓の外に見える景色を眺めていたのだが――――ん?


俺は不意にあることに気がついて、思わず座っていた椅子から立ち上がった。


何かおかしい。


それまで聞こえていた教室内の喧騒が、嘘のように静まり返っている。

空を飛び交う鳥。

草木の揺れ。

雲の動きや風の動き――――それら全てを含んだ、ありとあらゆる生命の気配。


世界の全てが一瞬にして、文字通り止まっていた(・・・・・・)


その現実を頭の中で理解した俺が、恐る恐る――――窓側とは反対の、教室内へと視線を向けると。


・・・・・・おいおい、嘘だろ?

 教室の中にいた全員の身体が、石像のように固まっていた。正確に言うと、俺以外の全員が。

 

不気味なほどに広がる静寂。

 まるで自分一人だけがこの世界から切り離されたかのような、そんな不気味な感覚が俺の全身を包み込む。


 こういう場合、普通の人ならばパニックに陥ったりするのだろうが――――その日常とは遠くかけ離れた異常事態が、逆に俺の心を冷静にさせる。


そう、何故なら俺はこんなことができる人物を、一人だけ知っていたのだ。この世界の理から逸脱した存在。言葉では説明できない、不思議な事象を引き起こせる少女を。


カラカラと――――小さく音を立てて、ゆっくりと俺のいる教室の扉が開かれる。そしてそこには俺の予想通りの人物が立っていた。


一年前の冬に、あの骨董屋で出会った少女である。


以前とは違って今は黒いとんがり帽子を被ってはおらず、周囲の女子生徒と同じ、この学院の制服を着用していた。

 春をイメージしてデザインされた、薄い桜色の制服が白い髪と合わさって、彼女の持つ雰囲気を柔らかくしている。


明るい春の陽射しに照らし出された少女の姿は、相変わらず美しい。

 少女は軽やかな足取りで教室の中に入って来ると、そのまま俺の座っている席へと向かって真っ直線に歩いてくる。


「どうもお久しぶりです。おおよそ一年ぶりでしょうか?ふふっ、その様子だと私が来ることがわかっていたみたいですね」

「・・・・・・まあこんなことができる人は、きっと魔女である君しかいないだろうとは考えたよ」


少女は俺の座っている席の前で立ち止まると、片方の掌を自身の頬に当ててから、少し困ったような仕草をする。


「うーん・・・・・・私は魔女ではなくて、本当は魔法使いなんですけどね。まあその辺りの細かい説明は、おいおいするとして――――まずは自己紹介をしましょう。あの時私は自分の名前を、貴方に名乗りませんでしたからね」


少女はそう言うと、自らの胸の前に右手を置き、俺に対して自身の名前を告げた。


「こうして貴方と会うのは二度目ですね(・・・・・)、流川悠人さん。私の名前はリセルシア・レイティナ・クロード。魔法使いをしています」


少女の――――リセルシアの告げたその名前に、俺は微かに覚えがあるような気がしたのだが――――どうやら気のせいであるようだった。


魔法使い。リセルシアのその言葉は、この状況に対しての明確な回答を、俺に対して与えてくれた。

なる程・・・・・・そんな異質な存在であれば、こうして周囲の時間そのものを全て止めてしまう事が出来るのも納得である。


実際のところ、俺はその魔法使いとやらに関して、これっぽっちも知識はないが、こうして普通では起こりえないこと――――誰かの存在を過去へと戻したり、空間ごとあらゆる時間を止めるといった、信じがたい現象を見せつけられては、その言葉を信じるしかない。


そして当然のように、少女は俺の名前も知っているようであった。


「・・・・・・今日は俺に一体何の用があって、この場所に?」


魔法使いであるリセルシアが、わざわざこうして俺の元を訪ねて来たのは、何かしらの大事な理由があるのだろう。そもそもこうして俺の時間を巻き戻した、その行為自体が無償というのもおかしな話である。


