第11話 襲撃
「ヒヒッ!」
男は不気味な雰囲気でこちらと対峙する。
「それで有利になったつもりか? もちこさん!」
俺の合図とともに今度は回復薬ではなく、魔法スキルを放つ。
相手が挟みうちにされる位置にわざわざ入ってくれたので遠慮なく叩かせてもらう。
「ヒャハッ!」
テンションが上がったのか、引き笑いがさらに高い笑いに変わった。
もちこさんのスキルが男を襲うが、意も介さず俺へ向かってくる。
「なら早く倒すだけだ!」
こいつは俺をキルすればパーティーがスタート地点まで戻ると思っているのだろう。
森の中では小回りの利く蛇剣が有利に働き、徐々にこちらが押される。
大きいダメージはないが、毒も重なりHPがかなり減らされた。
後ろからもちこさんがスキルを放つが、ダメージレースで負けている上に俺への被弾を恐れて積極的には撃てない。
「どうしたんだい? このままだと死んじゃうよ? ヒヒッ!」
楽しくなってきたのだろう、戦いの途中だというのに喋りかけてきた。
「そうか? 俺にはそうは思えないんだけどな!」
俺の言葉をハッタリだと受け取ったのだろう、口の端がニヤリと上がるのが見えた。
「もちこさん! ここはいいから向こうを助けてやってくれ!」
助けが未だにこないということは手こずっている可能性がある。
「で、でも」
「ここは大丈夫だから! 最善を尽くして!」
「は、はい!」
もちこさんは自分があまり機能していないことを薄々わかっていたのだろう、反対側で戦っているであろう二人の元へ向かった。
「救援を期待してるのかい? 間に合うかな?」
「その言いぐさだと向こうの連中はあまり強くなさそうだな!」
「ヒヒッ! 失言だったかな?」
フェイク情報の可能性もあったが、こちらも負けるつもりはないので問題はない。
俺はハルバートで相手の剣を片方受け止める。しかし弾いてもう一方に対応することは辞めて、あえて斬られた。
「ヒヒッ! 当たった!」
相手側は喜んだが、こちらの思惑通りなので慌てることはない。
俺は攻撃を受けている間に”片手”でメニュープレートを操作し、解毒薬と回復薬を取り出しつかみ取る。
「なっ!」
一瞬のうちに回復薬を二つも取り出した俺を見て相手が声を上げる。
これをやると確実に片手が塞がって隙になってしまうため、もちこさんを攻撃されたら防げないので今まで出来なかったのだ。
それにできるだけ被弾は減らしたかったというのもあるが。
ハルバトートを振って相手を弾き、距離を取ったところで解毒と回復を行う。
「形勢逆転だな?」
「ヒヒッ!」
笑って誤魔化しているが、動揺しているのがわかる。
一瞬の硬直のあと蛇剣使いは踵を返して逃走に入った。
本当に毒でこちらを倒そうとしていたようだ。
それが失敗に終わったので反対側のメンバーと合流する算段だろう。
俺も合流するために男を追いかける。
反対側の戦場に辿り着くと蛇剣男が乱入したことによりにらみ合いになっていた。
「すいません! 倒しきれませんでした」
回復するので手一杯だったので、倒すまではもう少し時間が必要だった。
「生きてたのか!」
「コウさん!」
どうやら俺がやられてしまって蛇剣が合流してきたのかと思われていたようだ。
「あの蛇剣は俺に任せてください。スキルを使ってこなかったので強力な攻撃はないと思います!」
状態異常系に特化している可能性がある。
被弾覚悟で回復をすれば余裕で間に合うし、カバーできる仲間がいる時点で負ける気がしない。
「どうりで勝てたのか。こちらも大丈夫だ、防御系のスキルが厄介だが負けはしない」
相手側は火力が低いパーティーらしい。
だから蛇剣の状態異常を軸に奇襲を仕掛けてきたのか。
こちらの人数を減らしてじわりじわり削る作戦だったのだろう。
「バフかけ終わりました!」
切れていたバフをもちこさんがかけ直してくれている。
奇襲を返した俺たちのパーティーが圧倒的有利をとれている。
こうなると相手は――
「深追いはするな! 目の前の奴を確実に叩くぞ!」
追撃ではこちらが有利になるが、白兵戦が得意ではないもちこさんが孤立することになると厄介だ。
敵は殿を一人残して撤退を始めた。
こちらとしては一人仕留めれば十分なので深追いはしない。
相手はアイテムロストを恐れての撤退だろう。
敵に奪われることはないが、このエリアのドロップで得たアイテムや素材は失われてしまうのだ。
一人残った敵にスキルを打ち込み倒す。
防御系のスキルを使っていたようで、大楯で粘りを見せたが多勢に無勢だった。
「よし! とりあえず撃退できたな」
「よかった~」
無事撃退できたことを祝ってると――
「コウさん!」
「ん?」
いきなりもちこさんが俺の手を握り話始めた。
「も、もちこさん?」
もちろん俺は動揺する。
「本当にごめんなさい! 私が役に立たないばかりに!」
涙を流しながら俺に懺悔している。
ゲームとはいえ、目の前の人を見捨てるのは心が痛んだのだろう。
VRゲームのいいところでもあり、痒いところでもある。
「もちこさん気にしないで。適材適所があっただけの話だから」
「でも!」
「こっちに応援に駆けつけてリンドウさんたちも助かったと思うよ?」
「ああ、間違いない。もちこが来てくれたから倒す算段がついたしな。あの乱入がなければ確実に倒せなかっただろう」
リーダーとしての風格も出てきたリンドウも俺の考えに賛同する。
「はい」
理解はしたようだが、納得はできていないような返事が返ってくる。
「おいで。皆頑張ったんだからそれでいいんだよ?」
ダナさんがもちこさんを抱きしめる。
もちこさんが落ち着つくのをみんなで待ち、休憩を兼ね作戦会議を始めた。