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4.ミトカ0(念話バージョン)

 はっと気が付き、史郎は目を開けた。全天青空の下、何かひんやりと冷たいものの上に寝ているのを肌で感じて、彼は上半身を起こした。

 史郎は急いで自分の状態を確認する。特に体に異常はないようだが頭が重いな、と彼は感じた。

 

 ――なにか()()()()()()()()()ような感じだな。女神様と会話したのが遠い昔のように感じる……。転移は意外と難しいのだろうか? と、史郎は自問した。


 自分の体を見てみると、服装がファンタジーゲームの冒険者風のものに変わっていることに気づいた。革でできたように見える靴に、カーキズボンに革のベルト、綿のシャツという簡素な服装だ。一応下着も着けている。


 史郎は、大理石のような白い石でできた地面の上に横になっていた。周りには、ギリシャ建築のような石の柱で囲まれており、ほかには何もない。

 石の柱の間から景色が広がる。一方には森が広がっているのが見え、反対側には岩山と川が流れているのが見える。

 そして、どこからか滝の水音が聞こえる。うるさいというほどではなく、心地良く何か人を落ち着かせる音だ。

 

 わずかなそよ風のようなものを肌で感じられる。風に含まれるほのかな水や草や木の匂い、心地良い少し涼しげな気温、すべての感覚が、これは現実なのだと思わせるほどのリアルさを持っている。


 ――ああ、本当に異世界に来たのだな。地球の現代科学技術でのVRなんかではとうてい到達できないレベルの現実感だな。

 

 史郎は心からそう思いながら、ここに来て良かったと心底思い、驚くやらあきれるやらと苦笑する。


 すると、突然、

 

『おはようございます、史郎』


 と、史郎の頭の中に、声が聞こえた。聴覚とは違う、しかし、明らかに自らの思考とは異なる思念。

 女性とも男性ともとれるような中性的な響き。

 そして、なにか聞き覚えのある声。史郎はハッとする。


「ミトカか⁉」

『はい、そうです。史郎の頭の中に直接話しかけています』

「直接脳内で会話ができるのか?!」

『はい』

 テレパシー、いや、念話ってやつか? と、史郎は考えた。


 想像でいろいろ理解していたつもりだが、いざ実際にそれを体験すると戸惑うものだなと、史郎は驚きを隠せない。


『史郎が気付くしばらく前に、私の意識・自我が覚醒しました。史郎の作ったフィルディ・システムでのことは、何か昔の記憶の様に感じられますが、きちんと存在します。その上で新しい知識がインストールされ、かつ「自我」が確立したようです』


 フィルミアは、史郎に説明したとおりにミトカにも一つの人格を与えた。それによって、喋り方がより自然になり、感情の抑揚とそれに伴う発声の自然さが感じられるようになったのだ。史郎はそう考え、


「そうか。最初ミトカの声とはわからなかったよ。俺が作ったAIの完成度では、ここまでは自然なイントネーションでの会話はできなかったはずだからな。それで新しい知識というのはこの世界の情報のことか?」

『はい、そうです。この世界の常識・地理・歴史などの情報です。あと、この世界の魔法・神魔術、そして世界開発環境などの情報もあるようです。史郎の作った設計書や資料などもすべてそろっていますよ』


 フィルミアが言ったように、電子情報は無事に持って来ることができたことと、当面はミトカを頼ればよさそうなことに、史郎は少し安心した。

 一人ではなく、だれか頼れる相手がいるのは心強いと思ったのだ。


「了解。とりあえず、ここはどこかわかるか?」


『はい。この世界で、魔の大樹海と呼ばれている広大な森の奥地にある聖域です。そして、ここは石舞台、一応神殿と呼ばれている設備です。本来、魔の大樹海は凶悪な魔獣(まじゅう)がいるのですが、この場所は強力な結界が張られていて、安全地帯になっています。水も食料となる果実もあるので、当面の生活は可能と思われます』


「ということは、しばらくはこの場所でスキルの考察などして準備だな。人のいる街まで行くにしても、森を抜けないといけないみたいだし、魔獣(まじゅう)に対抗できる手段がなきゃ、あっという間に死んでしまいそうだ」

