第12話 特殊
「これか? さっき言ってたのは」
「そう、これが機能するなら強みになると思わないか?」
リーダーのリンドウに革でできたベルトを渡す。
「即席で作ったのか?」
「ああ、ステータスは付与されてないから装備にならないと思うが……」
「アバターになるのか?」
「そうみたいだ」
革ベルトを装着するとアバターの装飾品の欄に表示された。
「おお! マジかよ」
リンドウの素がでるぐらい驚いた結果が生まれた。
「ポーションを入れられたぞ!」
そう先ほどの戦いから学び、すぐポーションを使用できる状態にどうにかできないかと考えたのが革ベルトだった。
ポーションを差し込んですぐ引き抜ける状態にしている。
「カバンの中にある判定みたいだな」
メニューのカバンページから、革ベルトに仕込んだ分のポーションは減っていなかった。
「まあそれができたら外付けのカバンをみんな持ち出すだろうな」
カバンを持っている人はアバターのファッションぐらいだろう。
しかし、街中でベルトをしてアイテムを持ち歩いている人を見かけないことから、このことはまだ広まっていない可能性がある。
「ということは武器用も作っておくか」
「俺は背中に固定するタイプで頼む!」
「私は腰の後ろの部分でクロスするやつ!」
「あ、あの私は杖なので」
「誰もみんなの分作るとは言ってないんだけどな……もちこさんは腰の部分に下げるタイプにするよ」
流れでパーティーメンバーの装備を作ることになってしまったがこれも何かの縁だ、特別サービスをしてあげることにした。
普段は使わないだろうが、常在戦場の時は武器の取り出しを短縮できる。
みんなが休憩している間に作業をしているとリンドウが隣にやってきた。
「最初はクリエイターって聞いてはずれを引いたと思ったよ」
いきなり毒を吐かれたが、嫌な感じはしない。
「今はそうじゃないのか?」
「ああ、クリエイターというかコウがいてくれて助かったという感じだな!」
「というと?」
俺は出来上がったリンドウのの革ベルトを渡す。
「早いな」
ものの5分も経っていない。
「奇襲を受けたとき冷静に対処してくれただろ? 一人で戦う判断は難しいと思うんだ」
「有利を取るために人数を確保するのが一番手っ取り早いからな」
「そうだ。俺たちのところは相手が3人いてなかなか攻めあぐねていたんだ。そこにもちこが来たからだいぶ楽になったよ」
直接戦闘をするわけではないが、サポートでも人数が多いに越したことはない。
「それでいてお前は相手パーティーの”経験者”を相手取って返り討ちにしたからな」
「”経験者”?」
「あの奇襲は経験者か、ゲーマーだろ? それに一番倒しやすいであろう職を装備を見て判断しただろうしな」
経験からくる作戦を組み立てていたということなのだろう。
「コウが相手の作戦を根本から覆したことで、奇襲された俺たちが不利な状況を覆せたんだ」
「相手が状態異常系で助かったよ。高火力だったら回復するスピードを上回られていただろうし」
「はは! そうかもな!」
リンドウは笑いながらも本気では言っていないようだった。
「次はこのままエリアボスに向かうんだよな?」
イベントが開始されて一時間が経とうとしていた。
「ああ、俺たちはできるだけレベルを上げたからな。このまま向かえば勝てるだろう」
「問題は他のパーティーに先を越されないかだな?」
「そうだな、レベル適正に到達していなければ勝つのは困難だ。無理とは言わないがかなりシビアな戦いを強いられる」
「俺たちは全員レベル12に上がったら大丈夫ということか?」
「ああ、レベルが10離れたら敵から貰うダメージが増えてしまうからな」
先ほどの作戦会議で聞いたのだが、どうやらそういったシステムらしい。
そしてエリアボスのレベルが21ということだった。
「初心者には厳しくないか?」
「そうだな。まあ一番おいしいのはボス討伐報酬だが、このイベントマップ自体がおいしいのさ」
「それだと……初心者のレベル上げが報酬ってことか?」
「それは最低限だ。他にもユニークモンスターが出現したり、宝箱が落ちてたりボスを倒さなくても実はやることはいっぱいあるのさ」
「へえ。それじゃあなんで俺たちはボスを倒しに行くんだ?」
当然の疑問である。
ほとんどの初心者がボス討伐をしてエリア攻略を狙っているので、競争が激しくなるはずだ。
「実はな、このイベントを1位で通過すると特殊職業に就けるという噂があるんだ」
「特殊職業?」
「ああ、『弓姫ルリナ』って聞いたことあるか?」
「いや、ない
「その人は弓系統の職に派生したんだが、特殊職業に就いたんじゃないかと言われている」
「確認できたのか?」
「いや、残念ながら本人は頑なに職業を公表しないらしい」
職業は相手に見えるように表示することもできるが、非表示にもできるのだ。
「頑なに言わないところが怪しいとか?」
「まあそれもあるし、スキルが何より特殊らしい」
「ふ~ん。機会があれば見てみたいな」
「ああ、今度見られると思うぜ!」
「今度?」
「おっと、話し込んでしまったな! そろそろ行くか」
各自のベルトはすでに出来上がっており、あとは出発するのみとなっている。
「終わったらその話聞かせてくれよ?」
「わかった」
俺とリンドウは、女性二人と合流するために立ち上がった。