第1話「【禁忌の森】」
世界はいつだって、理不尽だ。
人里離れた場所、そこにその森は存在した。
木々が高くそびえ立ち、日の光すら通さないその森は、さながら常に夜のようであった。
人々はそんな森を口を揃えてこう呼ぶ
曰く、【禁忌の森】と。
人間は愚か、魔力を持たない生物が入ると100歩と持たないうちに骨と化す瘴気に、その瘴気に当てられ独自の進化を遂げた【禁忌種】と呼ばれる通常種とは異なる、凶暴性の増した動植物が森を埋めつくしている。
そのため、腕に自身のあった冒険者たちですら、誰一人として生きて戻ることは無かったのだ。
今となっては、余程の愚か者ではない限り【禁忌の森】に近づこうとする者はいない。
しかし、その森の中に何故か二人の影があった。
その影は男と女の人間で、女の手元には布で何かを覆ったような物があった。
その二人は泣いていた。皮膚はだんだんと黒ずんでいく、瘴気による侵食だ。
それでも、女は手に持った布を大事そうに抱え込んでいた。
失わないように、二度と離れないように……
だが、二人の身体は遂にボロボロとなり、そこには二人の骨と女の抱えていた布だけが残った。
すると、布の隙間からは光が漏れ出てきた。
女が朽ち果てる間際、布が少しズレたようだ。
この森は闇に覆われている。その中で光を放つのだから、魔獣や魔物は一目散に光へと向かってきた。
しかし……何故かその布の周り一帯にだけ、魔物の影が近づくことは無かった。
砂漠に現れたオアシスのように、はたまた大海原に現れた島のように。
まるで、その場所の時間を止めたかのように……。