第22話 侵入クエスト
今は御者もいれて5人で馬車に揺られている。
話が落ち着きやることがなく暇になった。
「もちこさん。これ本当に半日かかるの?」
「ここから王都の距離はそうらしいですが、流石に移動に半日も使うクエストはないと思います……」
もちこさんと俺が懸念を話し合っていると目の前にウィンドウが出てきた。
「おっ!」
「あ!」
表示された文字は王都への道のりをスキップするかどうかという選択肢だった。
「流石に半日移動はないよね!」
「ふふっ! そうですね!」
俺ともちこさんは笑いあってスキップボタンを押した。
ボタンを押すと窓からの風景が一瞬で変わり王都の近くに着いたようだ。
馬車が止まり御者が扉を開いた。
「お客さん着きましたぜ」
御者がどこから雇われたのか気になるが、追及しても仕方ない気がした。
「降りましょうか」
馬車を降りるとそこは門の内側で騎士が待っていた。
「メリダ様!」
数人の騎士がメリダ姫に駆け寄り跪く。
俺たちは少し離れたところで様子を見守るしかない。
介入不可のイベントのようだ。ある一定の場所から見えない壁で進めなくなっている。
一国の姫が帰ってきて慌ただしくしているようだ。
いくらか喋って連れていかれてしまった。
「あれいいのかな?」
完全に無視された形となった俺ともちこさんは戸惑う。
「二人……来て」
俺たちと一緒に残されたミライが声をかけてきた。
もちこさんとアイコンタクトを取りミライについていく。
少し離れた路地で立ち止まる。
「メリダ様は攫われました」
衝撃の事実だがその割に慌てた様子はない。
「あの騎士団員は王子が動かしているはず」
「王子?」
「軟禁されて政略結婚に使われる可能性が高い」
第1王女が命を狙ってくるのかと思ったら今度は王子らしい。
「メリダ様の希望を叶えるために手伝ってほしい」
「手伝う?」
「今日の夜王城に姫様を救出に向かう」
救出に向かうもなにも、取り戻した後にどうするのか気になる。
目の前にクエストスタートするかどうかのボタンが現れる。
保留を押すと準備期間が取れるのだろう。
「もちこさん準備はいい?」
「はい。ここまでほぼ戦っていないので準備は万端です」
その返事を聞いてクエストスタートのボタンを押す。
先ほどの馬車の時と同じように周囲の変化が起こる。
「ではいこう」
夜になった街へ出て王城へ向かう。
「ここから入る」
連れてこられた場所は明らかに正規の門ではない。
ただの城壁だ。
ミライが城壁を一気に駆け上がり上へ到達する。
「わぁ!」
もちこさんがびっくりなのか感心なのかわからない声を上げる。
「登って」
ミライが壁にロープを打ち込みこちらへ垂らす。
しかし今のを見せられて興味が湧いてしまった俺は城壁を”駆け抜ける”。
「おわっ!」
初見で真似した割には上手くいったが、てっぺん辺りに差し掛かった時に足を滑らせてしまった。
慌てて手を伸ばす。
「きゃあ!」
俺が地面に叩き付けられることを想像してしまったもちこさんが悲鳴を上げる。
「た、助かった」
伸ばした手をミライが見事にキャッチしていた。
どこにそんな腕力があるのか不思議だが上まで引き上げられた。
それを見ていたもちこさんは素直にロープを登ってくる。
「ありがとうございます」
最後はミライが手伝ってくれるらしく、もちこさんも引き上げられていた。
「コウさん! 壁を走るなんて無茶ですよ」
「お陰様で『壁走り』ていうスキルが手に入ったよ」
俺のシステムメッセージにスキル獲得の表示がされていた。
「えっ! 私も欲しい!」
「後でやってみるといいよ」
「そうですね」
今はミライが進んでしまうので試す時間がなかった。
城壁内に侵入したあとは警備に見つからないように進む。
脱出ゲームならぬ侵入ゲームだ。
どうやら警備にはある一定のパターンがあるらしく、タイミングを見て物陰から物陰へ走り出す。
ミライは一つ先で待っているというスタイルで進んでいく。
王城内に入ってからも似たようなもので、戦闘はなかった。
「ここ」
無事メリダ姫が軟禁されている部屋まで辿りついたようだ。
衛兵が扉を守っており簡単には入れなさそうだ。
「ミライどうする?」
「侵入方法は任せる」
案内役のミライが出てこないということは、プレイヤーの実力でどうにかする場面のようだ。
「コウさんどうしますか? 戦います?」
「それはちょっと怖いな。 罪人になってしまいそうだ」
侵入している時点で罪人コースなのだが、ここはゲームのご都合主義展開を期待している。
「どうするんですか?」
「これを試してみるよ」
「何ですか?」
俺はあらかじめ作っておいたアイテムを取り出す。
「睡眠効果のある煙を出すアイテムだよ」
「え!」
「確率はそこそこだけど、効果時間が短いから眠るのが見えたらすぐ入るよ?」
「は、はい!」
NPCには試したことがないが、ぶっつけで使ってみる。
「これ巻いて」
睡眠効果を無効にする布を渡す。
もちこさんは鼻と口を隠すように布を巻く。
俺は布を”手に持ったまま”睡眠アイテムを使った。
無事NPCの衛兵が眠ったのを確認しもちこさんを振り返る。
「ぶぅー」
不満を表すような声をだしながら抗議の目を俺に向けていた。