よくあるファンタジー小説やゲームなどにもあるように、普通は何かしらの代償や思惑があってもおかしくはない。

 俺がリセルシアの次の言葉を、緊張した面持ちで今か今かと待ち構えていると――――


「そんなに身構えないで下さい。別に大した用件ではありませんよ。実は今日、こうして流川さんの元を訪れたのは、ある頼み事があったからです」


リセルシアはそう言うと、俺の向かい側の机の上に腰かけた。


「流川さん。もしよろしければ、私と・・・・・・お友達になってくれませんか」

「えっ?」


 その言葉の意味を、俺が完全に頭の中で理解するのに、たっぷり十秒程は要しただろう。


オトモダチ――――そう、俺が聞き間違っていなければ、目の前に立っている魔法使いの少女は、自分と友達になってくれと言ったのである。あまりにも普通過ぎるお願いに、正直俺は拍子抜けしていた。


「・・・・・・まあ友達になるぐらいなら、別にいいけど」

「本当ですか!じゃあたった今から、私たち二人はお友達になったということで!これからよろしくお願いしますね、流川さん!」


俺の答えを聞いたリセルシアは、両の手を合わせてその顔に満面の笑みを浮かべる。えっ、お願いってこれだけ?


「それでですね。こうしてお友達同士になれたことですし、まずはお互いの名前の呼び方から変えたいと思うのですが――――これからは流川さんのことを“悠人さん”と、そうお呼びしても構いませんか?」

「えーと・・・・・・ああ、特に問題は無いかな」

「良かった!では私のことは“リセ”と、そう呼んで下さい。親しい友人は、みんな私のことをそう呼びます。これからは友人らしく気楽に接してもらえれば、それ以上私から他に言う事はありません」


俺は彼女の――――リセからの要望に対して、素直に頷きながら了承する。


「他に何か用件はないのか?こんな話をする為だけの理由で、わざわざ俺の所を訪ねて来たわけではないんだろ?」

「いえいえ、本当に私の用件はこれで終わりですよ。それと悠人さんは“こんな話”と言いましたけど、私にとってはとても大切なことなんです」


よく分からないな。

何故俺なのか。別に自らの存在を卑下するつもりはないが――――俺は大した人間じゃない。魔法使いであるリセが、こうして俺にわざわざ友人として交遊関係を築きたいと言ってきたのは、きっと別の思惑があっての事だろう。


しかし現段階で得られた情報のみでは、それ以上のことに関しては推測出来ない。あくまでも予測。その真意までは分からなかった。

そして今こうして俺が頭の中で思考している内容も、もしかしたらリセには全てお見通しなのかもしれない。



そんなことを考えていると――――リセが俺の目の前に、自らの右手を差し出してきた。小さな掌に付いている指の一つ一つがとても細く、握り返すことを躊躇させるほどに弱く見える。一連の流れから察するに、握手をするという意味合いで、向けられたものなのだろうが・・・・・・。


(信じるしかないよな・・・・・・)


むしろそれ以外に何が出来るのだろう。これから何をするにしても、今は目の前の少女を――――魔法使いであるリセのことを信じるしかない。俺はリセの右の掌を、力を入れすぎないように注意しながら掴み、握り返す。触れた場所から沈むような柔らかさと、暖かな人肌の温度が伝わってきた。


(・・・・・・・・・・・・あれっ?)


リセの掌を握り、握手を交わしたその瞬間。何らかの既視感のようなものを感じ取り、俺は手元に向けていた視線を慌てて正面にへと戻す。


そこには優しく微笑みながら、こちらを見つめるリセの姿が。気のせいか?どうもこの子には初めて会った気がしない。いや、一年前のあの日の出来事を除いて・・・・・・それよりも前に、俺はリセと一度だけ会ったことはないだろうか?


しかしその可能性は万に一つも無いだろう。昔の事とはいえ、リセのような美少女と一度でも会話をすれば、それを忘れてしまう事など絶対に有り得ない。彼女の容姿は、それほど印象に残るものだ。


そもそもリセ本人が先程、自己紹介をした時に言ったはずである。「こうして貴方と会うのは二度目ですね」と。であれば、あの骨董屋でリセと出会ったのが初めての事であり、俺が感じた既視感も気のせいであるはず。


真実は分からない。“魔法”という理解不能な力の存在がある以上、いくら仮説を立てても、そこには限界があるからだ。でもこれから先、そう遠くない未来できっと、この疑問に対する答えを得られる機会が訪れるだろう。そしてその時がきたら、俺は自分の意思で選ぶのだ。リセとのこれからの関係を。選んだ答えの先にある未来を。その行き着く先で何を得て、何を失い、そして手放すのかを。



こうしてその日から俺と、目の前にいる魔法使いの少女――――リセの二人は、友人同士となったのである。























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