第26話 神石作成
「コウさん何してるんですか?」
俺が神石を弄っているのが気になったのか、椅子にちょこんと座ったまま首を伸ばしてもちこさんが覗き込んでくる。
「神石をどうにかできないかなと思って」
「正直に、本当の賢者はこの人ですと言ってはダメなんですか?」
正直に告白してみてはどうかと提案してくる。
「今さら本当の賢者に名乗り出てもらったらどうなると思う?」
自分で考えてみるように促してみる。
「え? 賢者さんが結婚するのでは?」
至極真っ当というか、平和な答えが返ってきた。現実の世界なら結婚詐欺なりそうだが、この世界にそんな裁き方があるとは思えない。
ましてや王族相手に結婚詐欺を仕掛けておいて、はいそうですかで終わるわけがないし、それだと何も起きないイベントになってしまう。
「賢者が結婚して、嘘をついた俺は投獄コースでイベント失敗だな」
思いつく最も軽そうな罪を言ってはみたものの、フルダイブ型のVRMMOで過激な表現はできないので、それ以上の罰、例えば極刑などは考えづらかった。
ゲームとはいえ、リアルな体験として感じやすいVRならではの事情だ。
「それは、嫌ですね」
正直に言いたいのは山々だが、これがイベントならば、攻めた行動を取りたいと思っている。
失敗しても再度挑戦できるだろうし、2度目の挑戦となっていしまっても、今回で情報はできるだけ集めておきたいのだ。
部屋の隅で用意されたお菓子を漁っている賢者を尻目に、俺ともちこさんが会議を始める。
試しに神石が自分に反応するか手で握ってみるが、当然反応することはなく綺麗な赤色をしたままだ。
話をしている間に中断していた作業を再開する。
「どうにかできそうですか?」
もちこさんにそう聞かれたとき、ちょうど作っていたものが完成した。
「これ何に見える?」
綺麗な赤色をしている少し形が歪な石を見せる。
「神石ですか?」
もちこさんが勘違いしてくれたということは、結構いい出来なのだろう。
「これは偽物だよ。正しくは魔火石っていうんだ」
「魔火石?」
魔火石とは、ある一定の魔力を溜めることのできる石のことで、容量をオーバーさせるか衝撃を加えるかで爆発を起こすアイテムだ。
「うん。そう名前が表示されているんだけど、これにSPを注ぎ込むと光るんだ」
そう言うと、もちこさんの手の平に試作品を渡す。
「注ぎ込んでみてもいいですか?」
興味を持ったのか、キラキラした目で訴えかけてくる。
「いいよ。ゆっくり注いだり、早く注いだりしてみて」
「分かりました」
俺の指示に素直に頷くと、最初はゆっくり注いでいたが、ペースを早くしたり遅くしたりと言われた通りの工程を守っていた。
「なんだか綺麗ですね」
炎を見てリラックスしている現象に陥っていると思うのだが、もちこさんの顔が光に照らされて赤くなっていた。
しばらくすると石の限界に達したのか、一瞬光が強くなったと思った次の瞬間。
「きゃっ!」
もちこさんの手のひらで石が爆発した。
しかし威力は弱く、ダメージはほとんど入っていない。
「魔火石は容量や使用回数が限界に達すると爆発するんだ」
石の仕様を実体験と説明で教えてあげたのだが、もちこさんは不満なのか、抗議の目線を向けながらダメージ判定が入って赤くなった手をさすり遺憾の意を示してきた。
「もぉ~! わざとですよね? 最初から教えて下さいよ!」
怒ったようではあるが、本気ではなく少し拗ねたという感じで頬を膨らませている。
「プッ! ハハハハハハ!」
「何がおかしいんですか!」
少しも面白くないもちこさんは、俺に笑われて本当に怒りそうになっていた。
「ごめんごめん! 実際に体験したほうが理解しやすいと思って」
「もぉ! このくらい説明でわかりますよ!」
「でもどのくらいで爆発するか大体わかったでしょ? SPの注ぐ回数や量は実際に自分でやってみないと分からないんだ」
この魔火石不親切なことに、簡単な説明以外表示されていないので使用回数や、容量、威力等々全部自分で試してみないといけないのだ。
一度生成に成功すれば、作成方法や大まかな効果は表示されるが、その個体の詳細な情報は自分で記録しなければならない。
その仕様はわざとらしく、アイテムにメモ機能というのがついており題名をつけて細かく保存できるようになっていた。
こういったアイテムは今の所多くはないが、個体で性能が変わる物に関してはこのメモ機能はとても重要な情報になると思っている。
もちこさんはまだご機嫌斜めのようだが、俺はさらに神石の見た目に近い魔火石を作るために作業の手を早めることにした。
抗議は諦めたのか、声のトーンが普段通りに戻っていた。
「これ、結婚式の間ずっと光らせるんですよね?」
「そうだね」
説明を受ける限り、式の間はずっと新郎が首から神石を下げ、賢者の証であることを示し続けるのだとか。
「爆発しませんか?」
「出来るだけ長く持つように作るよ」
大丈夫なのかと心配をするもちこさんの視線が、俺の精神に継続ダメージを与え続けるのだった。