第3話 武具作成
「よしできた!」
カンカンうるさかったので何人かに見られていたが、新人がもの作りをしていると、微笑ましい顔を向けて去っていった。
しかし、ついに作り終えた。
今はその物を完成させた喜びと、高揚感を噛みしめていた。
「ねぇねぇ」
後ろから声をかけられ現実に戻され……ゲームに戻される。
「何ですか?」
声をかけてきた相手は猫耳をつけた女の子だった。
このゲームに他種族を選ぶことはできないので、アバターなのだが。
「それ君が作ったの?」
「はい。そうですが」
アバターの見た目的に俺の方が年上に見えるが、見た目で年齢が全く予想できないのがゲームである。
女の子は俺の作った”物”を見て興味を持ったようだ。
「何かすごくリアルだね!」
「リアル?」
「あ! 現実で”防具”なんて見たことないけどね!」
女の子は笑いながら俺の初めて製作した防具をほめてくれた。
「そうだ! 私アバター集めるのが趣味なんだけど」
「は、はぁ」
「君が露店でアバター売るなら連絡頂戴よ!」
「アバター?」
「あ! 初心者……だよね?」
俺の恰好を見て女の子は聞いてくる。
「はい」
「アバターっていうのはね! 私の猫耳みたいに着飾るやつなの」
「は、はぁ」
「防具よりも見た目が優先されるの! だからねアバターを集めてオシャレする人は多いんだよ?」
「それで、アバターを作って露店で売るってことですか?」
「そう! 君の作る防具をみてピンときたんだ! 質のいいアバターを作りそうって!」
「は、はぁ。考えておきます」
「うんうん。今はそれでいいよ! フレンドになろう!」
「いいですよ」
「やった! アバター作ったら見せてね!」
「わかりました」
「じゃあね! あ、何か困ったことあったら連絡してくれていいよ! 軽めのね!」
言いたいことだけいった猫耳少女は現れたときのように、音もなく去っていった。
フレンド欄を見ると、「リン」という名前が光っていた。
「ま、いっか!」
気を取り直して自分の作った防具を見る。
「う~ん」
リンは褒めてくれたが、納得は行っていない。
「ここの曲線が不自然か……」
胴の部分の曲線が納得いかない。
どうせなら個人個人に合わせた形を作りたいものだ。
「これ、作り直せるかな?」
試しにハンマーで叩いてみる。
「ん?」
すると防具からアイコンが出てきた。
それをタップする。
「お! いける!」
作り直す選択肢が出てきたので、イエスを押す。
「よし!」
俺はもう一度作り直すために、人目に付きにくい隅っこで防具を打ち直した。
☆
「もうこんな時間か!」
時計を見ると深夜の0時を回っていた。
一度ごはんやお風呂休憩は挟んだものの、夜のほとんどの時間をつぎ込んでしまった。
「まぁ、明日も休みだしいっか」
そろそろ仕事を探したりしないと両親に悪いので動こうと思うが、1日ぐらいいいだろうと思う。
「完成だ!」
ついに自分の納得のいく形になった。
といっても、胴の部分を叩き直しただけだが。
突然スキル獲得の音がなる。
「お? ハンドメイド?」
パッシブスキル欄に『ハンドメイド』という項目が出ていた。
説明を見ると。
【ハンドメイドでの作成が可能となる(自身の銘が刻まれた物。又は素材のみ)】
今まではアシストを利用して作っていたが、より自分の好きなように作れるということだろうか。
「作るか……」
もう遅いが気になって眠れそうにないので、試してみることにした。
「武器だな」
ドロップで手に入れた武器を取り出す。
「これは素材として使えるのかな?」
タップして情報をみるが無理なようだ。
「確かNPCがやっている鍛冶屋があったよな」
自分で武具を作る職はクリエイター系しかいないので、基本的にNPCの鍛冶屋に素材を渡して作るのが一般的のはずだ。
「あった。これお願いします」
鍛冶屋に武器を渡す。
「どうする?」
ドワーフといいっていいのだろうか?小さい髭モジャの職人が聞き返してくる。
「えーと」
目の前に現れた選択肢の中から「分解」を選ぶ。
鍛冶屋は選択をすると無言で店の中に入った。
すると店の中から強い光があふれ出し、目を開けていられなかった。
「眩し!」
光が収まると中から鍛冶屋が出てきた。
「ほれ、少し失敗したぞ」
おじさんが悪気もなく失敗を報告してきた。
分解され素材に戻った武器を受け取ると、確かに渡した量より減っているのがわかる。
「う、うん。ありがとね」
NPCに怒っても仕方ないので、仕様を一つ学べたと喜んでおくことにした。
武器は複数個渡していたので、素材量としては十分だろう。
早速武器を作るためにいつもの場所で作成を始める。
素材を混ぜると武骨な形の武器になる。
ここから自分の思うとおりに叩いていく。
「これも試してみようかな」
一時的に火属性を武器に付与する【火の粉】を入れる。
「混ざってるのか?」
武器に粉が降りかかるたびに赤い火花が飛び散る。
これで一時的に火属性になるのだが、今回は実験的にやってみる。
初心者では手に入らない属性武器ができれば儲けものだ。
そこから明け方近くまで叩き続けた。
「できた!」
完成した武器を手に取り眺める。
「よし!」
そのまま草原エリアに向かった。
武器を一振りする。
火の粉が舞い、赤いエフェクトを残しながら”ハルバード”が輝いていた。