第21話 くノ一ミライ
「それで俺たちが姫様を連れ去った犯人だと思ったのか?」
「はい」
先ほど戦った忍者はくノ一のミライと言って、メリダ姫の護衛だそうだ。
誘拐されたとき戦ったが抵抗むなしく連れ去られてしまったそうだ。
「俺たちは王都の方向に向かっていったんだが、そこは疑問に思わなかったのか?」
「あらゆる可能性を捨てきれなかった。もしかしたら物資補給に出た奴かもしれない」
「なるほど、それで拘束して情報を得ようとしたわけか」
こくりとミライが小さな顔で頷く。
「それで今王都がどんな状況かわかるか?」
ミライは申し訳なさそうにまた首を振る。
「私は先行して姫様を追っていた。一人伝令に王都に帰ったやつがいるからそいつが帰ってこないとわからない」
メリダ姫は誘拐されてからそんなに日が経っていないのかもしれない。
「誘拐されてどれくらい時間が経ったんだ?」
「1日半」
結構スピード解決できたようだ。
「わかった。動きが早くて敵にはまだバレていないかもな」
ミライが今度は頷く。
「特別な連絡手段がない限りまだバレていないはず」
プレイヤーはCALLとMAIL機能を使って遠くにいる人とやり取りができるが、NPC事情はわからない。
「それと心配なのが王都に正面から入って大丈夫か? 第1王女とやらに襲われないか?」
「表立っては手を出してこないはず。今回のように外部の組織を使うはずだから」
あくまでも自分の足がつくようなことはしないのだろう。
「わかった。それで王都についたらどうするんだ? その第1王女の問題は」
「ここからは私が話しますわ。ミライはお疲れでしょう? 休んで」
メリダ姫がミライに休むように促す。
「では私は周囲の警戒に入ります」
「ダメよ! 先ほどの戦いの疲労が残っているでしょ? それにコウ様の強さを知っているでしょう?」
俺がいるから安全だと言いたいのだろう。
「しかし!」
「ダメ! 疲れ切っている状態でミスをしたらどうするの?」
「私は……いえなんでもありません。お言葉に甘えさせてもらいます」
何か言いかけたがメリダ姫の言い分に納得したのかミライが引いた。
「ゆっくり休んで」
「はい。休みますが一応外の見えるところで休みます」
ミライはメリダ姫に何か言われる前に馬車の窓から出て屋根に登っていった。
「屋根で休めるんですか?」
メリダ姫は少しあきれた顔で。
「そうですわね。くノ一はどこでも休息がとれるように訓練されているので大丈夫でしょう」
「そうですか」
「さて、先ほどのお話の続きですわね」
「はい。王都について今回実力行使に出た第1王女にどうケリをつけるんですか?」
「お姉さまは私の”神子”という立場に嫉妬をしています」
「え? それだけ?」
「はいそれだけなのです。神子というのは本来、来るべき時にその身に天使様を降ろす役割を担うのが使命なのですが未だその役割は一度も行使されたことはありません」
「それっていつから……」
「わかりません。少なくともアルタイル王国ができて300年の間は一度もです」
「300年」
「はい。なので神子は祭りや儀式の時に舞を踊ることが仕事になっております」
「舞?」
「はい。神へ捧ぐ舞だといわれております」
「それに第1王女が嫉妬を?」
「いえ、そこの部分ではなくてですね。神子は結婚相手を自由に選べるのです」
結婚相手を自由に選べるなど何当たり前のことを言っているんだと一瞬思ったが、メリダ姫は一国の姫だ。
前聞いた話の通り、政略結婚させられる可能性が高いだろう。
「お姉さまは大国の王子に嫁ぎたいらしく」
「現状それが厳しいのか?」
「はい。友好国の小国への縁談が進んでおります」
「なるほど」
「妹の私が消えれば神子の役割が自分になると思ったらしく、私を狙うようになりました」
「何回か襲われたの?」
「実は何回か襲撃されたことがあったのですが、犯人を追う内にお姉さまが私を狙っていることを知りました」
「そうか……」
肉親に狙われていることを知ってさぞかしショックを受けただろうと可哀想に思ってしまう。
「もちろん未だ決定的な証拠はないのでお父様に相談等もできるはずはありません」
「このことを知っているのは?」
「多分私だけかと」
「難しい状況だな」
「はい。なので私はさっさと結婚を決めてしまって王城を離れたいと思います」
「俺たちはその間の護衛でいいのかな?」
「はい! それと婿探しも手伝っていただきたいのですが」
「「婿探し!?」」
今まで黙っていたもちこさんと声が揃う。
「申し訳ないですが、俺たち王都に人脈なんてないですよ?」
「婿の条件がありまして。この神石に反応する方と決めているんです」
「神石?」
「はい。これは神子にのみ所持を許された国宝です。この神石をつけて舞を踊るんです」
「その神聖な石に反応する男性がいいと?」
「はい!先ほどは神子は自由に結婚相手を選べると言いましたが、それは今までの神子がそうしてきたからであって、本来はこの神石に反応する殿方と結婚するのが習わしなんです」
「へえ。皆が知ってる話?」
皆が知っているのにそれを守らないとなると、神子は本当に形だけの役割になってしまっているのだろう。
「いえ。とあるところから情報を得たのです」
「とあるところ?」
「それは言えません」
神妙な面持ちでメリダ姫は口を噤む。
その後も色々話をしたが、結局婿を探してちゃっちゃと国を離れるのが一番ということになった。