第27話 結婚式
今、目の前には大層ご立派な装飾扉がそびえ立っている。その装飾は王家の威光を誇示するがの如く豪華絢爛で、悪趣味というのか俺には合わないなと思ってしまう。
自分ならばもう少し光物を抑え、彫りで模様をつけてそこに少し宝石などを埋め込むだけでもかなり品が良くなると考えてしまう。
これも普段からモノを弄っているせいなのか、そこかしらに置かれている工芸品にも目が行ってしまう。
少し待っていると、新婦であるメリダ王女が到着した。
この結婚式は、新郎新婦が同時に入場するしきたりになっているらしい。新郎が先に待っていて、親御さん、この場合国王から受け渡すということはしないのだ。
むしろこちらが婿入りする形になるで、やるなら俺の両親から王族への受け渡しになるのだろう。
「ふふっ! 緊張してますか? 旦那様♡」
「だ、旦那様!?」
「はい! 結婚するのでこれからは旦那様ですよ!」
「そ、そうだね」
旦那様耐性がなかったので動揺してしまった。ちなみに俺は結婚すると王家の中に組み込まれ、この王城で働いて生活することになる設定らしい。
現実ならば肩身の狭い思いをすることになるので、これがゲームで良かったとつくづく思った。
「私……綺麗ですか?」
「ん?」
突然しおらしい感じでウエディングドレス姿の感想を求めてきた。改めて見るととても精巧で細かい部分まで描かれており、惹き込まれそうになる美しさだった。
「と、とっても綺麗だよ」
「本当ですか! 嬉しい!」
どうにか正解の答えを出せたらしい。というか、NPCとここまで生々しい会話ができるとは思わなかった。このゲームで使われているシステムというのだろうか、それは最新のもので学習能力があり、ゲームに革命を起こすだろうと謳っていた。
その最新技術を今体感しているのだが、これは凄まじい。この世界で生きていく人も出るのではないだろうか。
戦闘やスキルなど、全てにこの学習能力が使われているわしく、究極の自由がコンセプトだ。
「入場ですよ!」
メリダ王女が俺の腕に自身の手を差し込んできた。
攻撃的な膨らみを感じるが強靭な理性を奇跡的に持っていたようで、表情や行動に動揺を出さずに平常運転ができた。
ここの結婚式は新婦と新郎が腕を組んで入場するようだ。父親から新郎へと受け渡す形式では無く、これから一緒に歩んでいこうという意味があるのかもしれない。
まあ相手の親は王様になるわけで、一国の王から受け渡しを行うのは憚られたのだろう。
それに今回は俺が王宮に入るという形になるので、やるなら俺の両親から王様への受け渡しになってしまう。
それを考えるとこの形が一番良かったはずだ。
少し待つと扉が開き会場の面々が一斉にこちらを凝視をしてくる。
こちらに向けてくる表情は満点をつけてもいいぐらいの笑顔なのだが、かえってそれが薄気味悪かった。
(なんか敵意を感じるのは気のせいか?)
全員ではないが、笑顔の裏に敵意をにじませている人物がいるようだ。
NPCゆえにこちらに違和感を感じさせているのだろうか?
現実世界ではみんな後ろ暗い思いがあっても、それを上手く隠しているのでこのような空気にはならない。
控室に残っているもちこさんも感じているかわからないが、会場の雰囲気は異常だった。
「コウさんっ!」
この空気をメリダ王女も感じたのか不安な声をあげる。
「大丈夫だから」
ダメージが入りそうなほど腕をぎゅっとされたが幸いにもHPは減っていない。
会場から偽りの祝福を受けながら壇上まで到達する。
そこで神父らしき人物がありがたいお言葉で二人の結婚を祝福する。
そしてついに神石を掲げる場面に移った。ここまで神石は問題なく光を放ち続けている。
(ちょっと危ないかも)
神石を見せるためにずっと光らせているが、魔火石の内包できる量を超えそうになっていた。
(最悪襲撃を装うか)
実は何も起こらず嘘がばれそうになったら自身で襲撃を装う準備をしていた。
このままイベントを消化できればいいが、嘘がばれたら今のレベルではクリアできない鬼畜イベントに引きずり込まれないようにするための処置である。
「二人の愛を神が照らすであろう」
その一言が神石を掲げる合図だった。首からかけていた神石を外し、二人の手で包み込んで上に上げていく。
その途中で神石ごと魔火石の光が強くなっていく。
その様子に会場が感嘆の声をあげる。
二人の結婚を本当に祝っているのだと、神の祝福だと涙を流している者までいる。
(やべぇ! 爆発する!)
魔火石が爆発寸前の合図である光の強さに到達する。
これはもうまったないだと思い事前に準備をしていたアイテムを取り出す。
「コウ様!」
こちらの行動を咎めようとしているのか、メリダ王女が切迫した声で名前を呼ぶ。
「ごめんメリダ王女!」
この結婚式を台無しにしてしまうが仕方がない。
個人的にはこういったイベントを途中で捻じ曲げるとどうなるのか興味もあるので、意外とノリノリだったりはするのだが……。
「後ろ!」
「え?」
メリダ王女は俺を突き飛ばし前のめりになると、王女めがけて何者かが飛びかかっていった。
「メリダ様!」
「メリダ!」
誰の声かわからないが、血濡れのウエディングドレスを着た王女が横たわっている光景だけが視界に映っていた。