第5話 不壊の探究者
「いけるか?」
俺はアイテムを片手にクリスタルの前に立っていた。
ネットサーフィンによるリサーチの結果、このクリスタルは単なるオブジェクトであるという認識のようだ。
何かしらのイベントが起こるわけでもなく、後々何かイベントが行われるんだろうなぐらいのものらしい。
しかし、このゲームが発売されてまだ一月程度ということもあり、謎な部分が多いのも事実だ。
ということで本日は、自分の納得のいくまで試してみようという検証会である。
会と言っても一人だが……そろそろ他のプレイヤーと組んでみるのもいいかもしれない。
今日の検証対象はもちろん『クリスタル』である。
と言っても目的は、クリスタルの封印を解きたいのではなく、クリスタル本体が欲しいのだが。
アイテムの『火の石』を構えてクリスタルの方へ投げる。
『火の石』がクリスタルにぶつかる寸前にハルバートで思いっきり叩く。
すると、クリスタルとハルバートの間で挟まれた火の石が爆発する。
その爆発とハルバートのスキル「爆炎」を組み合わせ、今の最大火力を叩き込む。
耳をふさぎたくなるような爆音と共に炎が上がる。
「誰も聞いてないよな?」
俺は心配になり周りを見渡すが、こちらから見えるプレイヤーはいない。
安心した俺は叩いた部分を見る。
「何もなしか」
クリスタルに変化はなく、俺の期待した素材は手に入らなかった。
「まあ無謀すぎたな。ん?」
諦めの言葉を吐いた直後システムメッセージにスキル獲得のお知らせが入っていた。
「不壊の探究者?」
スキル説明欄を開くが、そこには何も書かれていなかった。
「クリスタルを攻撃したから?」
とは言っても、先日も攻撃はしている。
ある一定数のダメージを与えなければならないという条件でもあるのだろうか?
今は何もわからないので、さらなる検証をしなければならないようだ。
とりあえずもう一発お見舞いしてみたが、何も変わらなかったので諦めることにする。
「パーティーでも組んでみるか」
ソロでものづくりを極めるのも悪くないが、人との交流から得られる情報も欲しい。
「そうと決まれば広場かな」
拠点になっている街の広場ではパーティー募集がたくさん掲げられている。
その中の初心者パーティーに参加するのが一番だと思い早速向かう。
広場に着くと人がいっぱいおり、パーティー募集もそれなりにあった。
その中で自分のレベルにあうものを探す。
「草原エリア討伐クエストか」
草原エリアのモンスターをある一定数討伐すると報酬がもらえるクエストをやる仲間を探しているようだ。
募集レベルも1~5と低めになっている。
それもそのはず、このクエストは初心者が必ず通るといっても過言ではないクエストになっている。
報酬に武器が貰え、序盤では一番火力の出るものになっている。
これを取るかとらないかでレベル上げのスピードが変わるほどだという。
しかし俺はすでに相棒のハルバートを自作しており、クエストで貰える武器は使う気にはなれない。
「まあいっか」
欲しいのは武器ではなく、情報だ。
あわよくばフレンドも増えればなおよしといったところだろう。
早速パーティーに入れてもらうべく声をかける。
「すみません、こちらのパーティーに入りたいのですが」
ゲームとはいえ、感覚的には直接対面して話しているので緊張する。
声をかけた相手は男の魔法職のようだ。
「はい! 草原クエストを一緒に受けられる方ならいいですよ!」
「よかった。是非ご一緒させてください」
「では申請を送ってください」
「送りました! よろしくお願いします」
パーティー申請を送り、承諾してもらう。
「よろしくお願いします! では十分後の出発になりますので、その時間にポータル前に集合をお願いします」
「了解しました」
パーティーはあらかじめ出発の時間が決まっているようだ。
まあ一人でもできるクエストだから、人数にはこだわっていないのだろう。
少し時間があるので、人気がないところを探し先ほどのスキルを確認する。
「不壊の探究者。パッシブじゃなくてスキルなのか」
名前の響き的にパッシブスキルに入ると思ったが、そうではなくアクティブスキルの方に入っている。
この時は何も考えていなかったが、後々考えると実験用の武具を用意すべきだったと反省することになる。
「お?」
ハルバートを対象に指定すると、『不壊を付与しますか?』というメッセージが現れる。
「もちろん!」
俺はYESボタンを押し不懐を付与する。
---火のハルバート(不壊)---
物攻:150 魔攻50
属性:「火」
スキル:「爆炎」
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「おお! 不壊になったのか!」
そう、このゲーム武具が壊れるのだ。
壊れても修復すれば大丈夫だが、戦闘中に壊れてはたまったものではない。
しかし武器が壊れるのは戦闘中がほとんどだ。
なので複数武器を所持するのが一般的だ。
俺は不懐を防具にも付与し、初心者では最強であろう装備を作成でき満足していた。
そろそろ約束の時間になるので、集合場所に向かう。
集合場所にはそれらしき集団がおり、パーティーの初顔合わせが行わた。