第20話 アルタイル王国編開始
「それじゃあ始めるよ?」
「はい!」
もちこさんと約束どおりクエストを進めるために合流した。
「待ちました?」
俺がメールを送って約一時間後に合流したのだ。
「あ、気にしないで。本当は約束の時間まで待つつもりだったから」
「え! かなり時間ありますよ?」
そう元々夕方の約束だったのだが俺は鉱石集めをしながら時間を潰して、早く合流できるならと思って連絡を入れていたのだ。
もちこさんは用事があったわけではなく、家で休んでいただけらしい。
「これ」
周回をして集めた鉱石を取り出して見せる。
「洞窟ダンジョン周ってたんですね!」
「そう時間潰すついでに集めとこうと思って」
「ふふっ! 努力家なんですね!」
「努力家かな? 好きでやってることだから」
収集することもモノづくり関連で好きな趣味の一つになっていた。
お互いの準備ができたのを確認しクエスト開始ボタンを押す。
パーティーを組んでいるので一緒に進められる。
専用マップに飛ばされてメリダ姫が出迎えてくれた。
「メリダ姫! 依頼を受けに来たよ」
「勇者様! ありがとうございます!」
メリダに案内され馬車に乗るように促される。
「まずは私が王都へ無事帰れるように護衛をお願いいたしますわ」
「わかった」
もちこさんと一緒に馬車に乗ろうとしたとき再び話しかけられる。
「勇者様!」
「ん? 何?」
「そういえばお名前を聞いてませんでしたわ! お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、俺はコウ」
「私はもちこと言います」
「コウ様に、もちこ様ですね! 改めてよろしくお願いいたします」
丁寧にお辞儀をされる。
「うんよろしく」
NPCとはいえ人間らしい対応をされると無碍な対応はできない。
「ふふっ! 礼儀正しいんですね!」
「礼儀正しい?」
「はい! NPC相手には素っ気ない態度の人も多いんですよ?」
「そうなのか。まあストーリー性とかを求めていないならそうなるのか」
早くゲームを進めたい人はこういう会話に時間はとらないのだろう。
どこから用意したのか御者に馬の扱いを任せ、俺たちと一緒にメリダ姫も乗ってきた。
ここからは移動時間になるのだが、その間に質問ができるらしかった。
王国の現状や、このクエストの目的などをおさらいできる。
しばらく馬車に揺られているとメリダ姫が不安げに外を眺めていた。
「イベントですかね?」
「かもしれないね。話しかけてみようか」
俺はそう言うとメリダ姫に声をかける。
「どうかしました?」
メリダ姫はこちらを向き一瞬口をつぐみかけるが話し出す。
「……何か胸騒ぎというか、このまま何もなく王都にたどり着けるか心配なのです」
「何かあるんですか?」
「私の姉が何もしないとは思えないのです」
「気づかれてないとかは?」
「そうだといいのですが……」
メリダ姫は心配で外を眺めている。
もちこさんの元へ戻る。
「この旅路が心配だと言うだけで何か明確な答えはなかったよ」
「でもそれってゲーム的に何か起こるパターンですよね?」
「そうだね。この道中何かイベントが起こっても不思議じゃない」
言いかけた瞬間馬車が急に止まった。
「コウさん!」
「始まったかな? もちこさんメリダ姫を見ていて俺が外に出てみる」
「はい! 危険だと判断したら私も加勢します」
「わかった、判断は任せる」
もちこさんにはメリダ姫を見てもらいながら護衛をしてもらう。
外に出て御者の人の所に行く。
「どうしました?」
覗き込もうとした瞬間何かが飛び出してきて攻撃された。
「おわっ!」
急襲に対応できず食らってしまう。
「むー! むー!」
襲ってきた人物の後ろに御者が縄で結ばれて転がっているのが見えた。
「痛ぇ」
結構ダメージが大きかったのか痛みを感じる。
襲ってきた人物は小柄な忍者だった。
「忍者?」
忍者は何も言わず攻撃を仕掛けてくる。
「おっと!」
ハルバードで牽制して懐に入れないようにする。
二刀流の小刀なので、懐に入られると厄介だ。
距離をとって周りを見るが敵は忍者一人のようだ。
「お前一人か?」
話しかけたらなにか情報をくれるかもしれないと思い実行してみる。
「……」
こちらを睨んだまま立っている。
よく見るとボロボロで疲弊しているようだった。
膠着状態だと不利だと判断したのか再びこちらを攻撃してくる。
俺は近づかせないように武器を振るいこちらの有利になるように立ち回る。
相手は戦いが長引き自身の不利を悟っているのだろう、焦り見え始める。
「攻撃が単調になってるぞ!」
忍者の隙をついてハルバードのつかの部分で相手の鳩尾をつく。
「グフッ!」
ダメージが大きく入ったのか相手の動きが止まる。
決定機が訪れたのでそれを見逃す考えはなかった。
「おらっ!」
決まったと思ったが忍者はそこから体を無理やり捻り躱そうとする。
急所は避けられたものの攻撃は当たったのでガッツリダメージが入る。
「ミライ!」
もう追い詰めたという場面で馬車の方からメリダ姫が出てきた。
「もちこさん!」
「大丈夫です!」
どういうことかと説明を求めようとしたが、なにか知っているのかメリダ姫をそのままにしている。
もちこさんを信用して俺も様子を見る。
忍者が倒れこんでいる場所までメリダ姫が駆け寄り抱きしめる。
「姫…様」
どうやら知り合いのようだ。
忍者はそのまま意識を失った。