『そうですね』

「ところで、今何時くらい?」

『地球時間で言うと、朝の7時です。ちなみにこの世界の標準時間システムはデシマル制ですね。一日は10時間で、1時間は100分です』


「おお、それはまた大ざっぱというか、合理的というか、慣れるのに大変そうだな」と史郎は驚き戸惑った。

 デシマル制は合理的ではあるが、地球でもまったくもって使われていない。60進法の歴史の重みには勝てないのだ。


「とにかく、ミトカ、新しい人格としての誕生おめでとう。そしてこれからのサバイバルのサポートよろしく!」

『はい、史郎。こちらこそよろしくお願いします』


 ミトカとこんなに自然に話ができるとは感慨深いな、と史郎は思った。


 史郎がミトカと初めて会話をした、いや、会話できるようにまで作りこんだのは、彼がまだ中学生の頃。史郎はそれからずっと改良を重ね、知識を与えつづけたのだ。

 それがとうとう人格まで得られることになり、異世界へ来たいちばんの収穫かもしれないな、と史郎は少し感動したのだった。


「さて、とりあえずは当面の生活手段の確保と、スキルの確認かな?」

 そう思い、まずは立ち上がって周りの様子を確認することにする。



 

 史郎がはじめに意識を取り戻したこの場所は、直径20メートルほどの大理石のような石でできた石の床だ。その床には魔法陣のようなものが金色の金属で描かれている。


 外縁部には高さ4メートルほどの石の柱が3メートルほどの等間隔で並んでいる。その外縁部まで歩いていくと、その先は崖になっていて、この場所は2メートルほど盛り上がった巨大岩石の上にあることが分かった。


 ――なるほど、なので石舞台か、と史郎は納得した。


 高さがあるせいか、周囲の見晴らしは良い。見渡す限り森が見え、遥か遠くには雪を載せた標高の高い山脈で囲まれている。


 史郎は周りを歩いてみた。スロープがある場所があり、そこから地面のほうへ降りられるようになっている。降りた先には、一抱えほどもある大きさのごつごつした岩がたくさんあちこちに転がっている、草がおい茂る平地で、東方面、南方面、それぞれに100メートルほど先で森が始まるのが見えた。


「今は朝ということで、日のあるほうを東と仮定していいのかな?」

『はい、そのとおりです。フィルディアーナは惑星として、地球とほぼ同じと考えて問題ないかと思います。大気組成はほぼ同じ、やや酸素の割合が少ないですね。生物のDNAは地球の物と互換性があるようです』


 まあ呼吸ができているし、大丈夫だなと史郎は苦笑した。


『惑星の直径は地球よりやや小さく、でも、質量はやや大きいため、重力はほぼ1Gです。太陽からの距離は、地球に比べるとやや外側。公転の向き、自転の向きは同じです。太陽日は地球時間換算でいうと26時間くらいでやや遅いですね。公転周期は、地球時間ユリウス日で約393日です。現地時間太陽日約363日ですね』


 要は、この世界で、南中から南中までを1日として、この惑星上では363日でこの世界の太陽の周りを一周するわけだ。やたら詳しい情報だしなんかファンタジーっぽくないなと思いつつ、続きを聞く史郎。


『なお、月は三つあります。地球と同じような月と、もう二つの小さい月です。その二つは火星の月のようなものですね。自転軸の傾きは地球よりわずかに小さいです。地磁気は存在し、その方向はほぼ自転軸に一致しています』とミトカ。


「おー、わ、わかった……。ありがとう。ミトカ」

 突然の情報量に、史郎は少し圧倒された。

 ――しかし、月が三つか……。夜が楽しみだな

 と、天文ファンの血が騒ぐ史郎であった。



―――――――――― 

注1)

 軌道半径がa=1.05(AU)、この世界の太陽と惑星の質量がほぼ同じと仮定して、公転周期は T=sqrt(a^3)=sqrt(1.157625)= 1.076(ユリウス年)=33955977.6秒=393.009(ユリウス日)(ユリウス年は31 557 600秒=365.25 d(d = 86 400秒))

フィルディアーナの一日は、地球時間で26*60*60=93600秒

なので、フィルディアーナの一年は

33955977.6秒/93600秒 = 362.7775


注2)

24時間制、対、10時間制 一覧

24時間制:10時間制

0:0.00

1:0.42

2:0.83

3:1.25

4:1.67

5:2.08

6:2.50

7:2.92

8:3.33

9:3.75

10:4.17

11:4.58

12:5.00

13:5.42

14:5.83

15:6.25

16:6.67

17:7.08

18:7.50

19:7.92

20:8.33

21:8.75

22:9.17

23:9.58

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